最近購入するオーディオ系機器が、明らかにイヤホン/ヘッドホン系の「音の出口」に偏っている。
自分は「音楽」が好きなので、音楽を気持ちよく聴くためには投資を惜しまないが、一にも二にもソフトが優先で、ハードは音楽を味わうのに「気持ちよさを阻害しなければ良い」という考え方。
メインPCにFLACデータをため込んでいるので、家ではデスクトップPCにつないであるスピーカー
で聴くこともあるが、ほとんどは電車のなかでのいわゆるポタオデリスニング(ポータブルオーディオを使ったリスニング)。
そうなるとできるだけ持ち出し部材は軽量で行きたい。
DAP(デジタルオーディオプレイヤー)もメインが音質が素直なONKYO DP-X1A
で、アンプ部もソコソコの駆動力があるのもあって、イヤホンやIEMを換えることで音質調整することを基本として、DAP⇒イヤホン/IEMと最低限のセットで持ち出しをしていた。
音質追求派は、DAP+ポタアン(ポータブルアンプ)の2段重ね、さらに強者はDAP+DAC(デジタル/アナログコンバーター)+ポタアンの3段重ねでポタオデリスニングしているが、自分にとっては
・ポタアンやDACを同時に運ぶ時の大きさと重量の問題
・DAPの他にポタアンなどの電源管理が余分に必要なこと
・ポタアンなど「音を聴く」際の付属機器に投資するより、音源か音の出口に投資したい
ということから、あまりポタアンには興味がなかった。
ただ、気がついてしまったンだよねー。
上記のような運用を続けた結果、能率が低いイヤホンや、アンプ部に駆動力が必要なヘッドホンを使わなくなってきていることを。
高効率で持ち出しやすいイヤホンやIEMの稼働率が高い一方、DP-X1Aで最大までヴォリュームを上げても(ソースによっては)オイシイ部分まで音量が稼げない低能率のイヤホンや、ガタイが大きくて駆動側がプアだとなかなか音圧が稼げないヘッドホンは、すっかり使わなくなってきていることに気がついてしまったのだ。
外で使う場合にはおおむねイヤホン/IEMの方が使い勝手が良いが、ジャンルによっては「スピーカーの音圧」が欲しいこともある。それには、イヤホンに良く使われているBAユニットはもちろん、ダイナミックドライバーでも小口径では役不足で、ヘッドホンクラスのドライバー径は欲しい。
-安くて良いポタアンあれば買おうか-
そう考えるようになった。
ただ、そう考えて街に出たときに色々ポタアンを試してみると、意外に食指が動くのが少ない。
cybercatのDAPは、現在のメインが前述のDP-X1A、サブがCayin N5、
以前のメインがAK120BM+(2.5mmバランス出力追加改造版)
と言うことで、全て2.5mmバランス対応なので、リケーブル用ケーブルの手持ち数が大きく「2.5mmバランスケーブル」に偏っている(CIEMのひとつは、最初から3.5mmアンバランスケーブルをつけない2.5mmバランスのみの構成で注文したものすらある)。ネガが感じられない高音質化の方法として、バランス接続を高く評価しているので、基本バランス出力に対応したポタアンが第一選択になる。
そうなると、あまたある手ごろなポタアンの種類が一気に減って、FiiOの入門機Q1あたりを除くと、4万超クラスまで価格が上昇してしまう(以前紹介したAstell&Kern for SoftBankSELECTION XHA-9000↓のようなワイヤレスポタアン~DAPとの接続がワイヤレスのもの~を除く)。
Q1は試聴したが、「ピン」と来るモノがなかったし、さすがに4万以上かけるなら、ダイレクトな「音質改善感」が欲しいな...となるとコレといったものにめぐり合わず、なかなかポタアンが決まらなかった。
そうこうしているうちに、「音はいいなぁ...でも価格と機能がなぁ」と思っていたポタアンのひとつの価格が、期間限定で大幅ディスカウントされるという情報を得た。
それがChord ElectronicsのMojo。
2015年に現れるやいなや、その高い音質とその割に安価な価格、そして唯一無二のデザインによってポータブルオーディオ界に旋風を巻き起こした製品。
