所持する音楽データに対する私利私欲...イヤ私情私見あふれるコメント、音楽の杜。こういった分野のものは「好み」ですし、優劣を付けるのもそぐわない気がしますので、満足度の☆はあくまで私的な思い入れです。アーティストにとって、自分のトレードマークとなる作品があることは幸せです。場合によっては、その印象が強すぎて、アーティストが新しい事に踏み出す枷になってしまうような事もありますが、「名刺代わり」の作品を持っているか否かで、知名度に格段の差がでるため、「代表作」に関してはプラスの要素が大きい場合がほとんどです。生涯最後と言われるツアーで最後に演奏する曲として選んだ曲が含まれる、アーティスト自身の名を冠したそのアーティストにとっての「代表作」をご紹介します。
Larry Carlton。1970年代から活躍するギタリストで、活動範囲はフュージョン~スムーズジャズ~ブルースあたり。ただ多くのアーティストの作品でもプレイをしており、特に1980~2000年頃にはポップスやロックなどジャンル問わず、様々なアーティストの作品でそのプレイを聴くことが出来る。
そんなLarryだが、流石に御年76歳(2024年現在)、今まで続けてきていたライヴ活動を縮小していく意向を示した。特に日本でLarryは高い人気を誇り、ここ数年毎年来日ライヴを催していたが、そういった大移動を伴うライヴは(おそらく)これが最後ということで、2024年のゴールデンティーク期間に横浜と東京、大阪の3カ所で“Larry Carlton Salute Japan Tour~The Crusaders - Steely Dan - Fourplay~”が行われた(Saluteの意味は敬礼とかお辞儀という意味)。
そのツアーでも、必ず演奏されるだろうと予想され、そして予想通り演奏されたLarryを代表する楽曲が収められた作品が本作、彼のメジャー1stソロアルバムの“Larry Carlton”(邦題“夜の彷徨”)。アーティストが最初に世に問う作品にはそのアーティストのすべてが詰まっている事が多く、1stアルバムがそのアーティストの代表作となることも多いが、本作も永く繰り返し演奏された曲を多く含み、フュージョンシーンが盛り上がっていたという時代背景も含めて、フュージョンというジャンルを代表する作品となっている(厳密に言えば、これはメジャーレーベルでの1stソロアルバムで、これに先立ちインディーズレーベルで、本作リリースの10年前と5年前に作品をリリースしている)。
まずなんと言ってもこの作品は「Room 335」。名キーボーディストGreg Mathiesonのプレイと分け合いながら、曲を通して繰り返される不思議なコード進行と印象的なリズムのコード弾きのテーマ
(特に印象的なイントロ部は、DM7 Aadd9/C#|Bm7 C#m7|DM7 Aadd9/C#|Bm7 AM7)。故Jeff PorcaroとAbraham Laboriel、Paulinho Da Costaによる盤石なリズム陣の創り出すビートの上で、緩急自在に奏でられるGregのRhodesソロとLarryのギターソロ。Larryのソロは非常によく練られた構成で、最初はピッキングハーモニクスや複数弦チョーキングによる多彩な音で魅せ、ちょっと粘るブルージィなフレーズを挟んで、爽やかな中間部に至り、流れるようなプレイの展開部で盛り上げ、最後はスッとGregのソロに渡す〆を持つ中間部ソロと、ゆったりとしたフレーズから入り、途中繰り返しのモチーフに速弾きも交えて盛り上げ、ラストのキメへと至る構成を持つエンディングソロ。アレンジ的には安易にフェードアウトにしなかったのが良い。最近のライヴではラストのソロがコンパクトにまとめられているアレンジが使われているが、このフルサイズヴァージョンの方が明らかに座りがよい。そして時代を感じる(言い換えれば「古さ」を感じる)部分でもあるが、この曲のオリジナルアレンジには、故Gerald Vinci(クレジット表記はGerry Vinci)率いるストリングス隊が入っているのが、いい味出している。最近のライヴでは構成的に省かれることが多くなったストリングス(音)だが、特に中間部とラストのソロ伴奏にはストリングス音があるか否かで、盛り上がり方が全く違う。いずれにしても1970~80年代のフュージョンを代表する名曲。
「Point It Up」は、ロックテイストの強いインスト曲で、ジャパニーズフュージョン系、特に初期のCASIOPEAが演りそうな見るからに(聴くからに?)ハイテクニカルな曲(もちろん作品リリースは本作の方がCASIOPEAの1stより1年早いので、影響を与えたとすればLarry⇒CASIOPEAの方向性だが)。テクニックは曲を表現するために必要なことと捕らえ、インスト系ギタープレイヤーとしては、どちらかと言えばテクニックを前面に出した曲をあまり手がけていないLarryだが、この曲ではベースのAbeとの高速ユニゾン、ヴァイオリン奏法から入り、速弾き中心に組み立てた長いギターソロなど意外な面を聴く事が出来る。あと、ギターソロの後で、AbeとJeffによるリズムギミックが聴かれるのがスリリング。
続く「Rio Samba」は永く演奏された代表曲の一つ。トリッキーなコードとラテン系のリズム、テーマ部分の明快で爽やかなヴォイシングと、一般的な「サンバ」ではないが、Larry流ラテンビートという感じ。売れ線?の「Room 335」より、この曲をこの作品での最高峰と推すひともいるくらい。スラップを使わない(この時代はまだ「チョッパー」か?)、指弾きながらラテンリズムゴリゴリのAbeのベースソロも躍動的。
他にも、以前所属していたThe Crusadersで提供した楽曲「Nite Crawler」のリメイクや、Jeffの躍動的なシャッフルリズムでグイグイ押す「Don't Give It Up」、さらにはLarryが歌う歌モノも2曲あるなど盛りだくさん。
ギタリストLarry Carltonのオリジンを識るには最適の作品。
「最後の」ツアーと言われている、“Larry Carlton Salute Japan Tour~The Crusaders - Steely Dan - Fourplay~”ではアンコール前のラストの曲として「Room 335」が演奏された(少なくとも5/3の1stステージでは)。
ジャパンツアーにLarryが持参したのは、オリジナルのGibson ES-335ではなく、彼が監修したSire Larry Carlton H7(ES-335タイプ)だったけれど、やはり紛うことなき「Larryの音」で、万感こもった「Room 335」は素晴らしかった。
ツアーで使用したのは、ES-335タイプのSire Larry Carlton H7
生でそのプレイを観る事が出来るのは、今回で最後だったかも知れないが、配信などでも良いので、何度でもそのプレイが聴きたい曲たちが詰まった作品です。
ジャケット裏側で若き日のLarryが抱えているのがGibson ES-335
【収録曲】
1. Room 335
2. Where Did You Come From
3. Nite Crawler
4. Point It Up
5. Rio Samba
6. I Apologize
7. Don't Give It Up
8. (It Was) Only Yesterday
「Room 335」
これを聴かずしてフュージョンを語るなかれ
ザ・フュージョンと言える曲達が詰まった作品。
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購入金額
2,400円
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購入日
1991年頃
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購入場所
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