所持する音楽データに対する私利私欲...イヤ私情私見あふれるコメント、音楽の杜。こういった分野のものは「好み」ですし、優劣を付けるのもそぐわない気がしますので、満足度の☆はあくまで私的な思い入れです。変拍子。プログレッシヴロックなどで多用されますが、アニメの主題歌にも使われたこともあり、すごく稀なものではありません。しかし、それを構えることなく、さらりと演れるプレイヤーは多くありません。そんなことを難なくこなす凄腕プレイヤーたちの作品をご紹介します。
川口千里。女性ドラマー...というか「女性」とわざわざ謳うのが失礼なほどの凄腕ドラマー。小学生のころ、師の菅沼孝三が参加するジャズ~フュージョンユニットfragile(他メンパーは矢堀孝一、水野 ‘妖怪’ 正敏)と共演し、話題をさらい、その後アニメ作品などの「叩いてみた」動画で一躍世界中の注目を集める(↓一例)。
高校在学中の2013年には1stアルバム“A LA MODE”
をリリース、衝撃的なデビューを飾る。続く2014年には2ndアルバム“Buena Vista”
をリリースし、そのほかにもCASIOPEA 3rdのキーボーディスト大高清美とのユニット「KIYO*SEN」をスタートさせ、コンスタントに作品を届けている。
本作“CIDER 〜Hard & Sweet〜”は、そんな彼女の3rdアルバムにして、メジャーデビューアルバム。
インディーズ扱いだった前2作は、もともと親交のある水野正敏と矢堀孝一のみならず、増崎孝司や小野塚晃、安部潤、田中晋吾に山本恭司!といった日本フュージョン界やヘヴィメタル界で有数のメンバーに加え、超絶技巧ベーシストBrian Bromberg、David FosterやBabyface、Quincy Jonesといった名プロデューサーから絶大な信頼を置かれるギタリストMichael Thompsonら様々なミュージシャンのサポートを受けていたが、今回はあえてメンバー固定のトリオ構成で挑む。
メンバーは、名プロデューサーかつ凄腕キーボーディストのPhilippe Saisseと、彼が声をかけたベーシストArmand Sabal-Lecco(あと数曲でパーカッション担当としてGumbi Ortizが加わる)。いずれも、ものすごく高度なテクニックを持つプレイヤーだが、それを押し立てていく...というよりは曲のグルーヴを大切にしたアプローチ。
まず、最初の「FLUX CAPACITOR」がものすごい。その「足りなさ」感から、変拍子であることは一目瞭然(一聴?)なのだが、まったく大変そうで「ない」感じで、あまりにするすると曲が進むのと、拍子自体も一定でなく曲のパートごとに異なる複雑なものなので、拍子がつかめない。テーマの大部分は11拍子(11/8)。展開部には4/4と3/4の複合リズムもある(表記的には14/8の方が良いのか?)。これだけ複雑なリズムなのに、きちんと曲として聴こえるのがすばらしい。どこが「頭」なのかを明確に提示するのが、ステディなArmandのベース。でも指弾き中心のソロでは最初の導入からリズムが激しくなる後半に掛けて物語性のある展開。PhilippeのワウがかかったようなRhodesソロもさすがのセンス。千里ちゃんの躍動感あふれるプレイが楽しめるラス前のフレーズがスリリング。千里ちゃんの良さのひとつはタム回しの時の絶妙な音量コントロール。「タタタタタタタタ」と等間隔で刻む場合も「タタタタタタタタ」と平坦に叩くのではなく、「タタタタタタタタ」などと抑揚をつけてプレイ。それが曲にスピード感を与えている。ハイハットプレイの小技も素晴らしく、聴きどころいっぱい。
「Do Do Ré Mi」は、COOLなジャズ。出だしはランニングベース+4ビートのシンバルレガート(いわゆる♪チーンチッキ、チーンチッキ♪というヤツ)なので正統派ジャズ?と思わせるが、そんなリスナーを置いてきぼりにする、キメを各所に配した曲調が斬新。(ベーシストはいるので語弊はあるが)ピアノのPhilippeと千里ちゃんの一騎打ち?という感じ。ピアノとベースがキメキメのフレーズで支える中、千里ちゃんのオンビートソロも凄まじい。
ラストの「In Three Ways」は、複数の変拍子の曲や、千里ちゃんの全力プレイを中心に構成されたこの作品を「〆る」のにすごく合った曲。スチールドラムのようなマリンバのような音で、カリブな陽気なテイストを出し、ヴォコーダーによる親しみやすいメロディラインがそれに乗る。曲構成もテーマ展開からスラップも含んだベースソロ⇒ピアノソロ⇒オンビートドラムソロときて、テーマに戻って終わり、と奇をてらうことがなく、「濃い料理」ばかりだったこの作品のラストを上手くまとめている。最近単曲切り出しのダウンロード購入が優勢になりつつあるけれど、「アルバムの曲順の妙」を感じた曲でもある。
今までの作品と比べると、メンツが固定のためか、曲の幅としてはやや「狭い」感じにはあるけれど、アルバムのカラーとしては統一感があってむしろ好ましい。
多人数がかかわると、顔を合わせないメンツも出てくるようだが、3人一緒にプレイしたみたい
タイトル通り(CIDER)爽やかかどうかはワカランけどw
レコーディングはメイプルのドラムスを使用したが、ジャケはSurf Greenのバーチのドラムセット
2016年の作品なので、そろそろ「次」が欲しくなってきましたよ、千里ちゃん!
【収録曲】
1. FLUX CAPACITOR
2. Wupatki
3. Longing Skyline
4. Do Do Ré Mi
5. Am Stram Gram
6. ZEMBLA
7. Tucheze
8. Ginza Blues ~Intro~
9. Ginza Blues
10. Park Moderne
11. Senri and Armand Groove
12. In Three Ways
「FLUX CAPACITOR」↓ゆるいサムネとスリリングな中身の落差が凄すぎるw
メジャーアルバムらしく、「脅かし」系が少なく、楽器プレイヤーでなくとも楽しめる
超絶テクニシャンであるミュージシャンが作品を造ると、一般的なリスナーには受け入れがたい難解なものができあがったりすることもあるが、全くそんなことはない。
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購入金額
3,240円
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購入日
2017年06月17日
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購入場所
TOWER RECORDS
北のラブリエさん
2019/07/22
欲が出るw
cybercatさん
2019/07/23