実は購入してから半年以上経過しているのですが、あまり活用する機会が無かったことから掲載を先延ばしにしていたDAP、Astell&Kern A&futura SE180 SEM1を取り上げます。
SE180ははっきり言っていえば、Cayin N6iiが実現していたオーディオマザーボード交換方式(D/Aコンバーター以降の全ての回路をモジュール化して交換可能とした)をAstell&Kern流にパクったものです。発売当初はその安直さに呆れてあまり好意的な評価は出来なかったのですが、最近では随分中古価格も下がっていて気軽に試せる価格までもう一歩という所まで来ています。それがeイヤホンでお馴染みのシークレットセールでジャンク品が安くなっていたので、ついつい手を出してしまいました。
付属品はほぼ完品で外装の状態も決して悪くはありません。何故これがジャンクだったのかというと、現状では2.5mmバランス以外の出力から音を出すことが出来ないからです。恐らく何らかの理由で標準添付のモジュールSEM1が、2.5mm端子にケーブルが挿さり放しと認識しているのだと思いますが…。
SEM1を修理できれば文句ないのですが、直せなくても他のモジュール(SEM1/2/3/4が発売された)を入手すれば使えるということでジャンクとわかっていながら手を出したわけです。
外装デザインはA&futura初代機のSE100のテイストを残しつつもよりデザイン性に振った感じです。
大きさは僅かながらSE100より大きくなっています。ケースの流用は厳しいですね。
前述の通りモジュールは発売時点で用意されていたSEM1が装着されていましたが、前述の通り2.5mm4極バランス以外の出力端子が利用できない状態です。本来は2.5mm/3.5mm/4.4mmに対応する使い勝手の良いモジュールなのですが…。
なお、SEM1を自力で修理できないか試してみたのですが、SEM1のボディーは一体成型で、本体との接続側に蓋は用意されているのですが、ここを開けても出力端子の近くには全くアクセスできませんでした。SEMシリーズの中古も市場に滅多に現れないため、現状では2.5mmまたはBluetooth専用DAPとして使う形になっています。
基本性能は高いがやや演出過剰
私は以前からSE180の2世代前に当たるSE100をサブ機として使っています。
SE100もSE180 SEM1も、いずれもD/AコンバーターにESS ES9038PROを搭載していて、2.5mmバランス出力に対応しています。特徴としては近いものがあるこの両者を比較する形でSE180の音質について記述していきます。
実は最近メインイヤフォンである64AUDIO U6tには4.4mmのケーブルばかり組み合わせていて、2.5mmの手頃なケーブルがありません。そこで今回はqdc WHITE TIGER+Brise Audio STR7-Rh2+ 2.5mmという組み合わせでこの両者を比較します。
曲は「Fields Of Gold / Sting」「Alone / TOTO」「Waltz For Debby / Bill Evans Trio」「Calling America / Electric Light Orchestra」「Ellie My Love / Ray Charles」辺りを適当に聴いています。単に比較的最近レコードからデータ化した楽曲という意味での選曲です。
イヤフォンが比較的中域が充実している筈のWHITE TIGERであるにもかかわらず、SE180+SEM1では低域の量の多さに驚きます。「Fields Of Gold」ではベースラインがSE100比で遙かに太く重く表現されます。Hi-Fi感はあるものの、少し盛りすぎなのではと感じるほどです。S/N比はSE180の方が圧倒的に優れていますが、空間表現はSE100の方がニュートラルに近いかも知れません。
「Waltz For Debby」はSE180ではベースの存在感が際立ちます。とても1962年の録音とは思えません。冷静に考えるとちょっとおかしいほどにベースラインが明瞭です。SE100はSE180と比較すると
カマボコバランスに感じられますが、WHITE TIGER本来の音に近いのはむしろこちらでしょう。SE180はES9038PROらしい解像度の高さに救われていますが、結構キツいドンシャリでしょう。質の高いドンシャリなので一聴するととにかく音が良いように感じられますが、高音質を演出している感が拭えません。
この違和感がはっきりと表れたのは「Calling America」(というか同曲を収録するアルバム「Balance Of Power」)でした。本来はELOらしく空間を一杯に使った仕掛けが色々ある作品なのですが、SE180ではどうにも空間がクッキリしすぎていて仕掛けが面白く感じられないのです。SE100も元々登場時点では上位のA&ultima SP1000以上にオーディオ的に整った製品だったわけで、それがまるで混濁したような音に感じられるほどに明瞭すぎるのはちょっと行き過ぎでしょう。
ここでふと思い立って以前Cayin N6iiiとN7+の比較に使った楽曲「Hope For The Runaway / Kenny Loggins」(LP「Back To Avalon」より)を聴いてみました。
するとやはりというか、SE180は一つ一つの音の分離は素晴らしいものの、ケニー・ロギンスのヴォーカルが妙に引っ込んでしまいます。この曲はレコードで聴くとかなりヴォーカルが自分の方に迫って感じられるのですが、遠くで素っ気なく歌っているようにしか聞こえません。SE100にすると低域の深さはもう一歩欲しいものの、ヴォーカルはそこそこ迫ってきて生々しさも残っています。表現の自然さはSE100に分があるようです。
オーディオ的な要素だけで見ればSE180は2世代分の進歩を見せてくれます。しかし音楽としての鳴りっぷりはSE100の方に魅力を感じました。SE180はとても整っているけど音楽が全く心に響かないタイプの高級オーディオ機器を思わせます。
他のSEMを入手して結論を出したい
今回テストした個体はそもそもジャンク品であり、2.5mm出力も音は出ているもののこれが本来の音かと言われると確証は持てません。まあSE180発売当時に試聴したときにも今回とそれほど印象は変わらなかった記憶はありますが…。
生憎SEM2/3/4は試聴したことがない(厳密にはSEM3は聴いた気もするが覚えていない)ので、これを以てSE180の実力を結論づけるのは早計でしょう。何とか他のSEMを入手した上でSE180というシステムに対する評価を下すのが正解と思います。
少々厳しい評価を下していますが、20万円クラスのDAPとして妥当な実力はきちんと持っていることは申し添えておきます。ただSE100の方が「音楽」がきちんと鳴っていることに違和感を覚えずにいられなかったので今回の評価としました。
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購入金額
32,940円
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購入日
2025年05月29日
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購入場所
eイヤホン









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