レビューメディア「ジグソー」

iPod系から移ると戻れない高音質

音楽を聴くのが好きで、初代のカセットウォークマンから、レコーディングウォークマン、MDウォークマンとSONYウォークマンシリーズを愛用してきた。しかし、あるとき突然MDウォークマンが壊れたので、その時持っていたガラケーの音楽再生機能の利用に移行した。しかし音楽再生で携帯の電池の持ちが短くなって電話できない事態が発生し、これでは本末転倒なので、その後iPod Shuffle 3Gをプレゼントされたので、音楽を聴くのはそれに移行していた。

iPod Shuffleはミニマムな大きさのくせに音の作り方が上手く、以前のガラケーのやせた音よりも気に入って使っていた。

しばらく後にボーカロイドスター初音ミクとコラボしたウォークマン(当然今時なのでシリコンオーディオ)が出て入手したが、どちらかと言えばコレクションとして入手したので相変わらず音楽はiPod Shuffleで聴いていた。

そんなとき、ネットでこんな話を聞く。
「ウォークマンはiPodより全然音質が良い、特に「S」シリーズが高音質」
...そういえば自分の持つ初音ミク仕様は....「NW-S764」
「S」シリーズではないか。

そこまで言うなら聴き比べてみよう。

死蔵していた「NW-S764/L/MIKU」を取り出して充電してみた...

準備
NW-S764/L/MIKUの付属品は以下の通り。

本体と充電・転送用USBケーブル、イヤホンと換えイヤーピース、特典ストラップなど
本体と充電・転送用USBケーブル、イヤホンと換えイヤーピース、特典ストラップなど

本体の他に、充電と楽曲転送に使うUSBケーブル、イヤホンと2種の違う大きさの換えイヤーピース、クレードル用アダプタと説明書類。それに今回の初音ミクコラボモデルと言うことで、特典のストラップが付く。

黒に白く染め抜かれたミクストラップ
黒に白く染め抜かれたミクストラップ

本体裏にはミクと鍵盤をデザインしたオリジナルイラストと各色3939台のうちのひとつであることを証明するシリアルナンバーが刻印されている。

初音ミクと鍵盤をデザインしたオリジナルイラスト
初音ミクと鍵盤をデザインしたオリジナルイラスト

他にもホーム画面がミク仕様だったり、ミクの歌う曲がプリインストールされたりするが、他の基本性能は「ウォークマンS NW-S764 L」と同じだ。

使用前に付属のUSBケーブルをつないで充電するのだが、ウォークマン側の接続端子は一般的なmini-USBなどではないので、ケーブルの紛失には要注意だ。充電が終わったら、早速音楽転送ソフト「x-アプリ」をインストールする(x-アプリを使わない方法もあるようだが、それは自己責任で)。ウォークマンをUSB接続したままウォークマン内の「Setup(.exe)」をクリックする。このときPCがインターネット接続されて入れば最新のものがインストールされる。本体内に内蔵されている(インターネット接続環境下でない場合バージョン2.0がインストールされる)ものよりも新しいバージョン(5.0.01)がインストールされた。

自分のPCの中には直前まで音楽転送用に所持していたiTunesがあるが、ここから音楽の吸い出しができる。不可逆圧縮形式のiTunesから変換するのでは、本機の真の力が測れない気もするが、多くのハイビットレート保存形式にも対応する「x-アプリ」の性能によるバイアスを加えたくなかったので、比較の意味も込めてここから「x-アプリ」に楽曲を転送(変換)した。またシステムとしての音質を比較したく一部の曲(CD)では、CDより「x-アプリ」を用いてATRAC Advanced Losslessの形式に変換したものも用意した。

x-アプリ
ここでソニー純正の転送ソフト「x-アプリ」に触れておこう。CDから取り込む際に採れる保存形式はAAC(.3gp)、HE-AAC(.3gp)、ATRAC(.oma)、ATRAC Advanced Lossless(.oma)、WMA (.wma)、MP3 (.mp3)、WAV (.wav)と多彩で、ビットレートなども細かく指定できるので、自分のウォークマン、あるいはPCのストレージ容量と持ち運びたい音楽の数、実現したい音質の中で折り合いをつけて選ぶことができる。当然曲名は自動収集で、ジャケット写真の収集率はiTunesよりも優れている気がする。デバイスへの転送も「転送」と「逆転送」が明確で判りやすい。曲やアルバムにチェックをつけて機器を接続すれば自動的に転送開始されるiTunesは一見便利そうでいて、曲の削除がしづらかったり、複数のApple製品を持っているときに自動転送が1台に限られるなど意外に曲の管理がしづらい。それに比べると操作性も良い。ただデザインだけは洗練されてはおらず、でかでかとトップ上段に表示されるインフォメーションエリア(写真では「音楽ダウンロード・音楽配信サイト“mora”」のベスト配信が出ている)が目立ち、色使いも(ベースカラーは選べるが)ビジーな感じでシックなiTunesと比べるとセンスの差が歴然。このことと、多彩な保存形式に対応しているわりには可逆圧縮の最近の定番形式FLACに対応していないことが、このソフトのウイークポイントだ。

