レビューメディア「ジグソー」

このグループは、フュージョンと言うより、インストロックと呼びたい

所持する音楽データに対する私利私欲...イヤ私情私見あふれるコメント、音楽の杜。こういった分野のものは「好み」ですし、優劣を付けるのもそぐわない気がしますので、満足度の☆はあくまで私的な思い入れです。ジャンルというものはアーティスト自ら名乗るより、周りが付けるモノのような気がします。ただそれが「レッテル」となって、活動がしづらくなってしまう場合もあります。世のフュージョンブームの中にありながら特異な立ち位置を貫き通したグループの初期の名盤をご紹介します。

 

PRISM。現在も活動を続けている彼らではあるが、フュージョンブームも過ぎて久しいので、今となってはこのグループを識っているのはかなりのクロウト筋?しかし、フュージョンブーム初期...というかクロスオーバー界隈ではカルト的人気を誇ったグループ。

 

フュージョン、とはジャンル的におおざっぱにいうとジャズとロックの中間のような音楽を指すが、同じような立ち位置にジャズ・ロックとかクロスオーバーというジャンルもあった。いずれもジャズとロックの配合のさじ加減が少しずつ違い、その元となる「ジャズ」もスタンダードジャズに近いようなものから、ジャズ理論を応用したヴォイシング、というだけで曲調的にはジャズっぽさのカケラもないようなものまであったし、「ロック」の方もハードロックあり、アメリカンロックあり、ポップロックありと様々で、その「素材」と「混ぜ方」、さらにそれにラテンやブラジリアンなどのスパイスの効かせ方で色々なグループが出来上がった。

 

日本では最終的に、メンバーの高度な演奏技術をバックボーンに持ちながらも、比較的明快なロックビートが強いハードめな曲調で、覚えやすいメロディを持った「ジャパニーズフュージョン」に収束していくが、初期のジャンルの形がまだ定まらない混沌としていた時代に、ひときわプログレッシヴロック~ブラジリアン系の色の濃い珍しいアプローチをして異彩を放ったのが、PRISM。

 

PRISMは、現在も在籍する唯一のオリジナルメンバー、ギタリストの和田アキラを中心に組まれたグループで。彼がJeff Beckのインストアルバム“Blow by Blow”に強い影響を受けて結成したのがPRISMだといわれる。

 

1st

の頃は、比較的軽めタッチの曲が多く、メンバーもツインギター、ツインキーボードの大所帯(6人構成)だったが、この3rdアルバムからシェイプアップが始まる。

 

まず、和田とツインギターを構成していた森園勝敏が抜け、ツインキーボードのカタワレ、久米大作も抜けて伊藤幸毅だけが残った。一方リズム隊は変更なく、ベースは渡辺建でドラムスは鈴木"リカ"徹。そしてこのアルバムより、ヴォーカリスト(兼パーカッショニスト)として佐藤康和をくわえたが、他のフュージョン系バンドと異なり、ジャズヴォーカル系ではなく、プログレ系の歌い方のヴォーカリストというのが特徴。

 

そんな5人編成時のPRISMによる3rdアルバムが本作。プログレ系バンド四人囃子にいた森園が抜けた後の方がプログレ色が強いというのも妙な感じだが、やりたいことが固まってきた、という事だろうか。

 

1曲目は佐藤が創った効果音というかパーカッションソロというかと言った風情の小曲「Echoes」と、同じく佐藤による鳥の鳴き声を模した音を中心としたSE曲「Promised Island」に挟まれて、和田の作曲で比較的キャッチーな「VIRGO-9」。まぁキャッチーとは言っても、変拍子風のキメや4小節区切りを基本と「しない」曲の構成と、渡辺のフレットレスベースの独特の音が、どうしようもなくPRISMだが。

 

つづく「LIVING FOR THE DAYLIGHT」は、渡辺の筆ながら爽やかなギターのカッティングで、「まるでフュージョンみたい」に始まり、伊藤のオルガンソロは爽やかだが、....それだけで終わるはずもなく。和田は結構弾きまくり!2度に渡るソロ、特にアウトロのソロが結構キテるナー...。ちなみに所々で聞こえるピアノは前メンバーの久米によるもの(久米はこの作品では「ゲストプレイヤー」として結構かかわっている)。

 

ドラムレスで、和田のギターのアルペジオと、たっぷり残響を効かせた渡辺のフレットレスベース、伊藤やゲストの久米による幻想的なキーボードに乗せて、ふわふわとした旋律がハッキリとしない佐藤のヴォーカルが加わるのがラストの「WHITE SPRING」。これはサビも明確ではなく、まさにプログレアルバムに収められているような小品。

 

まだこの「初期」はクロスオーバー色が強く、全体的にライトめ。ただ時々プログレ色が強く出てしまうのが彼等ならでは。cybercat的にはこの後4人構成になってヘヴィな音になり、

ついには和田+渡辺のユニットになって一段とプログレへと突き進んだあたり

が最も好きなので、まだ「物足りない」が、一般的にはこの作品のあたりが、まだフュージョンの範疇にありながらプログレスパイスが利いていて、それがその頃あまたいたフュージョングループの中で、彼等の明確な特色となっていて支持が高い。

 

でも改めて聴いてみると、彼等のやりたかったのは、もっとロック寄りの音楽ではないかなというのが感じられる。ヴォーカルレスであったため、たまたまフュージョンジャンルに入れられてた、ということではないかと。

 

そういう意味では「ジャンル分け」にこだわりすぎると、逆に本質が見えて来なくなる作品です。

何度かのCD再発があるが、テンポが変わっているクソなのがあるので要注意
何度かのCD再発があるが、テンポが変わっているクソなのがあるので要注意

 

*本作、元々はアナログレコードでリリースされたが、後にCD化されている(この登録品もCD)。何度か再発され、最近のは追加トラックも入っているようだが、2003年のUniversal盤(UPGH-1004)は絶対に購入しないように。デジタルリマスター時にテンポが狂っており、妙に間延びしている(再生速度が遅い)。この初回CD化のPolydor盤(H28P-20269)はそんなことはないが。

 

【収録曲】

1. Echoes~VIRGO-9~Promised Island
2. LIVING FOR THE DAYLIGHT
3. MY LITTLE TRICK
4. SUNRISE CRUISE
5. MEMORIES OF YOU~WHEN YOU WERE GONE
6. NIGHT PICNIC~Floating Desert
7. SUNSHINE LADY
8. 風神
9. WHITE SPRING

 

「LIVING FOR THE DAYLIGHT」

更新: 2018/07/29
必聴度

ジャジィなPRISMも、ロックなPRISMも味わえる。

後にもっとヘヴィな方向性へと突き進むPRISMの、ライトな部分も聴くことができる。

一粒で二度美味しい。

  • 購入金額

    2,800円

  • 購入日

    1988年頃

  • 購入場所

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