レビューメディア「ジグソー」

YOASOBIの物語はここから始まった...

所持する音楽データに対する私利私欲...イヤ私情私見あふれるコメント、音楽の杜。こういった分野のものは「好み」ですし、優劣を付けるのもそぐわない気がしますので、満足度の☆はあくまで私的な思い入れです。楽曲配信。音楽を楽しむということを、その音源を所持して聴くという手法から、流れてくる楽曲を消費するという形態に変化させた仕組み。そんな時代に生まれたアーティストは、必ずしもモノとしてのCD等にこだわらず「デジタルシングル」として楽曲を提供します。しかし、その音楽を永く楽しむことを考えれば、物理CD(DVD/BD)もまだ十分な価値があります。自分たちの最初の物理CDに、自分たちならではの付加価値をつけてリリースしたアーティストの1stEPをご紹介します。

 

YOASOBI。コンポーザーのAyaseと、ヴォーカリストのikura(幾田りら)からなる、「小説を音楽にする」というコンセプトを持つ音楽ユニット。基本は打ち込みバックで、それではニュアンスの表現が難しいギターパートを除いて、Ayaseがほぼすべてのトラックを創り、ikuraが歌う。最新作になるに従って、ギター以外の楽器や、コーラスに参加する人が多くなってきているが、デビューEPである本作“THE BOOK”では、一曲でコーラス隊が入っているほかは、バックトラックはAyaseによる打ち込み+ギター。

 

その“THE BOOK”、出だしとラストのインスト曲2曲以外の7曲がすべてシングルというおばけアルバムだが、デビュー作の「夜に駆ける」(2019年リリース)以外は2020年リリースのデジタルシングル(配信シングル)。2021年初頭にリリースされ、2021年を代表する物理CD作品となった。

 

その後はいくつかフィジカルCD(シングル)をリリースしているが、当時は全く「モノ」としてのCDやDVD(BD)が無かったからか、いくつかのチャートでトップをとっている。

 

ポイントはバインダー形式で、元となった小説を綴じ込んでいる。全く世界観が違う小説を元にしているので、バインダーでインデックスページを挟むことで世界観を切り換えている感じ。

 

作品の造りとしては、終曲=「Epilogue」から始まって、当時最新曲の「アンコール」を次に配し、ラストは序幕=「Prologue」で〆るが、その直前はデビュー曲「夜に駆ける」という倒置配置(なお、「アンコール」~「夜に駆ける」間の曲順はリリース逆順というわけではなく、バラバラ)。

 

いろいろな部分にこだわりがある作品となっている。

 

そして、この作品は「Epilogue」と「Prologue」のインスト2曲を除いた7曲をVOCALOID初音ミクに歌わせた企画盤“MIKUNOYOASOBI”

と同時発売されたことも話題を呼んだ。

 

元々ボカロPの一面を持つAyase、創る曲が「人が歌うことを意識しすぎていない」楽曲であることが多く、シーンの切り替えや転調、リズムの変化などが多いトリッキーな楽曲が多い。そんな楽曲を上手くikuraが歌いこなして、聴きやすく、キャッチーにしているという「構文」がYOASOBIの文法。

 

そんなYOASOBIの物語は、終末の世界を描いた水上下波の「世界の終わりと、さよならのうた」をベースにした「アンコール」から始まる。後に香月心によりコミカライズもされたこの物語は、明日終末を迎えると言われている世界の終わりに出逢った二人の物語。淡々と続く打ち込みのバックに、帯域を絞ったフィルターがかけられたikuraの声が乗る。どうせ明日で終わるんだから、という投げやり感と、過ぎ去った過去を想う気持ちが交差する歌。最後に♪明日世界は終わるんだって/明日世界は終わるんだって/もしも世界が終わらなくって/明日がやってきたなら/ねぇ、その時は二人一緒に/なんて♪と最後に少しだけ明るく終わるのが余韻がある。

 

群青」は、唯一ikura以外の声(=ikuraの出身母体でもあるコーラスグループぷらそにか)が入った楽曲。この曲は、アーティストの一発録りのパフォーマンスを切り取るYouTubeチャンネル、THE FIRST TAKEでも取り上げられたが、その印象とあまり違いが無いのは、やはり「人の声」のパワーか(まあ、THE FIRST TAKEヴァージョンでもコーラスはぷらそにかで、ギターがAssHなのも共通だったので、リズム隊とキーボードが打ち込みか人かという違いしか無かったとも言えるが)。ボカロ盤の“MIKUNOYOASOBI”のレビューでも触れたが、ラスサビの前で♪Ah~♪と駆け上がっていくところが一番の聴き所か。これは小説ではなく、山口つばさの漫画「ブルーピリオド」にインスパイアされたショートストーリー「青を味方に」を下敷きとする楽曲。♪好きなものを好きだと言う/怖くて仕方ないけど♪

 

ハルカ」は、放送作家鈴木おさむの書き下ろし小説「月王子」がベース。月王子はハルカに買われたマグカップに描かれていた柄。ハルカとともに年を経て、彼女(ハルカ)の成長をそばで観てきた。失恋したハルカを見守り、旅立ちの季節も共に越えて、不安なハルカにエールを贈り...そんな「月王子」がどうなったのか、歌詞では語られず、一見?純粋な人生応援ソングになっているけれど、これは原作を読んでからブリッジ部分の歌詞♪だから今は/どうか泣かないで/あの日のように笑顔で♪を聴くと、なぜなのかがわかってグッと来る。

 

今聴き返してみても(好き嫌いは別として)捨て曲がない良盤。

 

YOASOBIの物語は、ここから始まったと言える作品です。

このバインダー形式の装丁が新しかった(場所はとるがw)
このバインダー形式の装丁が新しかった(場所はとるがw)

 

CDはラストページに貼り付いている
CDはラストページに貼り付いている

 

本品は複数の購入店特典インデックスがあるものを購入(さて、なんの曲でしょう?)
本品は複数の購入店特典インデックスがあるものを購入(さて、なんの曲でしょう?)

 

【収録曲】

1. Epilogue
2. アンコール
3. ハルジオン
4. あの夢をなぞって
5. たぶん
6. 群青
7. ハルカ
8. 夜に駆ける
9. Prologue

 

「群青」

更新: 2024/02/14
必聴度

2021年を代表する物理CDとして押さえておかねばならない

収録されているのは、どの曲もトップセールスまでは行っていないが(最高が「夜に駆ける」「群青」の2位)、初期YOASOBIを代表する曲達

  • 購入金額

    8,000円

  • 購入日

    2021年10月13日

  • 購入場所

    メルカリ

14人がこのレビューをCOOLしました!

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