Chord Electronicsというイギリスはケント州にあるメーカー。このメーカーの製品は、どこにも似ていない思想で設計されており、唯一無二の音色と、独特の感性のデザインを持つ。もともと電源系からオーディオ分野に入ってきたらしいが、最近はアンプ分野とDACで存在感を示している。
前者はもともと創業時から手掛けていたスイッチング技術を使った電源部分のアドバンテージが大きいが、後者は同社独自のD/A変換プログラム技術による。
一般的なDAPやDAC内臓アンプに組み込まれているD/A変換機能は、専用のDACチップで担保されている。現在世界最高峰と言われている旭化成エレクトロニクスのAKシリーズ(AK4490やAK4497など)、やや大型機に使われることが多いESS TechnologyのSABRE(ES)シリーズ(ES9018K2MやES9028PROなど)、歴史の長いCirrus LogicのCSシリーズ(CS4398やCS4198)、据え置き機中心のTexas Instruments(旧Burr-Brown)のPCM1704などPCMシリーズあたりが代表的なもの。
このDACチップの性能で、出音のすべてが決まるわけではないが、機能的にはチップの規定性能を超えることはできないし、やはりメーカーごとに傾向があるので、DAPなどを宣伝するときに「最新AK4495をDACチップとして採用している」など搭載DACチップがウリにもなる状況。
そんな音質に大きな影響があるDACチップだが、Chord ElectronicsはD/A変換が必要なデバイスでもDACチップをつかわない、というのが、ポリシーらしい。ではなにでD/A変換しているかと言うと、FPGA。これはField Programmable Gate Arrayの略で、簡単に言ってしまえば内容書き換え可能なLSI。Chord Electronicsは、このデバイスを使ってこれに独自のブログラミングを施すことで、DACとして機能させる。したがって、この変換プログラムこそ「Chord Electronicsの音」と言うワケ。使われるFPGAは、Xilinx社の第7世代FPGA「Artix7」。これに入れる独自の変換プログラムを手掛けたのが鬼才Robert Watts。
通常のDACチップが、8倍程度のオーバーサンプリングでデジタル化ノイズを高周波数に追いやり、ハイカット(ローパス)のアナログフィルターでノイズカットするという手法を使うのに対して、Wattsはプログラミングで2048倍までのオーバーサンプリングを施し、さらに急峻なデジタルフィルターでノイズをカットすることで大幅な低ノイズ化を果たした。これがChord ElectronicsのD/A変換デバイスの低ノイズ化につながっている。
さらに面白いのは同社の持つスイッチング技術を使って得られたシグナルを直接トランジスタに渡して電圧変換し、そのままヘッドホンを駆動するような作りになっていて、「アナログ回路」と呼ばれる部分がほぼない事。
これにより驚異の低ノイズ化を実現している。
これだけ魅力的なデバイスで5万前後の売値なら、ポタアン欲しい人の大きな選択肢の一つにはなるだろうなと。
ただ自分にとって「音はいいなぁ...でも価格と機能がなぁ」の後者の部分がネックになってなかなか購入までには至らなかったわけ。
音質においては高い評価を受けるmojoだが、機能的には電源スイッチとボリュームボタン上下の3つのボタンしかなく、誤作動防止のロック機構はないし、入力もUSB(MicroUSB)、光、同軸のデジタル入力だけでアナログ入力はないという最小限。さらに、自分にとっての最大の問題は、出力が「3.5mmアンバランスのみ」というところ。一応アウトプットジャックは2つあるのだが、それは「3.5mmアンバランス×2」であって、2.5mmや4.4mmのバランス出力が併設されているわけではない。バランス出力の利点の一つに低ノイズ化があるが、Chord Electronicsとしては、上記の仕組みによる低ノイズ化に絶対の自信があるので、あえて回路が複雑になるバランス化は手がけないらしい。
