THE SQUARE。後にT-SQUAREと改名する日本を代表する長寿フュージョンバンド。ギタリスト安藤正容(当時まさひろと表記)を中心とするバンドだが、40年近い歴史の中にはメンバーの変遷もあれば曲調の変化もある。
デビュー当時はクロスオーバーと呼んだ方がよいような軽めのリズムのポップスとジャズ系の混じった曲調だったが、その後ビートの明確なインストポップスを経て彼等の最大のヒット曲「TRUTH」でロック調を前面に出した方向性となる。その後サックスがテクニシャンに交替するとややキメの多い系の楽曲に行く。その後一時期メンバーが離散してアルバムごとにメンツ組み替えみたいな時期を挟んで、ここ10年ほどは初代サックスが出戻り、元気の良い若手リズム隊が支えるという形で安定している。
このアルバムは「ビートの明確なインストポップス」の頃の作品。作品としては彼等の方向性を決定づけた名作“ADVENTURES”の同路線でわずか半年後に出たもののため、やや印象が薄いが、実はアルバム全体の完成度はけっこう高い。
メンツはギターが安藤、サックスが伊東たけし、キーボードが和泉宏隆、ベースが田中豊雪、ドラムスが長谷部徹。初期はメンツの変更が多く同じメンバーで作ったアルバムがほぼない、といわれたTHE SQUAREの最初の安定期で、このメンツで5作品を上梓したが、その4枚目。メンバーの親和性が増しつつも、まだ倦怠期ではないという状態で、メンバー構成的にもそれが名盤となる下地になっている。
「いとしのうなじ」。導入は静かな感じに入るがリズムインすると「ADVENTURES」風の「THE」SQUAREサウンド。伊東のLyriconサウンドが懐かしい。この音はデジタルやサンプラーでは完全再現は難しい。長谷部&田中の中期明解リズムコンビが、後のジャズ系のテクニシャンにはないストレートさで気持ちよい。曲は前キーボーディスト久米大作による。
「MISTRAL」は今回メインコンポーザー安藤と同じ数の曲を提供するキーボディスト和泉の曲。直前の「CRY FOR THE MOON」やラストの「遠雷」のようにリリカルかつドラマチックな曲をなす印象が強い和泉だが、意外にも結構アップテンポの曲にも名曲が多い。3連符系のファンキィなタッチの曲。ラッパ隊が生で(メンツはJake Conception、兼崎順一、金井豊、新井英治のゴージャスさ)ノリノリ!田中のチョッパー(この時代はスラップという言葉はなかった)ソロも「四角い」ビートでまさに「わかりやすい」。
「OVERNIGHT SENSATION」。中期T(HE)- SQUAREを代表するあっけらカーンとしたチューン。よくコンサートの最後にも演られたハッピーかつノリの良い曲。ピュン、ピュンという「エレドラ」が懐かしく、またその後のリズム隊とは異なるテクニックを前面に出さないシンプル系の田中+長谷部コンビのプレイが今となってはむしろ新鮮。初夏から盛夏までを彷彿とさせるような明るい曲で、これからの季節に聴きたい曲だ。
作曲数は他を圧倒しているし、「TRUTH」などいわゆる「T(HE)-SQUAREらしい曲」を書く安藤だが、意外にアルバムとして出来がいいのは他者が過半の曲を書いている作品だったりもする。そういう意味では本作はそれで、安藤が3曲なのに対して、和泉が3曲、伊東と久米(元メンバー)が1曲ずつと過度に安藤カラーに染まっていない。
ちょうどバンドとしても取りあえずの安定期に入ったあたりで、セールスも付いてきていて...と初期の上り坂をガンガン登っているところ。彼等がわかりやすく解釈して根付かせた「フュージョン」は日本だけでその後も長く残り、早期にスムーズジャズ方面に移行した海外に向けて今では逆に輸出されるような感じに。そんなバンドの「和」の解釈を入れたフュージョン、「ジャパニーズフュージョン」の奔りのあたりの作品です。
【収録曲】
1. いとしのうなじ
2. MAYBE I'M WRONG
3. CRY FOR THE MOON
4. MISTRAL
5. DESTINATION
6. OVERNIGHT SENSATION
7. MIST OF TIME
8. 遠雷
「いとしのうなじ」
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購入金額
2,800円
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購入日
1984年頃
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購入場所
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