MALTAこと丸田良昭。サックスプレイヤーで、フュージョンブームの後期に出てきたが、その根はジャズ。バークリー音楽大学を首席卒業した後そのままそこの講師を務めたり、1979年から数年間は在りし日のLionel Hamptonの楽団でリード・アルト兼コンサートマスターを務めたりしたほどの正統派。
しかし日本でのデビュー時は非常にポップでキャッチ―でコマーシャルな作風で識られた。テクニックがないのではなく、あえてそれを隠しての平易な感じの演奏は、フュージョンブームの後期に多くのプレイヤー/グループがテクニック至上主義で曲のキメやシカケなど演奏技法で魅せる方向一直線といった方向性を採る中新鮮で、親しみやすく耳触りの良いメロディもあいまって、よく天気予報やスポット番組のBGMに使われた。
そんな彼の5枚のオリジナルアルバムリリース後の初のベストアルバム。
ただ「普通の」ベストアルバムではなく、その時点までの彼の5枚のアルバムからバラード系の楽曲を集めた作品集となっている。正統ジャズ畑にいたわりには?、その時代の最新機材を使うことに抵抗がなかった彼は、デジタルでビートの効いた作品も多く、キャッチ―でインパクトのあるノリの良い曲も多数持っていたのだが、あえてそれらを捨て、メロウな楽曲を集めてきた。そういう意味では正確にはコンピレーションアルバムか。
「EVENING CALM」はMALTAのデビューアルバムから。メロウで覚えやすく、それでいていわゆる「ジャパニーズフュージョン」よりジャズ寄りのアプローチ。MALTAの表現力あふれるブレスの強弱が「最も人声に近い楽器」=サキソフォーンに吹き込まれて語りかけられているよう。なんと言っても彼の特徴はブレスノイズが少なくアタックが柔らかい音色と淀みない運指。それはこういう曲でこそ光る。中間部の流れるような、そして時に揺蕩うような野力奏一のエレピソロと、ギター界の伝説=故Eric Galeの歌心溢れるギターソロとその音色が美しい。
基本明るめの曲が多いMALTAだが、物悲しい泣きのサックスプレイが聴かれるのが「MANHATTAN IN BLUE」。微妙な音程から入ってブルージィな感じを醸し出しながら切々と歌うようにブロウ。ただこの曲のキモは名手松木恒秀のミュートリズムギターかな。イントロはヴァイオリン奏法、短い中間部のソロはまるでベースか、というような低いところから音域を広く使って説得力がある。
スネア一発聴いただけで叩いている人が判ってしまう「MOON FLOWER」ではMALTAはソプラノサックスを吹く。そのドラムスは今は亡きALEX、青山純。その重いスネアと絡みつつ、特に中間のソロでは軽やかに駆け抜けるピアノを弾くのはミッキー吉野。透き通ったMALTAのソプラノがとてつもなく優しい。
たぶん彼のやりたかった「芯の部分」はこういったジャズ寄りのフィールドで、事実このあとスタンダード集や「ド」ジャズの作品もリリースしている。ただ「プロであるからには売れなくてはならない」「売れないと自分の好きな音楽もできない」という考えは彼の信念としてあったようで、特に初期はキャッチ―で覚えやすいものが多い。そうした曲調の中でも、自分の本流?を垣間見せた作品。ビートが効いてノリノリのMALTAもいいけれど、こういった沁みる曲たちを初ベストに持ってきたところに彼の信念を感じます。
【収録曲】
1. EVENING CALM *
2. THE ONLY NAME MISSING IS... @@
3. ALWAYS YOU **
4. SUNSET IN MY HEART **
5. SECRET ISLAND @@
6. COOL SHADOW @
7. MANHATTAN IN BLUE **
8. A LETTER FROM SEPTEMBER ***
9. SUNSHINE STREET ***
10. MOON FLOWER @
11. OCEAN SIDE ***
12. AUTUMN PLACE **
13. STARDUST **
14. BE MINE *
-初出オリジナルアルバム-
*:1st Album “MALTA”、**:2nd Album “SWEET MAGIC”、
***:3rd Album “SUMMER DREAMIN’”、
@:4th Album “SPARKLING”、@@:5th Album “HIGH PRESSURE”
「EVENING CALM」
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購入金額
1,888円
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購入日
1995年頃
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購入場所
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