従って自分の持つ大多数のリケーブル用ケーブルは使えない...となってしまう。それもあって、イヤホン専門店で試聴して「良いな」とは思ったのだけれど、およそ5万弱(最安値でも4.5万ほど)の価格もあって、手を出さなかった。
それが2019年末の2ヶ月間、複数のオーディオショップなどがおよそ1万円の値下げを一斉に行った。「一斉」というあたりがメーカー協賛っぽいので、これはひょっとしたら近い将来の「mojo 2」登場を暗示しているのかも知れないが、同社のポリシーとして次の機種でバランス化が果たされるとは思えないので、自分としては待つ必要があまりなく、高音質低ノイズの「ヘッドホン駆動専用ポタアン」を安価に購入して、ヘッドホン独特の「空気の揺れる感」を堪能するのも良いかな、と思って購入することにした(購入価は、上記11/1~12/31の値引きセールに加えて、購入店の「After Inter BEE 2019」セールの-3%もかかっている)。
ま、ポタアンだけあって、コンパクトな梱包。入っているのは本体にUSBケーブル、保証書兼説明書のみ。USBケーブルは長さは7cm程と短寸だが、端子形状は(フルサイズ)USB Type-A⇔micro USB Type-BでDAPとの接続用ではなく充電用。
重さは170gで、小さい割りにはずっしり感はある。
操作部としてはインジケーターを兼ねる、ボタンというか玉というかという形状のモノが3つ。
ひとつだけ離れているのが電源ボタンで、ここの点灯色は電源のオンオフだけではなく、入力される楽曲のサンプリングレートも示す。
電源スイッチは入力サンプリングレートのインジケーターを兼ねる
残りの隣接した2つの玉はヴォリュームボタン。この2つの玉の色で音の大きさを表す。ただ色は赤が一番音量が小さいという設定で、イマイチピンとこないかも知れない。IR⇒UVへのスペクトル...と覚えれば良いのだが、虹(主虹)の色の外側⇒内側の色順を覚えている人は少ないよねw
端子としては操作ボタンを手前に置いた形の時左側面が入力側、逆が出力側。
出力側は2つジャックがあるが、バランスとアンバランスや、イヤホン出力とライン出力というような差があるわけではなく、同仕様の3.5mmアンバランス出力が2つという仕様(アンプ部を切ってラインアウトモードとして使うことは可)。ステレオ出力が2つなので、両方を自分一人で使うシチュエーションは限りなくレアケース(自作したヘッドホン2つの音質差がないかチェック...など?)と思われるので、リア充仕様??
入力側は同軸デジタル、光デジタル、micro USB(Type-B)。自社開発のD/A変換を使わせるのがキモの商品なので、デジタル入力専用で、DA変換部をキャンセルして単純アンプとして使うアナログ入力はない(というか、原理的にムリ)。
もう一つあるmicro USB(Type-B)は2台目のDAPをつなぐ...ワケではなく、充電専用。つまりmojoは充電しながら使うことが出来るデバイス。区別としては結構しっかりとした表示が本体にあるし、よく見れば電源供給用の方は隣接してインジケーターがついている。こちらも色で充電残量が示されるが、こちらは青が満タン、赤が充電不足という色合いで、感性に合う。
青が満充電、赤が空に近く、赤点滅で要充電とこちらは素直な?色順
このほかには誤作動防止機構などもなく、実にシンプル。
充電したあと、使ってみた。
まず試したのはヘッドホン。神宮前ビクタースタジオ303スタの音を再現したと言われるJVCのスタジオモニターヘッドホンHA-MX10-B。
インピーダンス56Ωとヘッドホンとしてはソコソコ鳴らしやすい特性だが、最大許容入力1500mWとタフなヤツ。さすがスタジオ用。
今まで初期レビュー時のP8
やDAP単体で鳴らしていたが、素性からすればもう少しパワーをかけた方が本領発揮するだろうと。
そこで、現状cybercatの標準DAPであるDP-X1Aを音源として、それにHA-MX10-Bを直接つないだ場合と、間にmicroUSBケーブル接続のmojoを挟んだ場合を比較した。接続方法の違いによる音の差を避けるため、DP-X1Aも3.5mmアンバランス接続(もともとヘッドホンのケーブルが3.5mmアンバランスプラグだが)。
