先日中古通販リストを眺めていると、FOSTEX HP-A8のジャンク品が出ているのを見つけました。とはいえ、ジャンク品でも価格は29,800円(税抜き)と決して安くはありません。
ただ、ジャンクの理由を見てみると「リモコン使用不能」となっているのです。裏を返せば本体は正常である可能性が高いということになります。そしてリモコンも本体の受信部が壊れていれば仕方ありませんが、リモコンが壊れているだけであればメーカーのサービス部品販売で買うことが出来る(直販価格1,296円)ので問題とはなりません。という訳で、少なくともこの製品の音質を体感するには不都合は無いだろうと考え、買ってみることにしました。
フロントパネルはかつての山水電気製アンプでも見られた光沢のブラックで、下位製品との外観の違いを演出するのに一役買っています。
添付品は電源ケーブルとこのスタートマニュアルだけでした。問題となっていたリモコンはそもそも添付されていません。これを見て、とりあえずリモコンは注文しておきました。
リモコンが無くてもUSB-DAC/DDC、ヘッドフォンアンプとしては全く問題なく使えるのですが、後述するSDプレイヤー機能とファームウェア更新には不都合があるのです。
(追記)
ファームウェア更新については、本体の「input sel」ボタンを押し込むことでメニューが表示され、その中にファームウェア更新機能も含まれており、リモコンなしの操作が可能であることが判明しました。SDプレイヤーの操作についてはリモコンが必要であることは変わりありません。
他の機材との格の違いを見せつける
今まで私が主に使っていた環境は、DigitalAudioLabs CardDeluxe CDX-01の同軸デジタル出力からLUXMAN DA-100のD/Aコンバーターを使いヘッドフォンで聴くというものか、LINDEMANN USB-DAC 24/192Xのアナログ出力をemagic a6|2mに入力して、そのヘッドフォン出力を使うというものです。
音質だけでいえばバランス出力時のRATOC RAL-DSDHA2がベストだったのですが、この恩恵が受けられるのはSENNHEISER HD650だけであり、他のヘッドフォンも満遍なく楽しむという使い方に向いていないため、使用頻度はあまり高くはありません。
しかし、率直に言ってこのHP-A8の導入により、この環境を根本的に見直そうと考えてしまうほど、音質の差がはっきりと表れました。HD650の再生音で端的に言ってしまうと、今までバランス接続のRAL-DSDHA2でやっと出せていた次元の音が、アンバランス接続のHP-A8からあっさりと出て来てしまうというほどのグレード差があるのです。
今まで手持ちの中で最もモニターライクであると思われたCardDeluxeの同軸デジタル出力の音に、まだ不鮮明さが残っていたという事を見せつけられてしまいました。
例えばこの楽曲では、ベースラインの力感と明瞭さ、そして高域方向の緻密さは、今まで自分の環境では聴けなかった次元に達しています。それでいてヴォーカルや楽器の質感も全く悪いものでは無く、弦楽器の繊細さなども素晴らしいものがあります。
それでいてDavid Garrettのヴァイオリンも実に伸びやかでありながら、僅かな弦のこすれまでも余さず伝えてくるほどの緻密さがあります。
私が最も試聴ソースとして多用する、ChicagoやTOTOの楽曲でも特に文句をつけるべき点は見当たりません。
果ては電子音の固まりのような、fripSideのようなソースであっても、録音の質という限界は感じるものの、鳴らし方として文句は特につけられません
とにかく弱点らしい弱点は特になく、分解能の高さや音の深みで明らかにこれまでの環境に大きく差をつけているという印象です。長らく愛用してきたLUXMAN DA-100は、恐らくメインPCからは外してしまうことになるでしょう。
多彩な入力ソース数
USB DACとしての実力だけでも見事なものではあるのですが、この製品のもう一つの大きな魅力は入力ソースの多彩さです。以下は背面パネルの写真です。
入力ソースをざっと並べてみると、
・USB(USB Audio Class 2.0対応)
・光デジタル(2系統)
・同軸デジタル
・アナログライン(RCAピン)
・SDメモリーカード
・AES/EBU
とあり、ちょっとしたセレクターとしても使えてしまいそうな系統数です。注目するべきはアナログ入力があり、単品のヘッドフォンアンプとしても機能するということと、簡易SDプレイヤー機能があるということでしょう。
SDプレイヤー機能は、ここからのみDSDファイルの再生が可能(発売当初の仕様。現在はファームウェアの更新とソフトウェアの提供でPCからの再生にも対応)というもので、USB接続を介さずに再生することを可能とするために必要だったものと見られます。
また、DA-100を含め今までのUSB DAC類に用意されていなかったアナログ入力が用意されたことで、ようやくLINDEMANN USB-DAC 24/192Xをヘッドフォンアンプで聴くことが出来るようになったのですが、USB-DAC 24/192Xもやはりそれなりに高い実力を持つ製品であったことは再認識できました。高域の繊細さなどは今まで通りの印象ですが、低域方向は予想以上に力強い音が出ていました。
強いていえばリモコンが機能しないとSDプレイヤー機能はほぼ使えないということ、またファームウェア更新にもリモコンが必須であるということが機能面での弱点といえるかも知れません。この辺りは本体にもボタンを用意しておいて問題は無いと思いますからね。
元値でも充分にその価値はある
今回はジャンク品で価格が下がったために買った訳ですが、仮に通常の新品価格であってもこの音質と機能であれば決して割高感は無い製品だと思います。
現在はD/Aコンバーターの変更等によりDSD 11.2MHzにネイティブ対応した後継モデルHP-A8 MKIIも登場していますが、本機搭載のAK4399とHP-A8MKII搭載のAK4490の好みでどちらを選ぶか決めても良い程度の差ではないかと思います。
価格帯の割にバランス接続に対応しないなどの弱点もあるにはあるのですが、アンバランスで出ている音質の水準を考えれば、敢えてバランス接続にこだわる必要も無いのではないかと感じさせられます。
近日中にメインPC周りのシステムに組み込むのは間違いないのですが、どの機材を外して組み込むかしばらく考えたいと思います。
最後にこの製品自体の問題というわけでは無いのですが、一つだけ苦言を呈しておきます。FOSTEXはアップデートやソフトウェアを結構きちんとWebで提供してくれるのですが、日本語サイトのダウンロードがとにかく絶望的に遅いのです。マニュアルなどファイルサイズのあるものでは、タイムアウトでダウンロードが中断されてしまうほどの遅さです。
インターナショナルサイトではごく普通の速度でダウンロードできますので、あくまでも日本語向けの「fostex.jp」の問題だと思います。USBドライバーなどはここから全く同じものをダウンロードすることが出来ますので、インターナショナルサイトの利用をお勧めしておきます。
マニュアルなども更新されているものを読みたいのですが、いまだかつてきちんとダウンロードできたことがありません。折角のよく出来た製品を快適に使うためにも、この辺りの改善は急務ではないかと思います。
-
購入金額
32,184円
-
購入日
2016年10月30日
-
購入場所
ソフマップ
harmankardonさん
2016/10/30
jive9821さん
2016/10/30
ジャンク品としては結構高価ですし、他の機材と同一環境で試聴したことが無かった製品なので、結構ギャンブル性の高い買い物だったと思うのですが、この音を出されてしまうとむしろ安かったとしか思えなくなりました。
後は注文したリモコンが使えてくれれば最高なのですが…。