レビューメディア「ジグソー」

歳を感じさせない若々しい音

所持する音楽データに対する私利私欲...イヤ私情私見あふれるコメント、音楽の杜。こういった分野のものは「好み」ですし、優劣を付けるのもそぐわない気がしますので、満足度の☆はあくまで私的な思い入れです。年齢を重ねることで人は大きく2方向に分かれていくような気がします。歳をとって自分の得意フィールドに籠もってそこを突き詰めていく人、歳をとってコダワリやしがらみが少なくなり新しいフィールドに出ていく人。ジャズの名プレイヤーとして地位を確立しながら死すその直前まで新しいジャンルに挑戦したプレイヤーの作品をご紹介します。

Victor Feldman。いままで何度かご紹介してきたが、

それは彼のカバーするジャンルの端のエリア。ジャズドラマー&ピアニスト、イギリスからアメリカに渡り4ビート~ビッグバンドに前衛ジャズ、さらにはFrank SinatraやElvis Presleyなどの歌ものバックまで幅広く対応できる音楽性を持ったミュージシャン。そういえばGino Vannelliの快(怪)盤“Brother to Brother”

でもヴィブラフォンプレイヤーとして参加してた。

そんな彼がもう五十の声を聞こうか、というあたりで立ち上げたのがフュージョンバンド「Victor Feldman's Generation Band」。アメリカ西海岸を中心とする(当時)若手インスト系ミュージシャンを迎えて当時流行していたフュージョンに挑戦。そして“Generation”の意味するところは自分の息子(達)との共演。ベーシストのJake Feldmanはこのシリーズ通して1曲しか参加していないが、ドラマーのTrevor Feldmanはほとんどの楽曲に絡み、親子共演を果たしている。

 

若々しいTom Scottのサックスやリリコンの調べが気持ちよいライトフュージョンアルバムに仕上がっている。

 

出だしの「Cafe Lido」はイントロの16分音符のバスドラの刻みがカシオペアのようなテクニカル系の曲を想像させるが、メロに入ると南部的に?ハッピーなTomのサックス。それを追いかけるようにベースで対旋律を形作るのはこの曲をはじめ本作の半数の曲を作曲したベーシストのMax Bennett。アルバムの幕開けにふさわしいキャッチーな曲。

 

クロスオーバー的ライトポップスさ?が感じられる「Candy Dance」。軽やかなDean Parksのギターのカッティングと呼応した(曲の造りとして主従逆か?)スチールドラムの様な印象のあるシンセのトロピカルな感じの音が心地よい(実際の音は結構違うのでそんな感じがするのは奏法のせいか?)。グリスなどを駆使した歌心あるベースラインはMaxではなくて、本作ではラストの「Seven Stops To Heaven」と2曲を担当するAbraham Laboriel (Sr.)。

 

ファンキィなDeanのギターのカッティングとMaxのベースラインがイイ感じの「Downtown Dallas」。Victorのコロコロとパーカッシブな音のローズソロに続くTomのテナーサックスソロもハッピーな感じで楽しくなる。人生を楽しんでいるのが想像できる。

実はこの作品、日本では“L.A. SUPER RHYTHMS”なるアーティスト名で売り出されていた。本作にも参加しているTomの“The L.A. Express”を盗y..リスペクトしたようなこの名は、VictorのソロおよびGeneration Band名義のフュージョンタッチの作品を纏めて売り出したかった(そしてあわよくば当時荒れていたThe L.A. Expressにあやかりたいと)日本の盤元での命名のようだが、Miles DavisとのセッションやScott LaFaroとの共演など、ジャズ本流の作品も多く残しているVictorの作品から同系統のものを探り当てるのに便利だったのは確か。

ちなみにこの作品の邦題は“ザ・ラスト”。実は本当の順番的にはラス前なのだが、日本でのリリースはGeneration Band名義の4作品のうち最後にリリースされたから。...というのもこれが日本でリリースされる2年前、Victorは54歳の若さで他界していてこのメンツでのこれ以上の作品リリースはない事がわかっていたから。

Victorの膨大な作品群の中では異端とも言える「フュージョン系」。でもそこには歳をとっても新しいことを吸収するのに前向きだったVictorのヤル気と、息子Tervorとの共演を楽しむ父親としての愛が感じられる作品群がある。

(アルバム名などは原題通りだが)ジャケットも日本仕様。元はたしか水着のねーちゃん。
(アルバム名などは原題通りだが)ジャケットも日本仕様。元はたしか水着のねーちゃん。

「ジャパニーズフュージョン」とは少し違う、彼のハッピーな作品をもう少し聴いていかったなぁ、と感じさせるできあがりです。

【収録曲】
1. Cafe Lido
2. High Visibility
3. Brazilia
4. Candy Dance
5. Low Visibility
6. Downtown Dallas
7. China Blues
8. Seven Stops To Heaven

「Brazilia」

  • 購入金額

    3,008円

  • 購入日

    1989年頃

  • 購入場所

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