近年、Chicagoの全アルバムの権利がRhino Recordsに移ったことにより、制作時のレーベルを超えた編集盤などが可能になったほか、もともと復刻盤を得意とするRhino Recordsだけあり、積極的に高音質リマスター盤も発売してくれるようになりました。
ただ、現時点でRhino Recordsによるリマスター盤は、1984年発売の「Chicago 17」までに限られていて、この作品は昔のマスターのまま発売されています。一方で日本の発売元であるWarner MusicではRhino Recordsから提供されたリマスター盤とは別に、レコード盤を模した紙ジャケットのリマスター盤を、2010年のChicago来日公演に合わせて限定発売していて、こちらはRhino Recordsによるリマスター音源がないものについては、日本で独自に作成したリマスター音源を使用していて、「Chicago 18」以降のこのシリーズは日本リマスターの音源によるものです。
このリマスターについては詳細は明らかにされていませんが、恐らく従来のマスターに対して、聴感上の音質を向上させるための各種加工を施したものではないかと予想されます。なぜこれが予想できるのかといえば、「Chicago 18」は発売当初のCDとLPを比較すると、左右の音が逆になっているためです。
先に「Chicago 18」以降の作品はRhino Recordsによるリマスターを受けていないと書きましたが、厳密に言えば「Chicago 18」以降の曲であっても「Chicago 27」以降に編集されたベスト盤に収録された曲については、個別にリマスターを受けています。このRhinoリマスターを受けた曲と、LP盤の方の「Chicago 18」では左右の配置が同じとなり、通常のCD盤「Chicago 18」ではリマスター盤の方と逆になるのです。このことから、従来のCDで使われたマスターの制作過程に不備があったのではないかと考えられるのです。
そして日本のWarner Musicのリマスター盤では、聴感上の音質は大きく向上しているものの、左右の配置は従来のCD盤と変わっていません。これが紙ジャケットリマスター盤の音源が従来のマスターに対する加工のみと予想できた理由です。
実際のところCDとLPの差は左右の音だけではなく、CD盤の方にカセットデッキに詳しい方であれば理解できると思うのですが、所謂アジマスずれと思われるような劣化がはっきりと認められます。LP盤の方ではこれは殆ど感じられませんので、CDで使われたマスターの品質には疑問を感じざるを得ません。
さて、音楽的な部分についても少し触れておきますが、この作品は「Voice of Chicago」と呼ばれ、代表的なバラード系ヒット曲である「Hard To Say I'm Sorry(素直になれなくて)」「Hard Habit To Break(忘れ得ぬ君に)」でヴォーカリストを務めていたPeter Ceteraが脱退した直後の作品となります。Peter Ceteraはハイトーン側のヴォーカルとベースを担当していましたが、幸いなことに後任として迎えられたJason ScheffもPeter Ceteraに匹敵するハイトーンのヴォーカルと、優れたベースの手腕を持っていました。Jason Scheffは元Mr.MisterのRichard Pageとのオーディションの末Chicagoへの加入が決まったのですが、その大きな理由となったのは彼に個人的にヴォーカルのレッスンを施していた、「Chicago 16」から加入していたメンバーであるBill Champlinの推薦といわれています。
本作からの第一弾シングルとなったのは、Chicagoの出世作となった「25 Or 6 To 4」のセルフリメイク版でした。オリジナルと比べて随分重厚なアレンジを施されたこの曲は、話題にはなったもののそれほどのヒットとはならず、結果的にPeter Ceteraが主導していたAOR路線を継承した、Jason Scheffが歌う名曲「Will You Still Love Me?」や「If She Would Have Been Faithful...」がヒットを記録したことにより、世間にもChicago健在が印象づけられる結果となりました。
本作は前2作品と同様、David Fosterがプロデュースしていますが、Peter Cetera在籍時の2作品と比較するとChicagoの特徴であるホーンセクションがやや目立つようになり、音作りも力強いロック的な部分が見えるようになっています。Peter Cetera以外のメンバーが志向していた音に近づいた結果ではないかと思われます。
かつて新規加入した若いメンバーとの折り合いに苦労したChicagoであるだけに、他のメンバーよりも20歳近くも若い、新規加入したJason Scheffをどこまでフィーチャーするかという手探り感が感じられますが、Jason自身は旧知のBill Champlinという存在があったこともあり、若々しさを十分に発揮しているという印象を受けます。次作となる「Chicago 19」では既にグループにすっかり溶け込み実力を発揮しているだけに、初々しさや爽やかさという辺りは本作ならではのものでしょう。
若いJason Scheffの存在が、他のメンバーに少し力強さを取り戻させた、そんな作品といえるでしょう。それだけに、CDでも最初からきちんとした音質で発売して欲しかったところです。
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購入金額
300円
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購入日
不明
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購入場所
cybercatさん
2013/01/28
>若いJason Scheffの存在が、他のメンバーに少し力強さを取り戻させた、そんな作品といえるでしょう。
バンドが危機の時に、奇跡のように前任者の穴を埋めてあまりある逸材が現れる事がありますが、Jasonはまさなそんな感じでしたね。
ほぼ親子ほど年が違うメンバーと今でも変わらず、Chicagoでありつづける。
19以降はすっかりなじんだ彼でしたが、おっしゃるとおり、この盤では「手探り感」がありますね。
jive9821さん
2013/01/28
自分自身こだわりのあるChicagoのレビューだけは、ある程度きちんと書こうと努力してみました。cybercatさんのような多方面の知識があるわけではありませんので、他の音楽関連はもっと薄い内容になってしまうかと思いますが…。
>バンドが危機の時に、奇跡のように前任者の穴を埋めてあまりある逸材が現れる事
個人的にはJourney辺りはその意味で凄いバンドだと思っています。Steve Perryのヴォーカル無しでは成り立たないと思われたものの、Steve AugeriやArnel Pinedaといった、代わりに歌えるシンガーが次々と現れましたからね。ChicagoはPeter Cetera→Jason Scheffの交代は上手くいったものの、Bill Champlinの代役として加入したLou Pardiniは実力・実績共に十分な人なのですが、どうしてもシンガーとしての傾向が違うために、ライブなどでじわじわとBill不在の影響を感じさせられてしまいます。
今後もChicago関連はそれなりに細かいレビューを書いていきたいと思いますので、ご覧いただけましたら幸いです。