レビューメディア「ジグソー」

かつてとは違うノリ、でも明らかにTOTO

所持する音楽データに対する私利私欲...イヤ私情私見あふれるコメント、音楽の杜。こういった分野のものは「好み」ですし、優劣を付けるのもそぐわない気がしますので、満足度の☆はあくまで私的な思い入れです。バンドというものは「生き物」です。バンドを構成しているメンバーがいて、そのメンバーがやりたい音楽があって、その最大公約数としてバンドは始まることが多いけれども、バンドが続いていくとそのバンドのカラー、というか活動の慣性力が生まれます。そのバンドもメンバーの交代によってその「色」が変わります。大きな成功を収めたあとバンドの要、リーダーの死によって変わった、変わらざるを得なかったバンドの変革の作品からのシングルカットをご紹介します。

TOTO。1970年代末、Boz Scaggsの超名盤“Silk Degrees”

のツアーメンバーを中心として組まれたロックバンド。全体としてはAOR系バンドとして分類されるが、それぞれのメンバーの永いスタジオミュージシャンとしての経験とテクニックから、ハードロック、ポップス、ジャズ、プログレッシヴロック、ファンク、エスニックなど様々なエッセンスが盛り込まれており、ある意味それがこのバンドの「カラー」を掴みづらくしている。

さすがにこれだけ長い歴史を持つバンドだとメンバーの出入りも多く、通しで在籍するのはギタリストのSteve LukatherとキーボーディストのDavid Paichのみ(David Paichは一時期ツアーには同行せず、という期間があった)。

ベーシストはオリジナルメンバーのDavid Hungateが基礎を築いたあと、永くPorcaro兄弟の次兄Mikeが務めていたが、彼をALSで喪い、今はまたDavid Hungateが出戻って支える。出戻りと言えばTOTOは元々ツインキーボードのバンドでPorcaro兄弟の末弟Steveが在籍していたが、一時期バンドを離れたのち、現在は復帰している(一時Greg PhillinganesとDavid Paichのツインキーボードだった時期あり)。

バンドの顔メインヴォーカリストはBobby Kimball⇒故Fergie Frederiksen⇒Joseph Williams⇒Jean-Michel Byron⇒専任ヴォーカリスト不在⇒Bobby Kimball復帰⇒Joseph Williams復帰と意外に頻繁に変わっている。

こんな頻繁なメンバーのチェンジがあったバンドも、バンドの「芯」のカラーが変わったのは実は一度だけ。それはドラマーがPorcaro兄弟の長兄、故Jeff Porcaroから二代目のSimon Phillipsに変わった地点(厳密には現時点でドラマーは三代目のKeith Carlockに変わっているが、Keithはまだ自分のカラーでバンドを染めるというところまで行っていない)。TOTO関連ではJeffの他にMikeとFergieが既に鬼籍に入ったが、Mikeは永い闘病の末での覚悟された死、Fergieは既にバンドを離れて永かったので、バンドの音楽性に与えた影響はほとんどなかったが、Jeffはアルバム完成直後、そのアルバムをひっさげたツアーが予定されていた時点での事故死のためTOTOはバンド存続の危機に陥る。

そこでツアーの助っ人に入った凄腕ドラマーSimonがこのバンドを現在まで至らせる「核」を創ったと言える。テクニック的にはJeffとSimon、違う方向性で頂点にいた人物でその意味では問題ない。ただノリが全然異なり、タメとうねりで「Halftime shuffle」-別名「TOTO shuffle」とも言われるビートを生み出したグルーヴの達人Jeffに対して、多くのドラムをセッティングし千手観音の様なテクニカルなプレイから複数セッティングする自身考案のスネアドラムを使い分けて「間(ま)」のあるタイトなプレイもできるSimon。横ノリ系のJeffと縦ノリ系のSimon、コクのJeffにキレのSimonと全くノリが違う。

ちょうどバンドも専任ヴォーカリスト不在でシングルキーボードと4ピースで一番「個」がでる構成の時のドラマーチェンジはTOTO全体の音造りを変えた。前作でギターバンドに大きく舵を切ったTOTOはキーボードの比率も高まり、ヘヴィ度はやや影を潜め、空間を切り裂くSimonのプレイがよく映える曲調となった。

そのアルバム“Tambu”からのシングル。

...と言ってもその“Tambu”の中では一番ギター寄りではないかと思われるハードな曲が「Drag Him To The Roof」。スピード感溢れるギターのリフとピアノのオブリ、ドラムのリズミカルなタム回しがスリリング!中間のギターソロとアウトロのギター&ピアノソロは単なるソロではなく、ドラムスとのオンビートバトルのような様相でSimonの個性が良く出ている。

続く「I Will Remember」はEdit版で残念ながら元曲6分の曲が4分少々に縮められているが、甘いLuke(Steve Lukather)の声が沁みるバラード。名盤“Ⅳ”

の「I Won't Hold You Back」を彷彿とさせるドラマチックな構成。この曲はむしろ英国で評価され、チャートインした。

ラストは隠れ名盤“Fahrenheit”

からジャズトランペットの巨匠Miles Davisを迎えたインスト曲「Don't Stop Me Now」でこれはcybercatにとってTOTOの曲中で五指に入る程好きな曲。当然これはJeffのプレイなのだが、TOTOの多様性を魅せるにはよい選曲。ただこれから新生TOTOで行きます!という時に選ぶ曲かいな、とは思うけれど。

Simonは結局このバンドになじみ、永く新生TOTOのカラーでありつづけた。その彼のイントロデュースとも言えるテクニカルプレイ満載の本作、最初聞いたときにはノリの違いに驚いたが、でもやっぱり紛れもなくTOTO。

そんな印象を受けるのは他プレイヤーの音に瞬時に反応し、自分の音を乗っけていくSimonのプレイスタイルにあるのかも知れない。
オレンジの盤が初期のアナログ盤=Columbiaっぽいな
オレンジの盤が初期のアナログ盤=Columbiaっぽいな
一度死にかけたバンドが「生き返る」のを目の当たりにした作品です。

【収録曲】
1. Drag Him To The Roof
2. I Will Remember (Edit)
3. Don't Stop Me Now

  • 購入金額

    1,200円

  • 購入日

    1995年頃

  • 購入場所

14人がこのレビューをCOOLしました!

コメント (2)

  • jive9821さん

    2015/10/13

    Tambuは今までのサウンドとは違っていても、この曲のようなギターサウンドもあれば「I Will Remember」や「The Other End Of Time」のようなバラードファンに受けそうな曲まであって、Jeff Porcaroなしでもいけそうだと思ったのですが、Simon在籍時のアルバムでは結局これ以上のものが出なかった気がします。

    個別の曲には良いものがあっても、これ以降のアルバムではTOTOの良さであった多様性を失ったままに感じられてしまいますので…。
  • cybercatさん

    2015/10/13

    >個別の曲には良いものがあっても、これ以降のアルバムではTOTOの良さであった多様性を失ったまま
    同じ感想を持っています。

    まあ一時解散前の終末期はPaichもツアーに帯同せず、結局TOTOのアイデアの源泉がLuke一人になってしまった時期がありましたからねぇ..
    Simonの何でもこなす多彩なプレイをもう少し生かしてもらいたかったなー、と。

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