高機能で使いやすいが、デザインがイケてない「x-アプリ」
高機能で使いやすいが、デザインがイケてない「x-アプリ」


試聴(付属イヤホン)
付属イヤホンはホワイトのカナル型だが、外耳部分にかなり張り出しがある大きめのデザイン。大きさによって色分けされているイヤーピースはわかりやすく、そしてコーディネイトに影響しないようにか、外側でなく内側にその色分けがされているなど心遣いはさすがだが、大口径のダイナミックドライバーを押し込んだでんでん虫のような形の大きな張り出しがあるのはオシャレでないカモ。

付属イヤホンと2種の異なる大きさのイヤーピース
付属イヤホンと2種の異なる大きさのイヤーピース
付属イヤホンは大口径13.5mmのドライバーを使うMDR-EX300SL相当
付属イヤホンは大口径13.5mmのドライバーを使うMDR-EX300SL相当

肝心の音質だが....あまり良くない。かなり低域が出てはいるのだが、モワっとした感じでキレやスピード感がない。その低域の量でマスクされて中域が引っ込んだ感じ。この点iPod ShuffleやiPhoneは付属イヤホンとのトータルコーディネイトが上手く、買った状態で「ソコソコの音」までは到達している。Apple製の2機種は、ソフトであるiTunesも含め自社で完全に管理していることがうかがえる出来だが、本機はソフト部隊と本体開発部隊、付属イヤホン開発部隊がきちんとコミュニケーションできてるのか?と心配になるくらい。とうていネットでの高評価には結びつかなかった。また、「ソフト」という点では本機側の操作画面やその動きもやや「見通し」が悪い。タッチパネルでないことと画面の大きさ上の制約(2.0型、QVGA(320×240ドット))はあるにせよ、Appleの直感的な操作とは異なり、その多機能な音質補正の現状表示の見せ方や階層設計はもう少し練り込みが必要かも知れない。画面のないiPod Shuffleの方が曲が探しやすい、というのはどう考えてもヘンだろう。

今回比較した3種:本機とiPod Shuffle 3G、iPhone5
今回比較した3種:本機とiPod Shuffle 3G、iPhone5


試聴(カスタムIEM)
付属イヤホンでの聞き比べは本機の完敗に終わったので、今度は音の出口であるイヤホンを統一して3機種を比較した。使ったイヤホンはメーカーの音作りの傾向や組み合わせの得手不得手を避けるため、SONYでもAppleでもなく、またイヤホン性能による限界をなくするために、カスタムIEM「Unique Melody Merlin」を用意した。

中高域のBA型と低域のダイナミック型ドライバのハイブリッド構成で充分な低域のUM
中高域のBA型と低域のダイナミック型ドライバのハイブリッド構成で充分な低域のUM

このカスタムIEMは低音域にダイナミックドライバーを用いたハイブリッドモデルで、充分な低域表現力がある。付属イヤホンが低域重視(過剰?)設計だったこともあり、本機との相性としては悪くないと考えた。まず比較の意味で、iTunesから転送した曲を3機種(本機、iPod Shuffle 3G、iPhone5)で聴き比べた。付属イヤホンの結果とはあきらかにちがう。高域が晴れている。繊細でかつ緻密。また音場が広い。ひとつひとつの楽器の描写がリアルだ。聴き比べるとAppleの2種は前に出るガッツがある音という感じを受けるが、それは音場の狭さとやや歪み気味の低域で脚色されたものである事がわかる。本機の清冽な高域と広い音場は見通しが良くて情報量が多い反面、ややスカスカな印象を受けたり、低域が弱い印象を受ける。本機の底力を堪能するためにはソースとアウトプットデバイスにも相応なモノを求められる、ということだ。この環境では、一部の曲でiTunes取り込みを変換したものと、ATRAC Advanced LosslessでCDから直接取り込んだものを比較したが、後者の方が緻密でノイズが少ないことが解る反面、その差が考えていたより大きくなく、本機の再生能力の高さ、音楽表現力の高さがうかがえた。ただ他のイヤホンを使うとノイズキャンセル機構はOFFになるので、注意が必要だ。