なお、バッテリーの保ちは(いろいろ繋ぎ変えをしたり、大きめの音量での再生が続いたせいもあるが)、およそ5時間弱程度でロングライフ...というほどではなかったので、一日持ち出して使う...という場合は厳しいかも(ま、同時給電できるので、使えなくはないンだけれど)。
DP-X1Aをつなぐと、こういうアクセス許可を求めるメッセージが
最初にまず評価したのは、音質評価ではいつも最初に聴くハイレゾ曲(24bit/96kHz/FLAC)、吉田賢一ピアノトリオの“STARDUST”
から「Never Let Me Go(わたしを離さないで)」。まずDAP⇒HA-MX10-B直結。DP-X1AとHA-MX10-Bとの組み合わせは聴き込んだことがなかったが、ベースのラインの音圧はさすがに密閉式ヘッドホンで、音圧もイヤホンとは比べものにならないのだが、一番目立つのは右chにいるドラムスのリムショットとクローズドハイハット。ベースがある程度下を支えるようになる領域までヴォリュームを上げるとやや痛いくらい響き、ステージを右に引っ張る。DP-X1Aのヴォリュームは153/160でかなり上限近い。これをDAP⇒mojo⇒HA-MX10-Bと間にmojoを挟むと、全体的な高低バランスはあまり変わらないのだが、左右の広がりが大きくなり、ベースの「スペース」がきちんと確保される。右のドラムスは相変わらず大きめなのだが、まろやかになって目立たなくなるのと、左ch側のピアノが充実して左右に広がるので、右への「引っ張られ感」はない。mojoのヴォリュームは薄青緑あたりで半分以下。
もう一つのハイレゾ曲、“Utada Hikaru SINGLE COLLECTION VOL.1+2 HD”
から、24bit/96kHzのWAVファイルをFLAC変換した、宇多田ヒカルの「First Love」は、DAP⇒HA-MX10-B直結ではヴォリュームは142/160。この「色」をつけないヘッドホンが心地よく、1番ではストリングスと生ギターに彩られたヒカルの若い声が大きく響き、ベースはいい感じに下に沈む。最初から大きめの音量でベースが入る2番では、イヤホンやIEMではベースが「くどく」感じられる場合もあるのだが、ナチュラルなバランスが心地よい。これをDAP⇒mojo⇒HA-MX10-Bにすると、全く違う幻想的な音が広がる。エコーとリバーヴが二重三重にヒカルの声を包み、ガバッッと部屋の広さが広がる。ストリングスの響きも美しい。ベースは目立つのに目立たない(存在感はあるのに主張しすぎない)という絶妙さ。1stコーラスのベースの鳴り出しも優しく、2ndコーラスの頭から鳴る部分は、ヒカルの声の下に確実に「ある」のだが、存在感はヴォーカルの方がはるかに大きい、中域フォーカス。mojoのヴォリュームは黄緑あたりでおよそ1/3。
おなじ女声ヴォーカルと言うことで、女性声優洲崎綾(あやちゃん)の自作の詞を歌った「空」を、彼女のファーストファンブック“Campus”
から。DAP⇒HA-MX10-B直結では中心にあやちゃんの声が定位し、左右にエレキとアコースティックのギターが控え、ストリングスが包み込む。ベースは意外に主張しない、「聞きやすい音質」。ヴォリュームは140/160。DAP⇒mojo⇒HA-MX10-Bに換えると、左右の広がりと鮮明さが増し、ベースも少し存在感を増す。そしてそして中央のあやちゃんの声のバランスが増す。このトラック、自分の好みからすると若干ヴォーカルトラックの圧が低く、Aメロやバックがオフったブリッジ部は良いのだが、バックが充実したサビの部分では少し埋もれ目になるのが悩みだったけれど、バックは充実していながらしっかりとそれをかき分けてあやちゃんの声が届くのが良いな、これ。mojoのヴォリュームは黄緑より緑に近くおよそ1/3強。
同じあやちゃんが歌う曲ながら、アコースティック系のバラードとは180度違う、女子大生アイドル新田美波が歌うデレマス初期持ち歌、「ヴィーナスシンドローム」。
