所持する音楽データに対する私利私欲...イヤ私情私見あふれるコメント、音楽の杜。こういった分野のものは「好み」ですし、優劣を付けるのもそぐわない気がしますので、満足度の☆はあくまで私的な思い入れです。最近、カリフォルニア州で永続的にオフラインで利用する方法が提供されていないコンテンツの販売を「購入」と表現することが禁止されましたが、運営会社の撤退やアーティストの意向などで結構なヒット曲でもネット上にある「だけ」の楽曲は消えてしまうこともあります。特にインディーズシーンでは「もの」が手元にないと、どんどん風化して、デジタルの海に沈んでいってしまいます。現在も活動する音楽サークルながら、すでにHPの記載からも消え、入手も困難となっている作品をご紹介します。
Room97、別名インターネット音楽室907号。「音楽サークル」を自称しているが、構成メンバーを含み自らのプロフィールを現HP(Official Website)では明かしていないので、グループか個人かもわからない。永く活動する音楽サークルで、ネットの情報や入手した作品などから10年以上前のものが確認できるので、それ以上の活動歴があることは確かだが、自サイトでは最近の作品しか紹介がないため(HPから辿れるBOOTHでは2021年以降の作品、ダウンロード販売サイトのtunecoreでも2019年作品まで)、いつから活動しているのかも不明。しかしM3をはじめとする同人音楽頒布会には定期的に参加し、そのたびに質の高い楽曲を届け続けているサークルでもある。
そんな同人音楽サークルの2017年の作品“kimochi latte”。調べてみると、リードチューンの「嘘つきな王様」が、女性向けファンタジーADV(現在のLGBTQな世の中ではアカン表現かも知れないが、2022年にフルヴォイス化されたリマスター版が出たときも、同じ謳い文句だったのでそれに倣う)「嘘つきな王様の騙し方」の主題歌。あと3曲はストック曲だったらしいが、ある程度方向性が違う楽曲がちりばめられながらも、上手く一つの作品としてまとまっている。
その「嘘つきな王様」。イントロやサビなどで、3拍目の裏と4拍目に入るハンドクラップが軽やかで、ポップで覚えやすい楽曲に前進力を与えている。イントロや間奏ではストリングス音が使われていて、ゴージャス。王族が絡むゲームの主題歌としては、そのクラシカル風味がいい塩梅(ちな、ゲームの内容はみりしらなので、全く内容が違ったらすまぬ)。とてもかわいらしい声で明るく歌うのは、ニコ動などで活動していたinatsuri。なお、最近の作品では「Music:Room97」などとサークル名が入っていて、誰がかかわったのかがよくわからない感じになっているのだが、この“kimochi latte”ではきちんと作詞者と作曲者が名前でクレジットされている。この「嘘つきな王様」は、詞も曲ものりるという人物が創っているようだが、調べると彼が以前執筆していたnoteから、彼こそがRoom97の中心人物だったということが分かった。フリーランスのトラックメイカーでコンポーザー、ベーシストであるらしい。Room97の楽曲で、ベースが打ち込みっぽくないのにプレイヤーのクレジットがない曲があったが、これで納得。
つづく「虹色holiday」は、R&B調のJ-POPで、デビュー間もないあたりの宇多田ヒカルやその同時期に多く出た「DIVA系楽曲」のテイストもある、ちょっとファンキィな楽曲。そのファンキィさを醸し出しているのは、ワウがかかったギターのカッティングなのだが、クレジットにはA-MANと跡治良太の二人のギタリストがクレジットされているので、どちらかがそのリズミカルかつ粘りのあるカッティングをプレイしたサイドギターで、どちらかがアウトロの印象的なソロをプレイしたリードということなのだろう。この曲も作曲はのりる。歌詞を書いたのはヴォーカリストの黄身なのだが、Room97のFanbox情報だと、どうも「曲先の曲」だったらしく、歌詞に関しては黄身に委ねたのだとか。黄身は上手く韻を踏んだリズミカルな歌詞で、ファンクテイストのある楽曲を盛り上げている。
「角砂糖」は、今でもRoom97の重要なヴォーカル担当として各アルバムに1曲は参加している棗いつきの歌う、ガールズバンドっぽいかわいらしいギターポップ。棗いつきは声優でもあるので、非常に声のコントロールが上手く、かわいい感じや甘えた感じのポップス、さらにチョイロリっぽい声やヤンデレ系までこなすが、この曲では“少々背伸びした感じの歌詞を歌うかわいらしい少女”という表現型。やっぱり声のコントロールが上手いな。なおこの曲では印象的なギターは、前曲に引き続き跡治良太が担当。そして曲の方はのりるではなく、「Lyrics : たんしお Music : tsutsuminium」ということになっている。作詞家の方は名前が汎用的なフレーズすぎて追えなかったのだが、作曲家のtsutsuminiumという方は、おそらくゲームやアニメ、アイドル曲や声優アーティスト活動時に曲を提供するクリエイター集団株式会社ドリームモンスターに所属の堤功太と思われる。ただ、堤がこの当時は(場合によっては今も)このサークルに所属していたのか、それともいわゆる「外注」なのかはこの情報だけでは何ともわからない。
現在この作品は、Room97のDiscograhyには記載されておらず、インディーズ盤故流通量も多くなく、なかなか捕まえることが難しいが、サークル内に固定のヴォーカリストを置かず、曲によって最適なゲストヴォーカリストを迎えて曲を表現するという形態を採るRoom97にとって、最近は採用が途絶えているヴォーカリストの楽曲も聴くことができる(inatsuriと黄身)。
確かに、彼女たちの表現する系統の楽曲は最近若干減っているが、それだけに自分にとっては「新しい」Room97の魅力が感じられた作品(黄身担当の方向性は、最近ではEVO+が歌っていて「担当変更」ということなのかもしれないが、inatsuriが歌った「嘘つきな王様」のように超明るめでガーリィな感じのものは少ない)。
こういった、存在が公式からは消されている作品を、探し出して味わうのも、また物理CDという「モノ」の面白さであると感じたり。
虹村ねり師のArt worksは寄るとすごく良いのだが、インパクトは最近のpasoputi師の方が...
この秋はM3(M3-2004秋)に参加してみようと思っているので、そこでもこういった作品に出逢えれば良いなぁ...
【収録曲】
1. 嘘つきな王様 feat.inatsuri
2. 虹色holiday feat.黄身
3. 角砂糖 feat.棗いつき
4. in the room feat.つずな
5. 嘘つきな王様 -inst-
6. 虹色holiday -inst-
7. 角砂糖 -inst-
8. in the room -inst-
「嘘つきな王様 feat.inatsuri」
実質4曲のミニアルバムだが、Room97の高品位な曲が楽しめる
ポップで覚えやすい「嘘つきな王様」、ちょっとR&Bテイストでファンキィな「虹色holiday」、ガールズバンドっぽい「角砂糖」、オルガン+生ギターの存在感が大きいフォーク系テイストの「in the room」と方向性はソコソコ違うのに、どの曲もどこかkawaii系のテイストがあり統一感がある。そしてどの曲も品位が高い。
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購入金額
2,870円
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購入日
2023年08月13日
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購入場所
駿河屋
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