2023年、「ワイヤレスでも高音質をあきらめない」を合言葉に登場したEAH-AZ80は機能性と音質のバランスの良さで同価格帯のベンチマーク的な存在に上り詰めました。
他メーカーが後発で様々な製品を送り出すも、ここまでバランスの良い製品はなかなか現れないほどで、2024年になってもその評価が変わることはありませんでした。
3台マルチポイントなんていうのは未だにTechnicsの専売特許みたいになっていますよね(LDACだと2台まで)
そして、2024年末。
今度は「ありのままの音が生きる生音質」をキーワードに2025年1月8日に新製品を公開する旨のティザー映像が公開。
動画の背景に登場する”黒い液体”はファン待望の”あの技術”を予感させるものでした。
そして2025年1月8日。
アメリカで開催されたCES2025にてそれは現実となります。
それが今回のモデル『EAH-AZ100』。
10万円以上する有線イヤホンであるEAH-TZ700に搭載されていた、ボイスコイルの磁気ギャップ部に磁性流体を充填したドライバーユニットが搭載されたのです。
名前こそプレシジョンモーションドライバーというなんか凄そうな名前から磁性流体ドライバーというシンプルなものに変わりましたが、TZ700のものをベースにそのままだと載らないから薄型化したユニットを搭載してきたという感じになっています。
加えて本体はよりコンパクトになり装着感は改善しながらバッテリー持ちを向上させるなど、大幅に進化したモデルとなりました。
ここまで聞くと気になるのがお値段。
AZ80は36630円ですから、性能向上などを加味すると50000円前後の価格を予想していました。
実際、CESで発表されていた海外での販売価格を日本円に換算するとおおよそ50000円といったところでした。
ところが、同日に発表された価格はなんと39600円。
50000円はおろか40000円も切っていて、AZ80から3000円程度しかアップしていないという価格設定は何かの間違いではないかと目を疑いました。
同日昼には予約してしまうほどには…
最適化を進めていくと自ずと一つの方向に収束していくらしい
Technicsのイヤホンといえば初代モデルのEAH-AZ70Wを除くすべてのモデルが円形のタッチセンサーがあってその下にマイクがつく突起があるような形状になっていました。
今回のAZ100ではタッチセンサー部の円形はそのままにその下にはコンチャフィットの形状が見えるだけで円が2つくっついたような感じになっています。
外から見た分には『TechnicsのデザインをしたLinkBuds S』みたいな形状に感じました。
さらに軽く
AZ100になってコンチャフィット形状は継続となりましたが、その大きさは大幅に小型化。
重量も5.9gとAZ40M2と同じ重さになりました。
その効果は絶大で、AZ80以上に耳への収まりが良くなりました。
着けていることを忘れるまではいかないかもしれませんが、今まで以上に着けていることを意識させないようにはなっています。
”空気感”が伝わってくる
今回のAZ100での最大のトピックといえばやはり『磁性流体ドライバー』を採用したことでしょう。
Technicsのイヤホンで磁性流体といえばピンとくるのはEAH-TZ700でしょう。
AZ100ではまさにそのTZ700で採用されていた技術がTWS向けに最適化されて搭載されてきました。
前モデルもAZ80でアルミニウム振動板を採用してきていて次はいよいよ磁性流体か?なんて言われたりもしましたが、ついに満を持して載せてきた形です。
気になるのはやはりその音質ですよね?
前提条件として、再生機器はPixel 6a、コーデックはLDAC音質重視モード固定、EQはダイレクト、NCオフ、イヤーピースは純正のLサイズ装着です。
聴いてみて感じるのはタイトルの通りなのですが”空気感”の表現がとても上手いです。
空気感ってどういうこと?となりそうですね。
ライブ音源なんかを聴いてみるとわかりやすいのですが、会場の広さ、ステージから収録側との距離感はもちろんのこと、目に見えないはずの会場内を包む空気がそこに描き出されているような感覚になりました。
これはイメージとしてなんですが、4Kや8Kなどで撮影されたハッと惹きつけられる映像。
ただ”4Kや8Kだからきれい”ではなくて、その時その場所にしかない風景を自分の目で見たような感覚になるようなものだと思うのですがまさにそんな感じです。
関連して、”解像度”という言葉。
よくイヤホンなどのオーディオ機器のレビューで聞く言葉ではあるのですが、この言葉をどのような意味で使っているかによってAZ100の評価は大きく変わってくると思います。
まずは解像度とは”音の輪郭をバキバキに描き出すかどうか”とお考えの場合。
この場合、AZ100は解像度が悪いといわれることになるでしょう。
ある意味空気感の表現がうまいことの裏返しとも言えるのですが、ギターはギター、ドラムはドラム、ボーカルはボーカルというような独立した鳴り方ではなく、すべてが組み合わさって1つの音楽なんだよという感じで音の繋がりを重視した鳴り方になっています。
こういう鳴り方をする場合、人によってはこもっていると表現されることもあって難しいところ。
次に解像度とは”音数が多くても一つ一つの音が描き出せるかどうか”でお考えの場合。
この場合は、AZ100の解像度は高いといわれることでしょう。
ここで初めて音域ごとの話をしていこうと思うのですが、今回のAZ100は低域が強くなっていることもあってそこがフィーチャーされていますが、実は上までしっかり出ていたりします。
強いて言えばボーカルが少し引き気味に聞こえなくもないかな?という程度。
そして、AZ100はかなり音源自体の良し悪しを拾います。
いい音源を聴くと先ほどまでの空気感の表現がうまくて芳醇なサウンドステージを満喫できますが、悪い音源だと途端に耳が詰まったような感じになってしまいます。
少しEQについて触れてみましょう。
スマホアプリ『Technics Audio Connect』でEQの設定が可能です。