その他機能
本機はiPod Shuffle 3Gに比べると画面があるので、AVCやMPEG-4、Windows Media Video 9形式のビデオ再生機能があることやjpegファイルのフォト再生機能があるが、iPhoneにもない機能としてFM受信機能がある。ただ感度はイマイチで、第2FM系の局は取りこぼしたりする。また、プリセットした際に局名が表示されないのは減点対象。地域のコミュニティ局なら仕方ないが、1県1局程度のメイン放送局は地域でプリセットがあると便利と感じた。

音質調整
本機の特徴として多彩な音質補正機能がある。イコライザ、VPT(サラウンド)、DSEE(高音域補完)、クリアステレオなどが用意されるが、基本的にはあまりいじらない方が高音質だ。ただし前述のとおり、澄み渡った高音域と比べて、低歪みの低域は人によっては「迫力不足」と感じるかも知れない、この際はイコライザで補正するが、あまり補正による劣化を感じないので、好みに合わせて補正しても良いと思う。

まとめ
本機はiPod Shuffle 3GやiPhone5系から移ると戻れない高音質、特に高域の澄み方と音場の広さ、低歪みが特徴となる。一方それに比較してやや弱めの低域となるため、低域が強いタイプのイヤホン/ヘッドホンに換えるか、イコライザでの補正が必要かも知れない。付属イヤホンは低域の量だけはあるがヌケがイマイチで、より高音質のものに換えると真価が発揮できる。ただ多機能な分、メニューの見通しは良くないため音質の調整などは慣れが必要かも知れない。価格的にはiPod系だとnano以上touch以下と言う形だが(NW-S764標準モデルの場合)、音質的にはコストパフォーマンスは高いと感じた。

*This article was posted on "coneco.net" on April 14, 2013

更新: 2018/01/14

+(アピールポイント、美点)

高音質。特に高域の純度と中域の見通しの良さが優れる。音場が広く、音像が明確。各楽器が聞き取りやすい。

更新: 2018/01/14

-(あまり得意でないところ)

相対的だが、低域は弱い。低音が強くないと駄目な音楽はイコライザー必須。付属イヤホンはヌケがイマイチ。

更新: 2018/01/14
価格

機能だけから見ると高い。限定の特別感とミクの画をどう評価するか

ま、プレミア付いてるので、DAP単品と考えると高い

更新: 2021/03/19
使いやすさ

階層設計がイマイチで行きたいところに行くまで何階層もたどる必要がある

タッチパネルか否かではない。階層設計の問題。

更新: 2018/01/14
音質

ミク限定でなければソコソコいい。

標準機の価格で考えれば優秀。ただし、付属イヤホンは×。

更新: 2018/01/14
デザイン

6SまでのiPhoneもそうだが下側イヤホンはしっくりこない

(ミク関係ではなく標準モデルとしての評価)下側にイヤホンジャックがあるのはどうなんだろ。

更新: 2018/01/14
携帯性

薄さと細さ、特に後者がいい

薄さとフォルムがよく、どんなポケットにも落とし込める。

  • 購入金額

    20,500円

  • 購入日

    2012年08月20日

  • 購入場所

27人がこのレビューをCOOLしました!

コメント (4)

  • れいんさん

    2015/11/11

    ミクさんが宿ってるから
    いろいろとムフフなお楽しみがあるのですね

    ムフー
  • cybercatさん

    2015/11/11

    そうなのよー。
    でも画面が小さいのががががが
  • 砧順一さん

    2015/11/11

    下側にイヤホンジャックがあるのは胸ポケットに機器を入れて再生した場合の操作性を考慮してのものです。

    また、Xアプリから曲を転送した場合PC側からウォークマン側については特段制限はないものの
    逆にウォークマンからPCへファイルを逆転送する場合PC側に同一のファイルがないと転送できないという制約があります。
    これはXアプリの転送方式が一種のNetMDと同様の扱いとなっているためらしいため。

    同メーカーの互換性という観点から言えばいいのですがファイルを使い回ししたりとか逆にパソコンのデータを消してしまって
    ウォークマンからファイルを戻したい場合などには極めて不便な仕様となっています。

    対処法は直接ウォークマンにマイコンピューターなどから転送すること。
    特にXアプリを使用せずともファイルを転送すればきちんと本体内でデータベースは作成されますので
    広告が表示されるなど使い勝手が微妙なXアプリを使用しなくてもよいだけでもまだマシです。

    参考までにどうぞ。
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