所持する音楽データに対する私利私欲...イヤ私情私見あふれるコメント、音楽の杜。こういった分野のものは「好み」ですし、優劣を付けるのもそぐわない気がしますので、満足度の☆はあくまで私的な思い入れです。アーティストは様々なものに触発されて作品を創ります。それは自然減少だったり、人々の暮らしだったり、自分の心情の動きだったり....その刺激を受けるものも、自分の直接の経験の他に、テレビやネット、他の音楽などを通して刺激を受けることもあります。その中で、小説にインスパイアされて楽曲を製作しているアーティストがいます。そのアーティストの初の物理CDをご紹介します。
YOASOBI。コンポーザーのAyaseと、ヴォーカリストのikura(幾田りら)からなる音楽ユニット。元々小説/イラスト投稿サイトに投稿された小説に曲をつけるというコンセプトで結成されたユニットのため、楽曲に物語性があること、その物語に合わせて柔軟に曲調を変えるが、Ayaseが基本定番系の覚えやすいJ-POP(...というよりむしろ「ニューミュージック」時代の懐かしのメロディ取りも多い)に、打ち込みの利点を活かしたアレンジを施し、ikuraがそれを表現力高く歌いこなすというパターンが多い。Ayaseはステージ上ではキーボードの前に陣取っているが、全てを弾くのではなく、大多数は機械などに任せ、プロデューサーらしく?オイシイところを担当する感じ。特に最近では珍しく「ザ・シーケンスパターン」という感じの高速打ち込みフレーズを、ピアノ系の通る音で繰り返すのが特徴となっている曲が多い。アレンジ的には転調も多用するので、その部分でさらにアピールする造り。
少し前から、ニコ動弾いてみた動画出身の?やまもとひかるちゃんが、ステージなどではサポートベーシストを務めており、それもあってYOASOBIに注目しはじめたが、流石にこれだけ売れたグループだと、それまで識らなかったと言うことはない。
本作“怪物 / 優しい彗星”は、TVアニメ「BEASTARS」のオープニングテーマとエンディングテーマをカップリングしたもの。「BEASTARS」は擬人化された肉食獣と草食獣が共存している世界の高校生活を描いたものだが、童話的な「仲良く共存」ではない緊張感はらんだ関係性での物語。その世界観を独特の色調でYOASOBIが表現する。
「怪物」。シンベが目立つ薄い音数で強烈にビート感を強調した打ち込みで、抑揚の少ないメロディーラインを淡々と歌うボカロ的テイストもあるダークなAメロと、リズム的にタイトなBメロ、一気にバンドサウンドになり、ikuraの伸びのある声が印象的なサビと表裏がある曲調がテーマに合っている。EDM調にマッシヴに振り切った部分と、バンド調でメロディカルなサビ、転調前のikuraの情感あふれる独唱部分などメリハリが効いていて、一曲の中でかなりドラマチックに展開するアレンジとなっていて、耳に残る。元ネタ小説は「BEASTARS」の原作者、板垣巴留による書き下ろし小説「自分の胸に自分の耳を押し当てて」。
「優しい彗星」は通信風ノイズ?が混ぜ込まれた導入部分で、ちょっと宇宙っぽいイメージを演出するが、そのあとは結構王道の泣かせる系J-POPバラード。YOASOBIらしいのは、ときに32分音符も用いた高速ハイハットの打ち込みと、やはりラスサビで転調するアレンジ。途中の泣きのギターソロは、サポートギタリストとして永くYOASOBIを支えるAssH。元ネタ小説は同じく板垣による書き下ろしの「獅子座流星群のままに」。
この“怪物 / 優しい彗星”、原則としてシングルは配信リリースとするYOASOBIにとって、初の物理CD。形態としては2形態リリースされた。「期間生産限定盤」と「ファンクラブ限定盤」で、前者にはDVDが、後者にはBlu-rayに収められた映像特典が付属した。映像特典の内容的には本作の2曲を使ったTVアニメ「BEASTARS」のノンクレジットのオープニングとエンディングが収録。「ファンクラブ限定盤」にはさらに「Acoustic Session」として、バーのようなセットで、YOASOBIの二人とAssHによるアコースティックトリオの演奏が収められる。ここではAyaseがカホンを中心としたパーカッションを担当、AssHは生ギター。それに合わせてikuraが歌う。
その中から、1stアルバムに収録されている2nd配信シングル曲「あの夢をなぞって -Acoustic Session-」。ちょっと明るい「夜に駆ける」とでも言えるような、切ないメロをikuraが歌い、AssHの生ギターが寄り添う。面白いのは、本来であれば、歌の合間の楽器ソロが来るところで、バッキングのコード楽器がギターしかないのもあり?ikuraがソロ楽器風のハミングをする部分。とても雰囲気があっていい感じ。ちなみに原作小説は、いしき蒼太の「夢の雫と星の花」。
「ファンクラブ限定盤」には、雰囲気があるアコースティックライヴが2曲収められる
cybercatの入手したのは、ライヴ映像が欲しくて「ファンクラブ限定盤」なのだが(ファンクラブに入っているわけではないw)、歌詞カードが通常のタイプ?以外にYOASOBIのアルバムで採用されているバインダーに挟めるタイプも付属する。このバインダー、場所はとるんだけどいい案だなー。ただ、どうせ歌詞カードをアルバムと合体させられる造りにしたのなら、シングルのケースもこのバインダーに挟めるタイプで外装シンプル、というのが環境的・スペース的には良い気がするけれども。
曲調的には、EDMからフォーク調の弾き語りまで様々なタイプの曲が収められていて、歌詞カードもあわせてYOASOBIの世界観を堪能できる作品です。
【収録曲】
<CD>
1. 怪物
2. 優しい彗星
3. 怪物 (TV Size Ver.)
4. 優しい彗星 (TV Size Ver.)
<BD>
1. TVアニメ『BEASTARS』 第2期オープニング ノンクレジット映像/YOASOBI「怪物」
2. TVアニメ『BEASTARS』 第2期エンディング ノンクレジット映像/YOASOBI「優しい彗星」
3. たぶん -Acoustic Session-
4. あの夢をなぞって -Acoustic Session-
「怪物」
ビート感が強い導入と、覚えやすいサビの落差が印象深い
ほぼ音の上下動がないAメロと、上はhiD♯(ラスサビ、通常サビはhiD)まで伸びるドラマチックなサビの対比も良い。
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購入金額
6,600円
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購入日
2022年05月08日
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購入場所
駿河屋
jive9821さん
2023/03/01
鬼頭明里版も「普通に良い出来のカバー」と思ったのですが、
鈴木雅之版はある意味度肝を抜かれる出来でした。
どちらもYouTubeでフルバージョンが公開されていてお勧めです。
cybercatさん
2023/03/01
確かに鈴木雅之版イイですね~
鈴木の力量ももちろんあるのですが、これは服部隆之の編曲の勝利かも。
これが入っている鈴木の“DISCOVER JAPAN DX”聴きたくなりました。
つべの「怪物」だったら、趣向は違いますが、J-POPやアニソンをカバーしているフユとハルという女性二人のピアノ連弾奏者のも良いですよ。
彼女たちテクニカル系の奏者なので、速い曲が多いYOASOBIは良く取り上げていますが、「怪物」は「祝福」と並んで、フユハル版のYOASOBIカバーでは頭ひとつ抜けて良いかも。