ここで比較試聴するのは、後に手に入れたハイレゾリサンプリングのOvertone Reconstruction Technology(ORT)版ではなくて、CDからのリッピング版。DAP⇒HA-MX10-B直結では意外にバランスが良い。今までこの曲、圧倒的にイヤホンで聴くことが多かったが、このモニター系ヘッドホンのバランスの良さよ。ヴォリューム140/160で、あやちゃんの声がきちんと追えて、左右の端で鞭のようにしなるハイハットの音がノリを出す。バスドラは若干クリップぎみだが、このヘッドホンの下が過剰にないバランスがちょうど良く「いなして」心地よいバランス。これをDAP⇒mojo⇒HA-MX10-Bに切り替えるとベースがグッと出てくる。左右に駆け回るシーケンスパターンも幅が広く、サビ前のシュワシュワ言うシンバルのリバースサンプリングも気持ちよい。オケが引き立ったのにさらに存在感を増したのがあやちゃんの声。これは、今まで聴いたこの曲の中で最も良いかもしれん。mojoのヴォリュームは黄緑あたりでおよそ1/3。
今度はラップもこなすゲストベーシスト日野"JINO"賢二のプレイが聴き所の、T-SQUAREの「RADIO STAR」を、セルフカバーアルバム“虹曲~T-SQUARE plays T&THE SQUARE SPECIAL~”
から聴く。口径の大きいドライバーを積むHA-MX10-Bだが、キャラクターとして下は過剰ではなく、どちらかと言えば量より反応性なので、「ガッツリベースを感じよう」とすると、DAP⇒HA-MX10-B直結では150/160と比較的限界近いヴォリュームを要求する。それでもこの組み合わせでは、ベースの腰を揺らすような低音よりも、バスドラのアタックの方が大きい...つか、それよりこの組み合わせではEWIの響きが耳に来る。DAP⇒mojo⇒HA-MX10-Bだと、ヴォリュームは薄青緑あたりで半分以下。音としてはベースにグッと芯が出る。バスタムの響きも良い...というかドラムスは低次倍音が充実して少しチューニングが下げたような風合い。でも何より良いのはJINOのラップの後ろで聴こえるベースや、キーボードの河野啓三のピアノソロのバックで鳴るワウがかかったミュートギターなど細かいところが丁寧に描かれていること。
迫力が欲しいオーケストラ系楽曲、交響アクティブNEETsの「鉄底海峡の死闘」は“艦隊フィルハーモニー交響楽団”
から。DAP⇒HA-MX10-B直結でもさすがに大口径ドライバー、ティンパニのアタックなどは衝撃を感じるようなアタックがある。ラッパ隊やストリングス隊の盛り上げも素晴らしく、楽しく聴けるが、少し密集しすぎ??低音の迫力をモノにするには、ヴォリューム155/160の限界チョイ手前。DAP⇒mojo⇒HA-MX10-Bだと、静かになったところでの弦の音が緩やかに右に落ちていくところや、空間を渡るトライアングルなど左右の幅の表現が素晴らしい。見通しが良くなって、聴感上の迫力はむしろやや減るのだが、和笛のようなフルートの音がボディを持ってバランスが良くなる。mojoのヴォリュームは薄青でちょうど半分くらい。
古典ロックEaglesの「Hotel California」
は、24K蒸着CDからのリッピング音源だが、このプレスは音圧を求めていない古めのミックスで、最近の音圧指向の曲と比較すると明らかに収録レベルが低い。DAP⇒HA-MX10-B直結ではヴォリュームは160/160のフルパワーとなる。これでも「うるせー」という感じではない...というかここまであげないと上手く鳴らない。この曲、ギターに注目されがちだが、実はバランス的にはRandy Meisnerのベースが大きめのバランス。ただ直結ではベースにはやや芯がなく軽い。しかし、ティンパニとシンバルの表現力はいいな。mojoを加えると飛躍的に音が活きてくる。聴感上同じなのは薄青~青あたりだが、この曲では青~すみれ色まで一段上げたい。そうすると、このミドル重視のヘッドホンでもベースに重みが出てくる。そして左右に広がるギターと、端で鳴るハイハットが広さを伝える。そして何より良いのは、ラストのギターソロ掛け合い、特にJoe Walshのテレキャスの音が太いこと。これはかなり完成度が高い。
