所持する音楽データに対する私利私欲...イヤ私情私見あふれるコメント、音楽の杜。こういった分野のものは「好み」ですし、優劣を付けるのもそぐわない気がしますので、満足度の☆はあくまで私的な思い入れです。長い活動歴をもつアーティストは活動中に自分の音楽性と時代の要求する音楽が合致したり、離れたりします。活動開始時には世の主流だったフォーク系音楽が衰退し、今風の音を入れて時代とフィッティングしようと試みた作品をご紹介します。
ふきのとう。1970年代中盤から1990年代初頭に掛けて活動したフォークデュオ。メンバー2人ともに曲を書き、ともにメインヴォーカルをとる。声質的には甘く高い声の細坪基佳と、太く朴訥な声の山木康世で明確に違う。ただ大きなヒット作は山木の曲を細坪が歌うというパターンで、今回のベストもすべて細坪がメインヴォーカル。
彼等はチャートの頂点に立つような超ビッグヒットというのはなく、でも「白い冬」や「雨降り道玄坂」、「春雷」、「やさしさとして想い出として」などの当時街に良く流れた良質な曲をたくさん持つ、どちらかというと「記憶」に残るアーティスト。
彼等のベストアルバムはいくつかあるが、活動中に発売されたものでは以前ご紹介したラストベストアルバム“ever last”
は、かつての自分たちの軌跡をリアレンジの再録で振り返ったもので、純粋なベスト「チョイス」アルバムではない。そういう意味では“THE BEST ふきのとう ベスト Vol.○”というシリーズが、ある一定期間のシングルヒット曲を網羅した「記録的な」ベスト、といえるのだろう。
このシリーズは4枚出されていて以前“Vol.3”をご紹介したが、
本作はこの路線最後のベストアルバム“Vol.4”。“Vol.3”の銀地の装丁に対して金属っぽく光る金色系のジャケットで金盤とも呼ばれる(ちなみに“Vol.1”は白無地だったので白盤、“Vol.2”は真っ黒で黒盤)。
「最後の」ベスト盤は今までとやや毛色の違う曲がちりばめられ、時代の要求と彼等の音楽性との微妙なズレが見え始めている感じだ。
「雨に濡れて」。1曲目としてはやや地味な感じの曲だが、かみしめると味がある。8ビート王道のリズムでベースが支える中で、優しい声で細坪が歌う。♪ミルク色の街に/絹の雨が降る/朝はまだ静かな/夜明けの中で/君を抱きしめる/愛を確かめる/君が好きだから/放したくない♪曲の最後、フェードアウトかな...と思ったらコンサートアレンジのようにキメフレーズで終わるのが面白い。
また雨の曲だが今度は「12月の雨」。ふきのとうって今聴くとギターアレンジなんかが結構歌謡曲っぽいな、と感じた作品。♪も一度いちから/やり直したい/離ればなれの/二人の生活に/もう/終りを告げて/優しかった頃の/二人にもどり/今年の冬をむかえたい♪の部分でコーラスが輪唱風に追いかけていくのが懐かしい。どちらかというと内容的には暗めのものだが、底に明るさがあるのが面白いな。
彼等のシングルではほぼ最後の方のものとなる「星空のページェント」は、かなり他と違った風合いの曲。現代的なアレンジで、ゲートリバーブを掛けたドラムに、スラップ気味のベース、ちょっとモジュレーションかかった気味のサックスとかなり流行を取り入れている。やや低めのキーで、細坪の声もいつになく太い。でもちょっとふきのとうらしくない。
アルバム前半の1980年代前半の曲はふきのとうらしいフォーキーな曲が多いが、1980年代後半の曲であるアルバム後半は音造りと曲の指向性が微妙にずれ始めているのがわかる。
彼らはこのベストのあと、約5年間活動するも“Vol.5”を編むほどの曲を遺さず、解散する。時代の要求と、自分たちのやりたいことと、そのズレに苦しんだ感が窺える作品。まだ2人とも若く、「時代に取り残される」のにあらがった感じを受ける作品。このあとの名曲再録ベスト盤“ever last”が、かつての原点に還って、なした曲を大切に育てようとしたのに比べるとやや中途半端な感じがある。
自分の歌いたいものを歌いたい。でも売れなければ、聴いてすらもらえない。そんな苦悩が感じられる作品です。
【収録曲】
1. 雨に濡れて
2. 流れてゆく河のほとりで
3. 12月の雨
4. 枯葉
5. YABO
6. 五月雨
7. 銀色の世界
8. 高き空・遠き夢
9. 季節の夕暮れ
10. 北窓をあけて
11. 星空のページェント
12. ガス燈
「12月の雨」
ふきのとうスタイルではない曲が多い
もっと前向きな変化であれば良かったのだが。時代に取り残されるから「変わる」のではなく。
-
購入金額
3,200円
-
購入日
1987年頃
-
購入場所
ZIGSOWにログインするとコメントやこのアイテムを持っているユーザー全員に質問できます。