レビューメディア「ジグソー」

世間から見たバンドのカラーを決定づけるのは「売れた作品」であるとは限らない

所持する音楽データに対する私利私欲...イヤ私情私見あふれるコメント、音楽の杜。こういった分野のものは「好み」ですし、優劣を付けるのもそぐわない気がしますので、満足度の☆はあくまで私的な思い入れです。長い歴史のあるグループはそのメンバーの変遷もあいまって、音楽的指向が変遷します。そのグループの音楽性を語るときに「これぞ××グループの音」といえるのは一番売れた時期でも、メンバーチェンジが最も起こらなかった安定時期でもない事があります。日本を代表するフュージョンバンドのバンドカラーを決定づけた時期の作品をご紹介します。

T(HE)-SQUARE。ギタリスト安藤正容(まさひろ)を中心とするフュージョンバンド。言うまでもなく彼等の代表曲はフジテレビF1中継の黄金期を飾った「TRUTH」で、あまりこの分野を識らない人でも旋律は耳にしたことがあるだろう。またもうすぐデビュー40周年を迎える彼等、メンバーチェンジを何回かしているが、ここ最近10年以上不動のメンツで活動しており、メンバーの安定性という意味では最新のメンバーが一番。

しかし、「T(HE)-SQUAREらしさ」が最も顕れているのは、「TRUTH」のヒットより前のこの時期だ。彼等は自分たちのことをフュージョングループとは呼ばずポップインストゥメンタルグループと位置づけているようだが、その基礎はこの時期に確立された。デビュー当初からメンバーが定まらず、アルバムリリースごとに異なるメンバーとなっていた彼等が初めて数枚のアルバムに渡り同じメンバーで固定された。期間として足かけ5年、5枚のアルバムがリリースされたが、実はシングルヒットとしてはその体制になる前の“MAGIC”に収められた「IT'S MAGIC」のスマッシュヒットの方が印象深い。そして大ヒット曲「TRUTH」を含むアルバム“TRUTH”の方が売れた作品でもある。それでもこの作品がT(HE)-SQUAREの代表盤の一つと数えられるのは、最初のメンバー安定期の中頃にあって、「アルバムとしての完成度」が高いから。

そんなアルバムは「明確で」「リリカルで」「ポップな」T(HE)-SQUAREらしさに溢れた作品となった。

このアルバム全体はマイナー(短調)曲も多く、さほどに明るいイメージが強くないのだけれど、このあと長くコンサート終盤に配されることが多かった名曲「ALL ABOUT YOU」が実質的な一曲目に来ているのでこの作品の印象を明るくしている(1トラック目の「ADVENTURES (Prologue) 」は1分少々のテーマ呈示だけの小品で、「曲」としてはこの曲が最初)。クリアな安藤のギターのコード弾きと伊東たけしのLyriconの音が印象的なハッピーソング。

「NIGHT DREAMER」。ジャニーズ出身のイケメンドラマー長谷部徹の明解なリズムと華があるチョッパーベース(スラップベース)の達人田中豊雪がタイトに下を支える曲の上で、T(HE)-SQUARE史上最もピアノが上手いと思われるキーボーディスト和泉宏隆のリリカルなプレイが流れる。

「TRAVELERS」はこのアルバムからのシングルカット曲。哀愁のあるメロディラインを奏でるディストーションギターをタイトなリズムが支え、BメロからLyriconが主ラインを取り、サビになだれ込んでいく。明るい曲ではないが、琴線に刺さる(触れる、ではない)メロディライン。

いずれもタイトなリズムに明解でキャッチーな旋律が乗り、フュージョンのジャズ要素に否定的な向きも取り込めるような曲ばかりで、T(HE)-SQUAREらしさに溢れている。このあと彼等は「TRUTH」のヒットで、よりロック色を強めヘヴィになったり、新世代ハイパーサキソフォニスト本田雅人の加入でより緻密にデジタルな作風になったり、最近は新人類ドラマー坂東慧の超絶リズムの影響でややジャズ寄りアプローチになったりもしているけれど、やっぱり彼等の「らしさ」の原点はここ。一時期その後の作品のテクニカルさやヘヴィさに惹かれてこの時期の作品を全く聴かなかった時期もあったけれど、久しぶりに聴き直してみると今の彼等の基礎はこのあたりにある。
「CBS」SONYのロゴが懐かしいなぁ...
「CBS」SONYのロゴが懐かしいなぁ...
そういう意味では彼等の「芯」にありつづけるモノを一番わかりやすく表現した作品かも知れません。

【収録曲】
1. ADVENTURES (Prologue)
2. ALL ABOUT YOU
3. NIGHT DREAMER
4. SISTER MARIAN
5. RODAN
6. JUBILEE
7. CAPE LIGHT
8. TRAVELERS
9. ADVENTURES (Epilogue)

「NIGHT DREAMER」

  • 購入金額

    3,200円

  • 購入日

    1985年頃

  • 購入場所

18人がこのレビューをCOOLしました!

コメント (2)

  • cybercatさん

    2017/05/08

    この時期が「フュージョン界」の盛り上がりもあって、一番ライヴが盛り上がったあたりかもしれないですね。その後は甘いマスクの則竹やダンディな伊東に着いたミーハーチックな女性ファンが増えたり、本田がフロントのときはジャズ寄りの難解な時期もあったので、一般的な盛り上がりというと....

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