JVC HA-MX10-Bは低域がグッと出るガッツがある音に
イヤホンとしては、TANCHJIMの厨二b... Darkside
を評価した。このイヤホン、インピーダンス32Ωとイヤホンとしてはかなり鳴らしづらい部類。前回のレビュー時も、古い録音で音圧重視ミックスではないEaglesの「Hotel California」は結構音量が物足りなかったので、これにパワーを突っ込んで見たかったわけ。なお今回のイヤピは安定性を重視して、純正ではなくradiusのDeep Mount Earpiece
を使用している。
HA-MX10-Bと同じ順序で評価する。
高品位ハイレゾ音源、吉田賢一ピアノトリオの“STARDUST”から「Never Let Me Go(わたしを離さないで)」。まずDAP⇒Darkside直結では、リムショットとライドシンバルの広がりが良くきこえる。中域に華があるこのイヤホンでは、ピアノも明確でメロディが追いやすい。ベースは存在感はあるが、バッキングの時は若干丸い。ソロの部分になるともう少し「立って」来るが全体としてはよく言えばふくよか、悪く言えばヌケがイマイチというようなイメージ。これをDAP⇒mojo⇒Darksideに変更すると、全く違う世界が広がる。まずベースがグッと沈む。音量的にはむしろライドシンバルとフットクローズのハイハットが目立つようになるので、上が伸びた感じになり、ベースは目立たないのだが、下の方が充実して分離が良くなってバランスが良い。そして定位的に左側のピアノに薄くついている残響が心地よく響く。左右の広さはさほどに広がった感じはしないが、全体的にこと押しが良くなった感じ。ヴォリュームは、直結だと140/160、mojoを入れると黄緑あたりでおよそ1/3。
宇多田ヒカルの、ハイレゾファイル“Utada Hikaru SINGLE COLLECTION VOL.1+2 HD”(PCM24bit/96kHz)からFLAC変換した「First Love」は、DAP⇒Darkside直結でもヴォーカルは相変わらずの良さ。ストリングスの広がりやタム回しの時の残響もダイナミックで、ストリングス優勢の音場と、下を太いベースの音が支える中、ヒカルの声が大きく中央に定位し、愛おしい。ヴォリュームは、直結だと140/160あたりでベースがきちんと出てくる。ただし、ベースの音色はかなり平面的。ヴォリュームおよそ1/3の黄緑付近のmojoを挟むと、ベースの平板な感じがかなり薄らぐ。ヒカルのヴォーカルはブレスなどのニュアンスが濃くなり、よりリアリティが増すが、それよりもベースの平板さが薄まり、しっかりと身を委ねられる。特に、2ndコーラスの頭は、メロディラインが低めをさまようので、ベースの音が目立つのだが、ベース音の単調さが払拭されたので良い感じ。
同じ女声ヴォーカルバラードは、女性声優洲崎綾のファンブック“Campus”の付属CDの「空」。ヴォリューム144/160でDAP⇒Darkside直結を聴くと、あやちゃんのヴォーカルの近さが際立つ。バックの音も結構聴こえるのだが、上手くセンター中心を避けていてあやちゃんの声をマスクしない。ストリングスは豪華。DAP⇒mojo⇒Darksideの接続でも、バックの薄い1stコーラスAメロの印象はあまり変わらない。しかしバスドラが入ってくると結構変わる。バスドラのアタックはグッと来るので、ベースと同時に鳴る時は下に力強さが加わる。mojoのヴォリュームは緑1玉、薄青1玉なので、半分以下だが、若干バック...特にストリングスが大きくなってあやちゃんの声がマスクされ気味。「ヴォーカルホン」であるDarksideのいいところがなくなり、凡百のイヤホンのバランスになる。これは意外。
