いままで何回かご紹介している
フォークデュオ、ふきのとう。大学の先輩後輩の2人の男性ユニットだったこのグループは、「白い冬」「春雷」
などのヒットを持つが、記録的にバカ売れしてはおらず、また最近のリバイバルブームで再結成(期間限定含む)するフォーク/ニューミュージックユニットが多い中一度も再結成していない。それなのに聴いたことがある年代のひとの記憶には残っている、そんなグループ。
もともと1970年代のデビュー時はフォークギター中心で、その後バンドサウンドにはなったがまだフォークの範疇の素朴さ。それが1990年代初頭の解散時には若干シティポップス系の洗練さも纏っていた。
本作はラストアルバム“Ever Last”
に先立つラス前の作品だけれど、ラストアルバムがセルフカバーであるので、「新曲アルバム」としては実は本作がラスト。
初期の朴訥さから比べると面白いコード進行の曲や、毛色の違うアレンジが多く、曲自体も方向性が結構多彩。ただそれが彼等の「新しい色」というにはしっくりこないのが..
アルバム前半はややキッャチーな曲で纏められているので目立たないが、後半の曲調がバラバラでちょっとちぐはぐな感じがする。
細坪基佳のやわらかな声で始まる「Wedding Bell・Holy Night」。ちょっと今までの彼等と違う。アタックが強いエレピとホワンとした音場処理でふわふわとした感じ。歌詞内容的には♪本当はあなたが一番好きで/あの人のことは二番目なの/いつまで待っても言ってくれない/お嫁サンになりたくて♪と名曲「やさしさとして想い出として」の裏返しソングのような風情で、作詞作曲も山木康世と同じなのだが、アルペジオギター中心で「ザ・ふきのとう」という感じだった「やさしさ~」とはまるで違う。彼等の持ち味であるカドの丸い細坪の高めの声を山木が下のラインのハーモニーで支えると言うことろが上手くアピールしてこない。
山木の作詞作曲で彼自身が歌う続く「タイムトラベル」は、同じアーティストの曲かいな、というほど肌触りが違う。キーボードなども入っているし、間奏のコード展開は意外性に満ちていてシャレてるのだが、通して聴くと残るのはギターのアルペジオ弾き語りで歌う男臭い歌で、かなり先祖返りした感じの「フォークソング」。
細坪の「秋の接吻」はお洒落。アレンジャーはチェロの溝口肇で、中西俊博率いる弦楽四重奏に生ピアノ、生ギターという形。メロディライン自体は意外にフォーク王道なのだけれど、ピアノとストリングスで波のように盛り上げるというのはちょっと新しい。曲そのものはとても佳くて、すごくリリカルでロマンチックなんだけれど、ふきのとうの朴訥さはない。
ふきのとうの二人は二人とも曲を書くし、リードヴォーカルも取れるのだが、一番彼等らしいのは「山木の書いた曲を細坪が歌う」というパターン。そういう意味では「Wedding Bell・Holy Night」あたりが黄金パターンなのだけど、ふきのとうらしさが感じられないし、山木が自分の歌、細坪が自身の歌をそれぞれ歌っている曲達はソロ活動の雰囲気に近いかも知れない。
ふきのとうは解散前は、山木は今までの王道にこだわり、細坪はアレンジなどに凝って新しさを求めたという。そういう意味ではこの作品はなんとか二人の最大公約数で作ったのだと思うけれど、この時点ではすでにその重なりはさほどには大きくなかった、ということか。始めることは比較的簡単で、続けることは難しい。そんな彼等の迷いが感じられる作品。仲違いしたわけではないのに、彼等が未だに再結成をしないのは、それぞれの向いた方向が少し、でも、決定的に違っていて、その視線の延長線には交わる点がない、と感じているからなのかもしれません。そんな風に思える「実質」ラストアルバムです。
【収録曲】
1. 鈍色の空
2. 愁い
3. Sentimental Boy
4. 少女へ
5. ステーション
6. 冬の華
7. Wedding Bell・Holy Night
8. タイムトラベル
9. 秋の接吻
10. 眠れないジェラシー
「秋の接吻」
-
購入金額
3,008円
-
購入日
1993年頃
-
購入場所
ZIGSOWにログインするとコメントやこのアイテムを持っているユーザー全員に質問できます。