所持する音楽データに対する私利私欲...イヤ私情私見あふれるコメント、音楽の杜。こういった分野のものは「好み」ですし、優劣を付けるのもそぐわない気がしますので、満足度の☆はあくまで私的な思い入れです。20世紀後半から、音を創り出せるシンセサイザーや、あらゆる音を「録音」して加工発音させるサンプラーなど電子楽器の発展で、「出せない音はない」と言われた時期もありました。しかし、未だに「生」の楽器の表現力の深さには届くことが出来ません。そんな「深い」音を奏でる楽器の使い手の作品をご紹介します。
溝口肇、チェリスト。今でこそチェリストといえば、ヨーヨー・マ(馬友友)やLuka ŠulićとStjepan Hauserによるデュオ=2CELLOS、日本でもイケメンチェリスト宮田大などの活躍や露出で「メジャーな」楽器となってきたが、以前は弦楽器と言えばヴァイオリンで、やや地味な存在だった。それをメジャーな存在へと上らせるひとつの要素は、彼が自身で出演したタバコ(Peace LIGHTS BOX)のCFだったと思う。
蒼い色調の映像の中で、紫煙をくゆらせながらゆっくりとチェロを奏でる溝口は、当時まだデビュー直後だったが「オトナ」の雰囲気を醸し出していた。
そんなCF曲を含んだ彼の2ndアルバムが、本作“水の中のオアシス”。
有名なあのCF曲だけでなく、プレイもアレンジも全体としてコーディネイトされていて、芯の通った「溝口ワールド」が堪能できる作品。溝口の最高傑作に推すファンも未だに多い。
「図書館音楽」。打ち込みの単調なリズムと、4分音符で淡々と鳴るピアノを弾くのはMISIAのツアーでバンマスを務めている重実徹。早川哲也のベースで下支えする曲の上でなめらかに溝口のチェロが歌う。後半を盛り上げるのはマルチプレイヤー清水一登のマリンバ。エキセントリックなメロディラインと短調か長調かはっきりしない曲調。でも、始まりから終わりに向けて、らせん状に明るさを伸していく造りで、徐々に希望に満ちてくる感じだ。
「P・e・a・c・e」は、「世界の車窓から」と並んで溝口の音楽で世間の人に識られているものと思われる曲。自身の出演したタバコCFで流れた朗々と鳴るチェロの響きが印象的な曲。キーボードは溝口自身で、早川のウッベが下を支える。クラシック調のメロディと大部分独奏に近い説得力の高い調べが心に残る。余談だがPeace LIGHTSのCF曲には秀逸なものが多く、天野清継の「Azure」や古澤巌の「Choro Indigo」など、印象に残るものが多かった。
「Bruce」は、インナースリーブでは「Bruce・For・Fowler」と副題がつく、Frank Zappaの楽曲への参加で名高いトロンボーン奏者Bruce Fowlerに捧げられた曲。それ故向井滋春がトロンボーンとして加わるのはわかるが、他に目立つのはシロフォンの清水一登で、溝口自身は弾いているところを探すのが大変という位しか登場しない。このアルバムは溝口自身のプロデュースなので、曲の構成上必要ない、と言うことなのかも知れないが、チェロプレイヤーのインストソロアルバムで、チェロが主役でないのは斬新すぎる。
このあと溝口は、最大の出世作ともいえる「世界の車窓から」を創り、タバコ広告の禁止もあって、溝口と言えば...の代表作はそちらになっていくのだが、最初期の代表作と言えばやはりこのアルバムに収められている「P・e・a・c・e」。一時期よく聴いたな...
リリース後30年以上の時を経ても色あせない、溝口の創る世界観が素晴らしい作品です。
【収録曲】
1. 図書館音楽
2. 摩天楼と恐竜
3. パノラマ
4. P・e・a・c・e
5. 笑う島
6. 夏時間
7. Bruce
8. 窓の下の南極
9. ゲルニカ
10. 帰水空間
「P・e・a・c・e」使用の“Peace LIGHTS”のCF
「P・e・a・c・e」はココの30分34秒~にもあります
深いチェロの音色と、コンテンポラリーな音やメロディの融合がよい
打ち込みのリズムマシンやシンセ系の音色と、溝口のチェロをはじめとする生楽器系の奏でる、ロマンチックでモダンなメロディのバランスが素晴らしい。
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購入金額
3,200円
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購入日
1987年頃
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購入場所
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