レビューメディア「ジグソー」

銀線の高域の美しさと、そこを強調しすぎないチューニング、スピード感と広い音場が魅力の一点ものリケーブル

イヤホン⇔ケーブル接続端子の規格として、最初から突き詰めて考えられて作られた規格ではないためか、なにかと不満点が多い既存の2大接続規格、MMCXと0.78mm 2pin。今ではそれらのネガを潰した端子がいくつか出ているが、特定のメーカー独自規格となってしまっているJH 4pinや7pin、A2DCなどに対して、少なくとも複数のイヤホン/IEMメーカーが採用する規格が、Estron社の製造するT2端子(=IPXコネクションシステム)と、日本ディックスのPentaconn ear

 

このうち最後発のPentaconn earは、高い嵌合性と接点面積の広さによる安定した高音質と、固定に板バネを使うことで得た、群を抜いて高い耐久性が長所で、今後の展開・採用拡大が期待される。

 

その接続のイヤホン/IEMとしてはCIEMのmiro BLEST

を手に入れていたが、ケーブルとしてはBLEST購入時に同梱添付されるケーブルをアップグレードした、日本ディックスの6NOFC線と銀コート6NOFC線の8芯編み、Wistaria (Pentaconn Ears ⇔ 4.4mm5極バランス)しか持っていなかった。

 

その購入時の比較で、同じ日本ディックスの純銅のNox

や、銅+銀線(銀メッキ銅線ではなく)のLunaシリーズを聴いていて、ケーブルによって確実に音が変わるのはわかっていたが、CIEMは大きな買い物でもあるので、2本同時入手はキツかったため....

 

ただ、デタッチャブルケーブル仕様のBLESTなので、できるだけ早く交換ケーブルを手に入れて、音質変化を楽しみたいとは思っていた。そこで、購入店のポイントアップ期間を狙って、「Pentaconn Ears ⇔ 4.4mm5極バランス仕様の基準ケーブル」として、onsoiect_03

を購入することにしていたのだが(ずいぶん前から購入サイトのカートには入れていた)、ほぼ同時に予定外に良い出物情報が出たため、入手したのが本品、OFC(102SSC)×4N純銀 8芯ハイブリッド 4.4mmサンクベス - Pentaconn earのケーブル

 

以前からSNSでフォローしていて、その完成品の美しさや、購入したフォロワーからの音質レビューで注目していたケーブル製作者enri worksえんりさん。

 

線材には、既存の高評価ケーブルはもちろん、日本ディックスとオーツェイドに協力を仰いで開発したというオリジナルケーブルや、コットン巻き単線を手撚りしたヴィンテージケーブルを使い、分岐部にはレジンを使った美しいオリジナルハンドメイドスプリッターを使用している。

 

ただその分結構高価なので、ときどきenri worksが出店しているイヤホン関係イベントなどで試聴の機会があれば...と狙っていたが、購入には至っていなかった。

 

それが、ちょうどBLEST購入後、少々懐も持ち直してきたので探していた「Pentaconn Ears ⇔ 4.4mm5極バランス仕様」のケーブルが、一点物のアウトレット品として販売されるというTweet(当時)がえんりさんから流れてきて、それがBLEST購入時に比較して好印象を持った(が、高くて買えなかったw)Lunaシリーズと同じ銅線×銀線の組み合わせであったこと、ネイリストデザイン「ギャラクシー」のBLESTとは相性がよさそうな青系のスリーブだったこと、通常商品はオシャレな木箱に収められているようだが、ケーブルと保証書のみをチャック付きポリ袋に入れただけの簡易包装で、enri worksのケーブルとしては破格に安価であったこと(製作済みで仕様変更できないというのもアウトレットの理由だったかもしれないが、それは探していた仕様なので問題なし)で、試聴なしで購入に手を上げてしまった。

アウトレット商品なので、外箱はなしで外装はこれだけ
アウトレット商品なので、外箱はなく、外装はこれだけ

 

ちょうどその週末別件で東京近辺にいたこともあって、日曜日に地方住みのえんりさんがそのタイミングで開催されていた「ポタフェス2023夏 秋葉原」に参加する(このときは売り手側ではなく、観覧側)というので、そこで落ち合って直接手売りしていただいた。

 