何もしないダイレクト、低域を増すバスエンハンサー、バスエンハンサー+、中域を増すクリアボイス、高域を増すトレブル+、Wシェイプなサウンドにするダイナミック、自分で調整するカスタムが3つから選択できます。
バスエンハンサー2種類
ダイレクトでも低域は結構出ているのでこれは過剰。
クリアボイス。
これはかなりボーカルだけを浮き上がらせる感じになります。
ダイレクトでボーカル域の引っ込みが気になる方にはおすすめの設定になります。
空気感はダイレクト比2割減くらい
トレブル+
ちょっと低域を増やしたAZ80がお望みならこの設定。
AZ80の音の方が好みだけど装着感が…みたいな場合もこれがおすすめです。
ただし、空気感がダイレクト比で半減してしまうので装着感などがAZ80でも問題ないならこの設定で使うならAZ80をお勧めします。
ダイナミック
これは弱ドンシャリ傾向に行きます。
音の滑らかさも3割減くらいでしょうか。
個人的にはダイレクトがやはり好みですが、好みに応じてカスタムしてみたりプリセットだとクリアボイスやトレブル+なんかは使ってみてもいいのではないかという感じでした。
前モデルとは別物です
Technicsのイヤホンといえば3~4万円クラスでは今でも高い評価を得ているEAH-AZ80があります。
私も使っています。
見た目はAZ80はシャープ系、AZ100は丸っこくなっていてカッコよさという意味合いではAZ80もなかなか。
装着感はAZ100の圧勝。
小さく、軽くなったことこれがすべてです。
そして、音質。
これは全く別物になったといっていいほどに変わりました。
AZ80は中高域寄りでカラッとドライなサウンド。
一方のAZ100はそこからレンジを主に低域方向に拡大し、音の重心をより低い位置へ移動させた感じ。
ぬくもりも感じ、湿度感のあるサウンドになっています。
今回、実は今までと違ってAZ80も販売継続となっています。
値下がりもしていません。
微妙に価格が違うのでAZ100の方が上位モデルとみられがちですが、そういうことではなくて音質傾向の違う2つのトップモデルが用意されているという認識の方が合っていそうです。
ドライでクール、音がパーン!と出てくるAZ80、ウォームでウェット、空気感のAZ100。
あなたはどちらを選びますか?
時間が経つほどに離れられなくなる
(3/9更新)
発売日である1/23からほぼ毎日使ってきましたが、1ヶ月程経った頃から箱出し直後は引き気味な雰囲気だったボーカル域がフッと顔を出すかのように出てくるようになりより『AZ80から低域方向にレンジを拡大した感』が増しました。
AZ80方向に少し近づいたとはいえ、ウォームでウェットな質感はそのまま。
そして空気感の表現は変わらずという理想的なバランスになりました。
同じ空間で感じられる音は完全に分離して聴こえることはない。
だけど、それらが混ざり合って一つの”音楽”という形を成しているということを感じさせてくれます。
空気を振動させることで音が生まれるというのをまざまざと感じられる。
音の発生源からそれを収録するマイクの間にある空気の動きを感じ取れる。
これこそが”生音質”の真髄であると僕は思っています。
こう書くと打ち込み音源とかはどうなんだと聞かれそうなので個人的な印象を。
打ち込み音源にもベースになった音があったり、〇〇をシミュレートした音であったりといった感じになっていることと思います。
僕は残念ながら楽器には詳しいわけではないので、そのベースとなっている音がどこのメーカーの何という製品の楽器でとかはわかりませんが、アーティストがその音を使うことで表現したいことを感じられるように仕上がっていると感じます。
電子音は粒立ち豊かではありますが、AZ80の方がより電子音の良さが生きてくるサウンドに感じます。
万能というものは存在しないということですね。
AZ80とAZ100は共存することができるということです。
もう一つ重要なポイントとして、イヤーピースは少し小さめがいいかもということ。
最初のレビュー時はAZ80でLサイズを使用していたのでLサイズで聴いていたのですが、これを1サイズダウンのMLサイズに変更したところ、より見通しがよくなりました。
ちなみにいろいろイヤーピースは試してみましたが結局純正のMLサイズに落ち着きました。
この辺は相変わらずTechnicsの音作りのうまさを感じるところです。
(3/28更新)
3/26にファームウェア更新(V1.30)がありました。
更新内容はAZ80で搭載されたもののAZ100でなくなっていた『最適なイヤーピースを選ぶ』機能が復活したほかに”軽微な修正”が入りました。
このアップデートで音質傾向に変化が入りました。
個人的にはですが低域の響き感を少し減ったように感じます。
また空気感の表現の中心が中高域側へ少しシフトしたような感覚があります。
【最後に】
AZ100を考えるにあたって、必要なところ以外で特定の音域にフォーカスしてどうこうということは言わないように心がけていました。
そういった表現の仕方ではAZ100のことを見切れないと考えたからです。
もう少し体に入ってくる感覚にフォーカスにしてみようという挑戦の一つです。
少しわかりにくい表現も所々あったかもしれません、
それは単純に僕自身が音楽に精通しているわけではない”ただのリスナー”でしかないことからくる比喩表現が多かったからじゃないかなと思います。
それでもここから何かを感じていただけて、買う買わないは別として”良き相棒”との出会いがありましたら幸いです。
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購入金額
39,600円
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購入日
2025年01月23日
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購入場所
ヤマダ電機
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