日記で書いたのですが、先日のポタフェスで試聴したJH AUDIO製イヤフォン、Michelleのバランス接続時の音をかなり気に入ったのですが、手持ちのDAPでバランス接続に対応したものが1つも無いということに気付きました。ハイレゾ対応品だけでも、これだけ台数は揃っているのですが…。
製品分類上はポタアンとなる、プレイヤーに準じる(単体でコンテンツ再生時の操作が可能)ものも含めれば
もある訳です。ホームオーディオの世界では必ずしもバランス接続が全面的に優位というわけでもないのかも知れませんが、DAPに関してはバランス接続が不利な環境というのはまず考えられず、対応出来るのであれば是非しておきたいものです。
とはいえ、個人的な感覚としてDAPに払える金額というのは上限でも3万円前後というものがあります。ところが現時点でバランス出力に対応したDAPというと、最廉価品でも実売価格5万円前後のAstell&Kern AK70、Lotoo PAW5000、Luxury&precision L3、Pioneer XDP-300R辺りであり、価格帯が結構違ってきます。
以前Astell&Kern AK70は試聴イベントでじっくりと使わせていただいていて、実力は高く評価していましたから、次に買うのならこれの格安処分品か中古品かと思っていたのです。ところが、代理店の直販サイトのセール案内メールを読んでいると、期間限定ながら型落ちとなったAstell&Kern AK100IIのメーカー再整備品が3万円を割るということが判り、これなら買っても良い金額だと思い早速注文したのです。
Astell&KernのDAPは決して安い買い物ではないのですが、保護シートやキャリングケースが標準添付というのは気が利いていて好感が持ています。第2世代以降は背面もクリアパネル仕上げであるため、保護シートは表面・裏面にそれぞれ用意されています。
初代AK100と比べると縦長のボディーとなりましたが、デザインのテイストは実は案外近いのかも知れません。
画面サイズや解像度は向上していますが、個人的にはDAPにはさほどその辺りは求めていません。強いていえば、サイズが大きくなり、UIも改善されたことにより操作性は先代よりも向上しているとは思いますが。
背面もそれなりにきちんとデザインされていますが、どうせ標準添付のケースを使うと見えなくなる訳で…。当時のラインアップではローエンドモデルなので、あまりこだわる部分ではないのですが、発売当初は10万円クラスの製品であったことを考えると、この程度きちんと作られていないと所有欲は満たされないかも知れませんね。
意外な癖の強さ
この製品は通常の3.5mmステレオミニ端子によるアンバランス出力の他に、2.5mm4極のプラグによるバランス出力に対応しています。
この類の製品ではバランスとアンバランスとで音質が大きく異なる場合もありますので、音質評価は一応双方を使って行っています。組み合わせたのは以下のイヤフォン・ヘッドフォンです。
また、これ以外にSENNHEISER IE80によく似た何かを、バランス、アンバランスで各1本ずつ用意して試聴します。
まず、ヘッドフォン2本については割合そつなくならすという印象です。据え置き型のヘッドフォンアンプと比べると低域方向の馬力や解像度などは明らかに落ちますが、DAPとしてはまずまずというところでしょう。少なくとも先代AK100のように、HD650をまともに鳴らせないというものではありません。
一方でイヤフォンの方では、相性の良し悪しが思いの外極端に出ました。驚いたのはUltimateEars UE900は全く駄目だということです。UE900の持ち味である空間の広さも味わえませんし、低域の力感のなさも目立ちます。高域方向も緻密というよりは神経質で聞き苦しいものとなってしまい、この組み合わせは数曲聴いただけで諦めました。
audio-technica ATH-CKR10はそれと比べれば悪くはないのですが、全く面白みがない音となってしまい、聴いていても楽しくありません。元々音場がさほど広がらないATH-CKR10ですが、FOSTEX HP-A8で聴いたときよりも明らかに空間が狭くなります。これも組み合わせとしてさほど良いとはいえません。
一方で意外な相性の良さとなったのはELECOM EHP-BA100で、他の機材との組み合わせではアコースティック系のサウンド専門といえるような極端な傾向を示すのですが、AK100IIとの組み合わせではもう少しカバー出来る範囲が広がるという印象です。さすがに「Home Of The Brave / TOTO」(アルバム「THE SEVENTH ONE」収録)のキレがきちんと出るほどではありませんが、もう少し大人しめの曲であれば何とかなる程度です。
また、audio-technica ATH-IM02もAK100IIのややスピード感が鈍いところを上手く補ってくれるようで、大体どのジャンルの楽曲も心地良く鳴らしてくれました。EHP-BA100やATH-IM02であれば、常用出来る組み合わせといえそうです。もっとも、組み合わせた中で総じて高い水準の音を聴かせてくれたのは、結局普段から他のプレイヤーで常用している、IE80もどきでしたが…。