そのときはBLESTを持参はしていなかったので、その場での試聴はできなかったが、SNSなどで見かける他製品同様美しい仕上がりで、その音にも期待が高まった。

アウトレットでも、ケーブルそのものは非常に美しい仕上がり
アウトレットでも、ケーブルそのものは非常に美しい仕上がり

 

今回のアウトレットケーブルの仕様は

・導体:OFC(102SSC)× 4N純銀 8芯ハイブリッド
・プラグ:トープラ販売製4.4mmサンクベス(旧仕様)

・コネクター:日本ディックス純正Pentaconn ear

ということだった。

 

102SSCは、えんりさんがオリジナルケーブル以外ではよく使っている、リサイクル銅を一切含まないヴァージン銅のみを使用した、導電率 102.3 %IACSを誇るオヤイデ電気製の精密導体。市場の評価は「解像度が高いが音質バランスに癖はない」「聞き疲れしないフラットバランス」と言った感じで、高音質だが癖がなく素直な音質と言ったところ(逆に言えば特筆すべき特徴がないともいえるが)。

 

4N純銀(線)の方は、線材の明記はないが、かつてSNSで「オヤイデ電気の4N純銀撚り線」について言及していたので、それかな?

 

プラグは、購入当時はそれから半年も経たずに廃業の報告を聞くなんて思ってもいなかった、トープラ販売製のサンクベス。その時点で旧型、というのでおそらく「CINQBES-V15NG5」。

このときは半年後にトープラ販売の製品が入手不能になるとは思っていなかった...
このときは半年後にトープラ販売の製品が入手不能になるとは思っていなかった...

 

コネクター部は日本ディックス純正のPentaconn earということだが、そのグリップ部分は形状からするとBispaのオリジナルグリップっぽい(ちな、ラインが入っている方が右ch)。

 

そしてえんりさんのリケーブルの特徴ともいえる宝石のように美しいハンドメイドスプリッターは、蒼いスリーブに合わせて、ブルートパーズのような輝き。

ブルートパーズのようなはBLESTのネイリストデザインと相性が良い
ブルートパーズのようなスプリッターは、BLESTのネイリストデザインと相性が良い

 

この蒼く美しいケーブル(以下えんりオリジナルケーブル)を、BLESTに接続し、自分にとってのBLEST標準ケーブルである日本ディックスのWistariaと比較してみた。DAPは現在のメインDAPであるShanling M3X Limited Edition

の4.4mmバランスアウト直結(セッティングは、ゲインLowでDUAL DAC(DAC Turboモード)、EQはスルー)。

組み合わせはこんな感じ
組み合わせはこんな感じ

 

銅線×銀メッキ銅線のWistariaと、銅線×銀線のえんりオリジナルケーブル、その違いを確かめるため、いつもの評価曲を聴いてみた結果....

 

まずは何度も様々な機器で再生していてほとんどの試聴で最初に確かめるcybercatの音質評価基準曲、吉田賢一ピアノトリオの“STARDUST”

から「Never Let Me Go(わたしを離さないで)」(PCM24bit/96kHz)。これ、結構違う。Wistariaはシンバルはアタックよりもボウの鳴っている響きが優勢だったし、スネアのリムショットもリムの鳴りとともにシェルの鳴りもよく聞こえたが、えんりオリジナルケーブルは、シンバルは明らかにアタックとその余韻が優勢。リムショットはスティックが鳴る音が聞こえ、より近い感じ。ベースソロはWistariaはウッベのふくよかなボディの鳴りがあったが、それよりもむしろ弦を弾く音が強くて、よりダイレクトで脚色が少ない感じ。ライヴハウスで聴くならえんりオリジナルケーブルかな。ホテルラウンジならWistariaだけど。

宇多田ヒカルの名曲「First Love」は、同じくハイレゾ(PCM24bit/96kHz)の“Utada Hikaru SINGLE COLLECTION VOL.1+2 HD”から。

これもかなり違う。Wistariaのヒカルの声はかなり湿っていて泣きそうな情感。本来大きめに入っている打ち込みのベースを押しのけて中央に居座る。えんりオリジナルケーブルはベースはやや平坦で打ち込みらしい音、そしてヒカルの声は清廉。震える声はややハスキーではあるものの、情が溢れて震えている感じと言うよりは、素の声という感じ。Wistariaの湿り気を脚色と取るか表現力と見るか、あるいはえんりオリジナルケーブルのダイレクトに感じる声の震えをリアルと取るか、素っ気ないと取るかの違いか。