では同じあやちゃんが歌う打ち込み系デレマス曲、「ヴィーナスシンドローム」はどうだろうか。DAP⇒Darkside直結では、ヴォリューム136あたりがオイシイ。バスドラはきちんと響いているが、その上のベースの方が大きく音のクリップ感が少なく、オケの左右の広がりが大きいので、中央のあやちゃんの声は切なく響く。一方ハイはそこそこなので、シンバルなどは抑えめ。刺さらないと好意的に見るか、地味と否定的に取るか。これにmojoを噛ますと音色は一変する。ベースよりもバスドラが優勢になってビートが立ってくる。ただ、クリップ感はギリないので、聞き苦しくはない。上の痛いようなハイハットの音などはかなり抑えられているので、あやちゃんの声がセンターで存在感があるのは変わらないが、駆け回るシーケンスパターンなどは前に出てこないので、ちょっと曇ったような感じになる。mojoのヴォリュームは黄色1玉、黄緑1玉なので1/3強。
老舗フュージョンバンドT-SQUAREのセルフカバーアルバム“虹曲~T-SQUARE plays T&THE SQUARE SPECIAL~”から、ゲストベーシスト日野'JINO'賢二を迎えた「RADIO STAR」。DAP⇒Darkside直結では、ヴォリューム146くらいまで上げないとベースに芯が出ないが、ここまで来ると、EWIは痛気持ちいいくらいの刺さり寸止め状態。ベースは量はあるが若干芯がない感じで、この直結では聞き所はピアノソロやギターのミュートカッティングなど中域の音。これをmojoを挟んで、DAP⇒mojo⇒Darksideとすると、ヴォリューム半分ほど(薄青)にするとベースにグッと芯が出て、エネルギッシュになるのだが、もともと上の方はないので痛くはならず、あいかわらず中域の感じは良いので、バランスはピラミッド型。同じバスドラとベースが大きめの曲でも、打ち込み系と違って「間」があるからか、飽和感がなく、これは直結よりは優秀。
交響アクティブNEETsの艦これオーケストラアレンジ、“艦隊フィルハーモニー交響楽団”の最後の曲「鉄底海峡の死闘」は勇壮な曲だが、DAP⇒Darkside直結ではやや迫力不足か。中域は非常に充実しているイヤホンなので、金管系の音や和笛のようなフルート、勇壮なスネアドラムの打音は強いのだが、ティンパニの打撃音や、弦の低い方の充実は今一歩。ヴォリューム145/160で、すでに中域にはかなりの音の塊があるので、これ以上上げると耳に厳しい感じ。DAP⇒mojo⇒Darksideの方は、ヴォリューム薄青あたりで結構いい感じの音量。左右が広がり余裕が出て、様々な音が聞こえるようになるので、編成は少し大きくなった感じを受け、弦の下の方の充実は感じるが、元々のこのイヤホンの中域重視という音色傾向までは覆らず、下はガッと乗ってくるほどではない。
Eaglesの「Hotel California」は、もと音楽ファイルが最近の高音圧タイプのミキシングではないので、音圧が低い。DAP⇒Darkside直結では、ヴォリューム155/160のあたりがイイ感じ。元々はベースが大きめのバランスのハズだが、ギター、とくにエレキギターがカッティング含み前に出てくる。温かみのある、ややダルなチューニングのスネアも存在感がある。最後のDon FelderとJoe Walshのギターソロも良く聴こえる。これをDAP⇒mojo⇒Darksideに換えると、ベースの重心が下がって、安定感が増す。ギターも一番目立つのは左右に散らされた12弦ギターの音だったり、オブリを弾いているギターだったりして、直結とは少しバランスが変わるが、いいサウンドバランス。古い録音で、ピラミッド型、しかも「ピラミッド自体が小さめ」というのが、最高域と低音域がなく、左右には音場が広いという再生環境とガッチリ合ってる。ヴォリュームは青で半分超。
TANCHJIM Darksideは良くなる曲も多いが、好転しない曲もあり、ピーキーな性格は変わらず
2010年代後半ポータブルアンプ界に顕れ、オーディオ界ではマイナーな存在だったメーカーを、一躍中級ポータブルアンプの雄とした傑作DACアンプ“mojo”。
市販されているDACチップを使わないことで、DACチップの規格や性能に縛られないD/A変換部による他にない音色と、独自のD/A変換プログラムとアンプ部の設計が実現するウルトラローノイズでポタオデ界で大きな存在感を示している。
機能としては最低限だが、魅力が大きいこの製品、期間限定で比較的手の出しやすい価格になったため、自分へのクリスマスプレゼントとして入手してみた。
使ってみると...
