これはノリタケ伊勢電子の蛍光表示管の技術を応用し、KORGと共同開発した、低電圧で動く双三極管(直熱管)です。去る9月23日に発売されました。購入は、秋葉原の秋月電子、大阪日本橋の共立電子(シリコンハウス、デジット)、通信販売(スイッチサイエンスやKORG直売)で行えます。
普通、真空管といえば200Vや300Vといった「殺傷力のある」プレート電圧が必要ですが(YAHAアンプや0dB HyCAAアンプなどは例外として)、そのような「普通のプレート電圧」を使うことなく、5V電源で手軽に使える真空管です。
まさに「現代によみがえった真空管」といえるでしょう。
従来の真空管と違い、かつて電卓で使われていた多桁管やノリタケのキャラクタVFD、グラフィックVFDと同様の平たい形状をしています。ミニチュア管(戦後主流になった真空管の形状。0dB HyCAAで使用した12AU7はミニチュア管)と比べコンパクトな形状です。
また、ほとんどの真空管が傍熱管であるのとは対照的に、Nutubeは電力の効率で有利な直熱管となっています(初期の直熱管にも暖機時間が短いというメリットがありました)。直熱管は使い方が固定バイアスのカソード接地に限られますが、発熱が少なく、寿命も公称3万時間と長くなっています。
左がmT管(12AU7)、右がNutube(変換基板に実装したところ)
ノリタケのVFD製品と同様、三重県の同社工場で生産されている国産管です。
ノリタケのVFDは国内生産。Nutubeも当然 Made in Japan だ
早速試聴……といきたいところですが、購入したのはあくまでも真空管という素子です。これを使ってアンプ回路を組む必要がありますが、残念ながら私は真空管に馴染みがありません(但し電子工作の経験は1年半くらいありますし、半導体オペアンプには馴染みがありますが)。
また、本体から出ているピンは一般的に電子工作で使われる2.54mmピッチではなく2mmピッチなので、ユニバーサル基板などで使うには変換基板が必要です。1列20ピンの変換基板は一部の電子部品店にはありますが、今回は最近共立電子から発売された専用変換基板を使用しました。
試聴用の回路は、Nutube公式サイトの使用ガイドやデータシートに掲載されている「1段増幅回路の例」が参考になります。今回の試聴ではこの回路とほぼ同じものを使用しましたが、「レギュレーターが3.3Vではなく3.0Vである」「出力バッファがFETシングルではなくオペアンプのボルテージフォロワである」「入力コンデンサの前にボリュームを付けている」という違いがあります。
ノリタケのVFDと同様内部に蛍光体があり、使用中は青緑色に光ります。ただ、今回は6V(乾電池4本)駆動なので蛍光部分の一部(フィラメント周辺)だけが光っています。普通の真空管ではヒーターを赤熱させて使いますが、Nutubeのフィラメントは赤熱すると切れます。
そうならないような定格は0.7Vが指定されており、電流は17mAです。オームの法則によりフィラメントそれ自身は41Ωの抵抗とみなせるため、抵抗分圧でフィラメントの両端間の電位差が0.7Vになるようにします。電池駆動の場合は、3端子レギュレータを併用します。ロードロップ3.3Vのものを使用しましょう(今回は電流に余裕のある3.0Vのものを使用しています)。
音質は真空管ならではの空気感があります。NJM4556Aをバッファに使った場合、真空管らしいウォームな印象のサウンドで、アノード電圧が6V以上のときはうまくいくようですが、NJM4556Aはバイポーラ入力なのでアノード電圧が低い(5V付近)と音が小さくなり低域がカットされます。
様々な要素を勘案すると、5V駆動でオペアンプバッファする場合はOPA2350がおすすめです。CMOS構成なので入力インピーダンスが高く、出力電流も十分出て、音質面でもおすすめできるからです。
その他には、オーディオ用パワーMOSFETや専用のバッファICなどを使う方法も考えられます。シミュレーション上、BUF634の成績が良好でした。実際に購入して視聴してみましたが(後述のポータブルアンプ)、こちらでも真空管らしいウォームな音質が楽しめました。
KORGが使用例として掲載している回路ではJFETのソースフォロワでバッファしているようですが、JFETのソースフォロワでは電流が足りないかもしれません。それでも、さらにバッファを接続するには十分な電流があります。
ポータブルアンプにしてみた
今回はポータブルアンプとして使うため、シャーシに入れてみました。基板の裏に回路を実装したり、電池ボックスの下にも回路があったり、結構無理やり押し込んだ感じです。それでも、ポータブルアンプが作れるくらい小さいのは大きな特長です。mT管を使うYAHAアンプを持ち歩くのは難しいでしょう(12Vの電源をどうするかが問題ですし、大きさも問題ですし、何より発熱が問題です)。
今回使用したシャーシはタカチのSW-125です……が、これはプラスチック(ABS樹脂)なのでそのままでは携帯電話の電磁ノイズが盛大に入ります。アルミシャーシの加工ができるならばぜひアルミシャーシを使うべきです(私はABS樹脂しかやったことないし粉塵が心配なのでちょっと……)。
シャーシ内に実装したところ。但しプラシャーシは良くない。単3電池は意外と大きいことがわかる
アルミシャーシを使えなければ、アルミシールドテープを丁寧に貼るとノイズを拾わなくなる
電池は意外と大きく、大きさと容量のトレードオフになりますが、結局9Vの電池を使うことにしました。単3電池を前提に作った名残でスペースに余裕があるため、2つ入れています。但し容量を稼ぐために並列接続しています。
ポップノイズ対策として、マイコンとフォトMOSリレーを使っています。機械式リレーのほうが音が良さそうですが、それでは消費電流が辛いので半導体のリレーを使っています。
今回出力バッファにはBUF634を使っています。もとは2回路オペアンプ用に設計したのですが、BUF634はオペアンプ用変換基板が使えるので最低限の改修で済みました。
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購入金額
5,400円
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購入日
2016年10月頃
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購入場所
デジット
jakeさん
2016/11/13
電圧がややシビアな気がしますね。
MihailJPさん
2016/11/27
スペースもシビアだったのでポータブルで作ることを考えるとチップ部品を積極的に使って基板を起こすことを考える必要がありそうです。