女性声優あやちゃんこと洲崎綾が、自身の30歳の記念に出したファンブック“Campus”

に収められていた、バラード「」。これはBLESTの添付ケーブルにWistariaを選ぶにあたって、ポイントとなる曲だっただけにWistariaとの相性が良い。この曲、ミックスなのか歌声の地力なのか判らないが、リスニング環境・機材によっては声が立ってこない。それがWistariaだとヴォーカル中心になる。それがクリアに分離されて主役を張るというより、中央にスポットライトを浴びて立ち、他の楽器は目立たなくするという、脚色と言えるほどの、音創り。一方えんりオリジナルケーブルの方はもっと正攻法の音造りで、クリア。一方あやちゃんの声の「主役感」は減ずる。演出も含めて描き出すか、ソースに任せるかという違いのよう。

同じあやちゃんが歌う音飽和系楽曲、アイドルマスター シンデレラガールズの女子大生アイドル=新田美波の初期持ち歌「ヴィーナスシンドローム

はどうか。Wistariaだと、やはりヴォーカル中心で、デジタル感がやや薄れる。4つ打ちのキックはもちろん常に聞こえているのだが、声に意識を持って行かれる。えんりオリジナルケーブルの方は、すこしヴォーカルが控えめになる分、ダンサブルなビートに意識が行く。声を聴くか、演奏を聴くかという感じで、あやちゃん命ならWistaria、曲に合わせて踊るならえんりオリジナルケーブルか。

日野 ‘JINO’ 賢二をゲストに迎えた、ジャパニーズフュージョンの雄T-SQUAREのセルフカバーアルバム“虹曲~T-SQUARE plays T&THE SQUARE SPECIAL~”

から、JINOのベースプレイと坂東慧のキレのあるリズムが特徴の「RADIO STAR」。BLESTの特徴である、下を支えるスラップベースがプルよりもプッシュが目立つ、柔らかめだが存在感がある音、という基本線は、Wistariaえんりオリジナルケーブルも変わらないのだが、明らかに違うのが中高域がえんりオリジナルケーブルの方がヌケが良い..というかそこに軽いピークがあるのか、ハイハットやミュートギターのカッティングが目立ち、曲がパーカッシヴでテクニカルになる。もちろんベースソロと絡む坂東慧クンのキレの良いキックも立ちが良い。ピアノもアタックがより鋭く、アピール度が高い。これはWistariaの絵画的描き出しよりも、えんりオリジナルケーブルの明瞭さが良い。

Eaglesの古典ロックの名曲、世紀を超えて聴き継がれる「Hotel California」を24K蒸着の同名アルバムCD

からおこしたFLACで。これは...検証曲の中で一番印象が違うかも??Wistariaはベースの存在感があり、Don Henleyの抜けきらない声もフォーカスがあたっている。この曲、わりに左右いっぱいいっぱいにまで楽器を配置しているのだが、端のティンパレスの響きがリアルで左右シンバルの音も広がっている。ただその音色はややしっとり目で、全体的な音域分布としては、中~中低域に温かみがある甘い音。一方、えんりオリジナルケーブルは、アコースティックギターのカッティングが、「今、弦変えた?」というくらい上に抜ける音。左右のシンバルもちょっと重くしたような倍音の豊富さ(シンバルは同口径なら重い方が倍音が多い)。しかし、Donの声やベースはやや軽くなり、落ち着きがなくなる。これは圧倒的にWistariaの「時代感の描き出し」の良さが光る。

交響曲系の交響アクティブNEETsの“艦隊フィルハーモニー交響楽団”

から、「決戦!鉄底海峡を抜けて!」のBGMをベースとした勇壮な「鉄底海峡の死闘」。これは逆にそんなに大きな違いはないが、Wistariaが低域の「緩さ」でかたまりで押してくるのに対して、えんりオリジナルケーブルはもう少し明晰で理性的?にアピール。高音域のパーカッション類の響きも通るので、広さは感じる。緩いながらも全体として面で圧をかけてくるWistariaか、しっかり個々の楽器を描きつつ多点で迫るえんりオリジナルケーブルかという感じだが、差は大きくない。