〇驚きの低ノイズ。密着度の高いCIEMに使ってもグランドノイズが感じられない
〇十分な駆動力。今までポータブルオーディオに使えなかったヘッドホンも楽々駆動
〇中域を中心とする緻密で説得力のある音色。
〇空気まで感じる左右の空間の広さの演出。
〇中低域の充実による腰の強さ。
など、効果が十分満足ができた。
その一方
●非常に特徴がある音で、やや「色付け」はある。
●その音色故「合わない曲」もある。
●バッテリーの保ちはあまりよくない。
●容積は十分小さいが厚みがあり、誤動作防止機構もなく、持ち歩きはややしづらい。
●会社のポリシーとしてバランス接続否定派なので手持ちケーブルが有効利用できない。
最後のは自分の手持ち資産との兼ね合いの問題が大きいが、若干使いこなしが難しい機種であることも確か。
ただ、ノイズの低さと中域の表現力、左右の広さは説得力あるポタアンだった。
基本ポタオデリスニングは、軽快にポケットにDAPだけ入れてイヤホン/IEMで...の方が好みなのだけれど、荷物が持っていけるときにはmojoとヘッドホンで「没入できる環境」を持ち歩いてもよいな、とそう感じたアイテムでした。
【仕様】
出力レベル:35mW @ 600Ω、720mW @ 8Ω
出力インピーダンス:0.075Ω
ダイナミックレンジ:125dB
THD+N:0.00017% @3V
入力:オプティカルTOSlink x 1(最大192kHz / 24bit)
コアキシャル(3.5㎜)x 1(最大768kHz /32bit)
MicroUSB x 1(最大768kHz/32bit)
出力:ヘッドホンジャック(3.5㎜)x 2、ラインアウトモード出力 3V
ボリューム調節:96ステップ(1dB 刻み)
バッテリー:内蔵 リチウムポリマーバッテリー (1,650 mAh 7.4V)
充電端子:MicroUSB (充電専用)
充電時間:約5時間 (5V/1A USB-AC使用)
駆動時間:約8時間
サイズ(W×H×D):約82㎜ x 60mm x 22mm
重量:約180g
ボディ:航空機グレードアルミニウム
同梱物:MicroUSBケーブル(充電用)・クイックガイド/保証書
オーディオなんちゃってマニア道
今の価格なら問題ない。
初値の7万弱だと、携帯性・機能性・充電時間などの観点で、よりすぐれたポタアンは多々あるが、買値であればこの世界観をもつのは多くはない。
能率の低いイヤホンや、駆動力を要するヘッドホンも楽に駆動する
小さなボディに込められた恐るべきガッツ。
フットプリントは小さいが、厚さと操作性が....
約8×6cmのフットプリントは十分小さいが、2cm以上ある厚みは重ねるとキツイ⇒DAPより厚いので。
また3つのボタンしかない操作部はシンプルだが、色彩では直感的に音量がわかりづらく、ロック機能もないので、鞄の中に入れっぱなしで使うには適さない。
また(充電しながらも使えるとは言うものの)バッテリーの保ちと充電速度は、褒められたものではない。
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購入金額
34,900円
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購入日
2019年12月07日
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購入場所
フジヤエービック オンラインショップ
jive9821さん
2019/12/20
過去何回か単体のポタアンを買ったものの、結局面倒で持ち歩かなくなってしまったので、Polyをつけて単体で使えれば魅力が増すと思っています。
cybercatさん
2019/12/21
たまに中古の出物があるので、それ待ちでもいいかな。