当然組み合わせによって音質傾向は大きく変化するのですが、どの組み合わせでも感じられた特徴としては、弦楽器の質感は高い水準である一方で、スネアドラムの音がどの楽曲でも引っ込んでしまうこと、また低域も最低域の方向が明らかに不足していて、少し上の帯域を盛ってバランスを取ろうとしているということでしょうか。高域方向も緻密ですが、SONY NW-ZX1やNW-A16と比べるとややクリアさでは劣る感じがしますし、ハイハットの音では叩いている瞬間が少し丸まって、その後の響きの部分が細かく出ているという印象を受けてしまいます。結果としてソフトで聴き疲れしづらい音になっているのかもしれませんが、それは意図した結果という訳ではないでしょう。
新世代のAKシリーズを試聴していても思うのですが、開発時の試聴ソースにかなりの偏りがあるのではないかと感じます。実際にAK3x0でも、試聴用に入っているクラシックやジャズの音は素晴らしいのですが、私が普段聴くTOTOやChicagoを楽しめるかといわれると疑問が残るのです。
もちろん先代AK100と比べれば殆ど全面的に進歩していて、価格と新しさが素直に表れているという印象は受けるのですが、発売当時の約10万円という金額に見合った音かといわれると少し疑問が残ります。今回の購入金額で判断すれば全く文句は言えませんが…。
ここまではアンバランス接続時の話ですが、これをバランス接続するとどうなるのかです。生憎IE80もどきを除き、2.5mm4極のバランス接続に対応したケーブルを用意出来ませんでしたので、この1本だけで試聴します。
アンバランスと比較すると明らかに良くなるのは低域方向です。最低域が不足する辺りは変わらないのですが、ベースラインの明瞭度がまるで違います。アンバランスでは何となく鳴っていたベースが、きちんと演奏していると感じられるようになるのです。高域方向もクリアさが増し、SONY製品と比べても引けを取らない程度になりました。
ただ、それでも本質的な弱点はアンバランス時の音質と変わりません。特にTOTOの楽曲でスネアドラムが引っ込んでしまうのはかなり致命的です。全く演奏を楽しめません。はっきり言ってしまえば、以前聴いたAK70よりは実力は下かも知れません。星は購入価格に対してつけていますので比較的高評価ですが、発売当初の価格だったら2.5~3程度でしょう。
コストパフォーマンスは高いが…
初代AK100でも、本来の価格は率直に言って高いと思ったのですが、AK100IIで10万円超えは個人的には「無いな」と感じました。
他の要素を無視して3.5mmアンバランスの音質だけを評するのであれば、発売当初約7万円だったONKYO DAC-HA300の方が上でしょう。これと同じクラスで発売されていたとすれば、バランス出力やUI・操作性の良さ、機能でカバー出来ると思うのですが。10万円のDAPを買って「ちゃんと鳴らしたければ外付けのポタアンを使ってね」では、釈然としないものを感じます。
今回はあくまでも「3万円を割り込んでいて、バランス出力まで備えた良質なDAP」という観点での高評価です。この価格帯であれば、ライバルとなるのはSONY NW-A26HNの処分品となるわけで、DAPとしての実力では明らかに優位に立ちますからね。
実際にAK100IIを入手してみて感じたのは、ラインアップ上は下位の扱いとなるAK70の実力の高さです。より上位のAK3x0と比較しても、特にTOTOのアルバムを聴く分には楽曲を楽しめる音でした。もちろん、ジャズのウッドベースの質感などはAK3x0の方が圧倒的に良いのはいうまでもありませんが。
DAPは組み合わせるヘッドフォン・イヤフォンによって印象が激変する機械ではあるのですが、AK70は私が普段使っているヘッドフォン・イヤフォンの多くと組み合わせても目立って悪い組み合わせはありませんでした。それだけでもAK100IIよりは魅力があるといえます。
この辺りのDAPを検討している方がいらっしゃるとすれば、AK100IIは4万円を割っていれば充分に買い、5万を超えるのであればセール価格を待ってAK70を選ぶことを、それぞれお薦めしておきます。
-
購入金額
29,800円
-
購入日
2016年12月26日
-
購入場所
アキハバラe市場
cybercatさん
2016/12/29
なので自分は緻密さはないもののおおらかに鳴らすN5の方が最近よく使っています。
価格に関してはおっしゃる通りで、本来は第一世代の価格の延長程度が値ごろ感だと思います。
ただここのDAPの価格がつりあがっちゃったのでmp3再生機で一度地に落ちたポータブルDAPの平均売価が上がり、その下部を支える形で中華DAPが大量に入ってきたり、ONKYO/Pioneerが「商売が成り立つ価格で」DAPを出せたり、SONYの超弩級機を受け入れる下地ができたりしたともいえるので、悪いことばかりじゃなかったのかなと肯定的に考えるようにしていますw
jive9821さん
2016/12/29
ここまでイヤフォンによって極端に印象が変わるとは思っていなかったので、ちょっと驚きました。初代AK100よりも、相性はずっと厳しい気がします。
価格面では、当時のローエンドだったこの機種で10万円を超えていたというのは、やはりやり過ぎ感が強い気がします。初代と同等または1万円程度のアップで済んでいれば、より評価出来たと思いますが…。AK380 Copper辺りになると、ハイエンドとしても高すぎると思いますし。
結果的にこのジャンルの参入メーカーが増えたことは確かにプラスですが、低価格帯できちんと音質面でも頑張っているのが、一部中華プレイヤーを除けばSONYだけであり、気軽に使えるものとの二極化が激しすぎるのは課題と思っています。