レビューメディア「ジグソー」

意外と演出が強い

現在はPhasemationというブランド名を使用している協同電子エンジニアリングが、PhaseTechというブランド名だった時代に発売していたMCカートリッジです。

 

かつてビクターが発売していた伝説のMCカートリッジ、MC-L1000を設計した技術者が協同電子エンジニアリングに移籍して作り上げたカートリッジということで、当時注目を集めた製品でした。厳密には同社初のカートリッジが上位モデルP-1で、その弟分として2005年に発売されたのがP-3となります。当時の標準価格は85,000円でした。

 

ちなみに改良モデルP-3Gを経て後継機として発売されたのが現行のPP-300で、価格改定を受けて20万円クラスの製品となってしまっています。そう考えると85,000円がむしろ安く感じられてしまうのが恐ろしいところです…。

 

実はオーディオユニオンアクセサリー館恒例のリレー試聴会に出向き、その日最後の登壇メーカーだったSUNSHINEのアウトレット販売を狙って足を運んでいたのですが、なかなかお目にかかれないPhasemation製カートリッジが、何とか手の届く範囲の価格で出ていた(実は結構値引きして貰いました)ということで、SUNSHINE製品を諦めてこちらを買ってしまったわけです。上位モデルP-1もPP-300より大幅に安いという魅力的な値段で出ていたのですが、私の懐具合ではP-3が限界でした。

 

 

 

 

 

 

 

型番は単にP-3なのですが、ボディの質感などから連想されるということで、愛称としてAlexandriteというサブネームが付けられています。

 

 

 

 

 

 

 

ユーザー登録葉書も含めて完品のようです。

 

 

 

 

 

 

 

 

それ程大柄なカートリッジではないのですが、針カバーは妙に肉厚なものが付いています。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

外装のコンディションはあまり良くありません。まあ絶対数が少ないものなので、欲しければ見かけた時に買うしかないのです…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヘッドシェルはaudio-technica AT-LH13/OCC、シェルリード線はKS-Remasta KS-Stage121EVO.Iを組み合わせています。尤もKS-Stage121EVO.Iは試聴用に確保しているものなので、後日改めて何か見繕いたいと思います。

更新: 2024/11/27
総評

盤のコンディションにかなりシビア

動作チェックするタイミングで、丁度海外からレコードのセットが届いたので、まずはそれを聴きました。日本ファルコムのゲーム「英雄伝説 空の軌跡」三部作のサウンドトラックLP12枚組です。注文してから届くまでにほぼ1年かかりました。

 

 

 

 

 

 

普段使っているaudio-technica AT-OC9/IIIと比較するとP-3の性格はすぐに明らかなものとなります。

 

P-3の音はヴォーカルや弦楽器が色濃く描写され、それらの実在感はクラスを大きく超えたものです。その代わりロック系のドラムなどはアタックが穏やかで何かもの足りませんし、ギターのカッティングなども何か鮮明さがありません。

 

それ以上に特徴的といえるのは、実はレコード特有のスクラッチノイズです。他のカートリッジでは「パチッ」と硬い音で表現される様なノイズが、P-3では硬めの弦を弾いたような、残響音を伴った「パチン」という音になるのです。この独特の響きをカートリッジが作り出していて、それが主役の音に付帯音として適度に乗ることで独特の音色を描くということなのでしょう。

 

先日取り上げた「The Best Of Eva Cassidy」では、P-3が得意とする音色の塊のような楽曲ばかりですので素晴らしい描写となります。

 

 

 

 

 

しかし「英雄伝説 空の軌跡 Second Chapter」から「I Swear...」を聴くと、小寺可南子のヴォーカルは良いのですがバックの演奏が妙に大人しく感じられます。これはドラムのエッジがぼやけること、ギターのディストーションが異様に大人しくなることが原因でしょう。

 

同じ小寺可南子が歌う「英雄伝説 空の規制 the 3rd」から「Cry For Me, Cry For You」を聴くと、これがロック調の曲であるためか全くぱっとしません。逆に先日フリマで1枚100円で数枚買ってきたモーツァルトのレコードはどれを聴いてもとても魅力的です。今まで使ったカートリッジの中ではClearaudio Virtuosoに近い傾向ですが、女性ヴォーカルの質についてはP-3に独特の魅力があり、得意なソースであれば圧倒的なコストパフォーマンスを発揮するということが出来ます。

 

ただP-3はレコードの盤質に恐ろしくシビアな面があります。コンディションの良いレコードを聴く分には良いのですが、そこそこくたびれた中古盤などはノイズや歪みがかなり顕著に出てしまいますし、内周歪みはかなり出やすい方です。インサイドフォースキャンセラーを設定された針圧無視で聴感で調整すればある程度改善するのですが、それでもaudio-technicaのカートリッジなどとは比較できる次元ではありません。

 

某オーディオ専門店のレビューではモニター系の音と表現されていますが、こんなに脚色のあるモニター系はまずあり得ません。解像度や高域方向の質感はAT-OC9/IIIの方が数段上ですし、ハードロックを苦手にしているAT-ART7と比べても激しめの曲の苦手さは顕著です。

 

P-3は決して広くはないストライクゾーンを上手く使ってやることで、価格よりも数段上の音を聴かせてくれる製品です。それを理解して使えば十分魅力的なカートリッジといえるでしょう。

  • 購入金額

    40,000円

  • 購入日

    2024年11月22日

  • 購入場所

    オーディオユニオンアクセサリー館

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