切ない運命なのに、受け止めてなお力強い一歩を踏み出して生きていく。そんな決心ができるヒロインを描ききるのが宮本輝。
小説や漫画、映画、アニメといった作品の面白さは、主人公はもちろんだが、脇役の魅力的な活躍で決定すると思っている。
結核で18年間入院していた主人公「志穂子」は病気という大きなハンデを背負って、マイナスからのスタートを強いられている。雲を見て、病院内の自分と周囲の人達のこれからを悲観的に考えて生きてきた。
現実社会でこういう状況の人たちはいつも言う。
「自分はもうどうでもいいけれども、応援してくれた家族に申し訳ない。だから生きている」
志穂子の病気が快方に向かい、退院できた理由は一通の手紙を受け取ったことだった。スペインのロカ岬の絵葉書「ここに地終わり海始まる」。自分に対する恋心が伺える絵葉書をもらって、志穂子は生きる活力を手に入れた。手紙を出した「克也」本人に会いに行くところから物語はスタートした。
一方でもうひとりの主人公(だと思っている)克也は、自分の過去を精算して生きていかなければならない。ミュージシャンであった自分の過去、メンバーの元彼女のこれからの人生、そして今置かれているヒモっぽい生活をなんとか精算したいと思っている。
この二人が出会って、すれ違い、そしてまためぐりあう過程にはたくさんの魅力的な脇役が出現する。もっとも魅力的な脇役は、志穂子の父親だ。
大切な宝物である、娘の志穂子に静かに相対する姿勢と、時折こみ上げる不憫だ嘆く思い、幸せを願ってやまない親心に、読者は皆、胸を打たれることでしょう。
実は父親が主人公なんだろうなって思う、そんな作品です。
上巻では、志穂子はこれからを生きることに怯えつつも一歩を踏み出し、克也は過去を精算するために憂鬱になっている。下巻で見せる二人の運命の交錯に期待です。
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購入金額
500円
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購入日
2019年01月25日
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購入場所
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