配信に多い高ビットレートmp3楽曲(ビットレート269kbps)としては、YOASOBIや、ももいろクローバーZのサポートベーシスト、THE ALFEEの坂崎幸之助の音楽番組のハウスバンドのベーシストとして、すっかり人気者のやまもとひかるの2nd配信シングル「NOISE」。

このラウドでベースの小技が効いた曲はえんりオリジナルケーブルの良さが光る。Wistariaもラウドなバックに埋もれがちなひかるちゃんのヴォーカルをフィーチャリングし、ベースの存在感も大きく、曲全体としては悪くない形に仕上がっているが、えんりオリジナルケーブルの抜けの良い音が、ひかるちゃんの声に張りを加え、ベースも歌バックの部分はやや控えめになる一方、高音弦やスラップを使うことになることが多いソロやオブリ部分は前に出てメリハリついている。キックのアタックも強く聞こえ、スピード感のあるビート強めの曲に感じられる。

 

えんりオリジナルケーブルは全体として、Wistariaの「装飾」「お化粧」を控えめにして、やや写実的にするものの、iect_03ほど無色透明という感じではなくしっかりと高音の美しさはある感じ。その分比較としての低音域は少し控えめ。ただスピードはあるので、キックの音が立っているバランスの曲ではリズム感は強く、しっかりとビートを感じることが出来る。

 

銅線×銀線で想像するより、高域一辺倒ではなく、スピード感もあって良いケーブル。これはBLESTの標準ケーブルの座を長時間の試聴の末獲得したWistariaと分け合うか?という感じ。

 

ただ、一点弱点も。耳掛け部分に癖がついていないのは、Wistaria同様...あるいはそれ以上にしなやかなので、あまり問題にならないが、タッチノイズは大きめ...というかはっきりと大きい。そのため、これを「みっちりフィット」のBLESTに使うと、ケーブルに不用意に触れると耳にダイレクトに響いてしまう。そこだけがちょっと惜しいかな....今回のえんりオリジナルケーブルは、左右の信号ラインが一つのスリーブに収められている、外から見ると2本の線が編まれているような単純な構造。その分「編み」も大きく、スリーブも粗めのゴム靴紐のような布地なので、それが影響したのかも。

 

ただ、その欠点を差し引いても、価格約2倍のWistariaと張れる音質と個性があるケーブルで、これは無試聴購入の賭に勝った!という感じ。

 

また機会があれば別のえんりさん製作ケーブルを手に入れてみようかな....

 

【仕様】

導体:OFC(102SSC)× 4N純銀 8芯ハイブリッド
プラグ:トープラ販売製4.4mmサンクベス(CINQBES-V15NG5)

コネクター:日本ディックス純正Pentaconn ear+トープラ販売製Bispaオリジナルグリップ

分岐:光硬化レジン

更新: 2023/10/29
高音

キンキンではない、躾けられたヌケの良い音

聴きやすい音質ながら、ヌケもあり、上手く処理されている。ギラギラではなく、キラキラ。中高域に綺麗に色をつける。

更新: 2023/10/30
中域

中高域に華があり、女性ヴォーカルや煌びやかな音色のソロ楽器が立つ

中域~中高域のヴォーカル・ソロ楽器はバックの音から抜け出て前に来る。一方中低域の男性ヴォーカルの一部は沈むので一長一短。

更新: 2023/10/29
低音

実低域はやや薄めだが、低音楽器は前に出る

実際の低域はそこまで主張しないが、キックのビーター音やスラップのアタック音域は「出る」ので、存在感はある。

  • 購入金額

    19,000円

  • 購入日

    2023年07月09日

  • 購入場所

    えんりさん@enriworks手売り at ポタフェス2023夏 秋葉原

14人がこのレビューをCOOLしました!

コメント (2)

  • harmankardonさん

    2023/10/30

    このスリーブは,見るからにタッチノイズが大きそうです.スリーブなしでもいいと思うんですけれどね.
  • cybercatさん

    2023/10/30

    スリーブはかなりザラザラしていて,BLESTの密着性が尋常でないレベルなのもあって,ちょっとあたると耳の中に「ゴイン」て響きます.WistariaやNox、iect_03はそこまでではないので,やはりこのケーブルの,スリーブか撚り方起因だとおもいます.

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