最近、ポタオデ~オーディオ自作系界隈で大きな出来事と言えば、高品位なプラグを製造・販売していた日本のメーカー、トープラ販売株式会社の廃業(実際の廃業予定日は2023年11月末)。特に4.4mm5極の高品質プラグはトープラ販売の独壇場だった関係上、リケーブルメーカーで使っていた所も多く、多くのリケーブルメーカーが現行商品の廃番や内容変更を強いられた。しかし日を置かず、そのニュースに隠れた(もしくはトープラ販売廃業の余波と勘違いされた?)形になったニュースがリリースされていた(トープラ販売廃業リリース2023年10月13日に対して、10月16日)。それが、日本ディックスの「Pentaconn一部製品在庫限りにて生産、販売終了のお知らせ」。
日本ディックスは、MMCXや0.78mm 2pin等のイヤホン接続端子のネガを潰したPentaconn端子の開発/販売元であり、いままでそれを使った幅広いリケーブルラインアップを誇っていたが、ベーシックからプレミアムまで倍ほどの価格帯の幅を持っていた「リケーブルPRSシリーズ」を畳み、中間くらいの価格の1種=Spada(使用線材はPC-Triple C)のみが属する「リケーブルPRCシリーズ」に一本化するという方針。現在ではPentaconn端子採用のリケーブルは他社からも発売され、裾野が広がってきたので、端子開発元としては宣伝・普及の役割は終えたと言うことなのだろうか。
ただ、日本ディックスのリケーブルシリーズは、Pentaconn Ears端子以外も選択できることもあって?、それ自体で高い評価を得ていた。それは自身でも実感していて、今年前半Pentaconn ear採用のCIEM、アルファ☆デシベルのmiro BLEST
を購入した時のグレードアップケーブルとして、「リケーブルPRSシリーズ」の当時下から3番目(あの価格でもw)、Wistariaをチョイスしたが、そのときその場にあった日本ディックス製のリケーブルは一通り試して、すべて好感触を得ていたから。そんな中、実は試聴時間が許す限りかなり真剣に比較して、僅差で選択しなかったケーブルがある。それが、同じ「リケーブルPRSシリーズ」のWistaria直下の機種、Nox。
当時の「リケーブルPRSシリーズ」のラインアップは下から
・Regulus:中心に低域用OFC、外周に高域用銀コート6N OFCを配した8芯編み構造/先行して廃番
・Nox:6N OFC導体を8芯使用
・Wistaria:中心に低域用6N OFC、外周に高域用銀コート6N OFCを配置した8芯編み構造
・Luna plena:プラス側(HOT)に4N-純銀線材、マイナス側(COLD)に6N-OFC線材使用
・Luna nova:プラス側(HOT)に6N-OFC線材、マイナス側(COLD)に4N-純銀線材使用
・Lilium:4N純銀導体を8芯使用
というもの(価格は選択端子によって多少変わるが、2万円中盤から6万円弱。Luna plenaとLuna novaは同価格)。
つまり、OFCが6NではないRegulusはちょっと別系統だが、他は6N-無酸素銅オンリーのNoxをベースとして、それに半分銀メッキをしたWistaria、銀メッキではなく銀線との組み合わせになるLunaシリーズ、銅を使わず銀線のみとしたLiliumという感じの商品展開。つまり、この「リケーブルPRSシリーズ」で、銅しか使っていないのはNoxのみとなる(対して銀オンリーがLilium)。他は銀系の高域に特徴がある音色だが、Noxだけは純銅ならではの下のパワーとスピード感がある異色の傾向。一長一短というか、良き部分が異なるので、この二つは本当に相当迷ったが、いくつかの評価曲でWistariaの方がBLESTとの相性も込みで明らかに優勢で、NoxではなくWistariaを選んだわけ(つかLuna系以上の銀含有系はWistariaと方向性的には近い、というかさらに上位互換という感じだったが、価格的に手が届かなかった)。
ただ、販売終了、と言われるとNoxにはNoxの別の良さがあったのを識っているので、在庫品が尽きる前にあわてて手配したわけ。
当然端子としては、「Pentaconn Ears(ショート) ⇔ 4.4mm5極バランス」のPRS03-44-es。藤色と白いケーブルの編み込みだったWistariaと比較すると、マットブラック一色のNoxはずいぶん精悍な印象。
トープラ販売の廃業と、廃番告知が近接したため、トープラ製が噂されたプラグは独自開発らしい
このシックなケーブルを、miro BLESTに接続し、いつものように現DAP=Shanling M3X Limited Edition
の4.4mmバランスアウト直結で、いつもの評価曲を聴いてみた(セッティングは、ゲインLowでDUAL DAC(DAC Turboモード)、EQはスルー)。
まず、吉田賢一ピアノトリオのハイレゾ作品“STARDUST”(PCM24bit/96kH)から、
「Never Let Me Go(わたしを離さないで)」。6N OFC+銀コート6N OFCのWistaria (PRS04-44-es)に比べると、6N OFCのみのNox(PRS03-44-es)は、グッと重心が下がって落ち着いた感じになる。ただ音域・音質的なものか、ベースはさほどに前に出てこない(サブベース領域はあるのだが、指弾きのウッベのアタックがこないというか)。シンバルレガートの広がりが美しかったWistariaと比べて、ドラムスの存在感が減じるか、と予想したが、意外なことに、上の倍音は減ったものの、低次倍音はむしろ目立ち、シンバルの口径が大きくなったようなイメージ。あとリムショットも大きく感じるので、単純に高域のWistaria、低域のNoxと定型的に語ることは出来ず、一筋縄ではいかない。好みで言えば、シンバルの広がりと、ベースのアタックが感じられるWistaria。
同じハイレゾ曲、宇多田ヒカルのPCM24bit/96kHzのデータが入ったUSBメモリ“Utada Hikaru SINGLE COLLECTION VOL.1+2 HD”
から「First Love」。これは線材のイメージ通り、高域のWistaria、低域のNox。Wistariaは、1st verseの静かな部分の「部屋感」が素晴らしく、ギターやピアノの響き、ストリングスでのつつまれ感が良く、その中心でヒカルが歌っていて、1st Chorusからベースが入ってきてもヒカル中心で世界は回る。一方Noxは、静かな部分ではヒカルの声がもっと近い。ベースが入ってくるとベースが「支配する」とまでは行かないが、かなりの「タイマン」張る感じになって、どっしりとした構えの帯域が広い感じの楽曲に。ヒカルの実在感とベースの前進力が強いNoxの方がイメージがよいか。
もう一曲女声バラードで、あやちゃんこと女性声優洲崎綾の歌う「空」は、メモリアルフォトブック“Campus”から。
この曲、改めて聴いて想い出したが、アルファ☆デシベルでmiro BLESTにつけるケーブルを決める決定打になった曲の一つだった。Wistariaは、あやちゃんの歌声が中央に鎮座し、他の楽器が邪魔せずヴォーカルを味わうことができる。ピアノやギターといった中音域楽器が大き目ではあるが、それらもヴォーカルのバックに配置され、あくまで中心は歌。一方Noxは、バランス的にベースやピアノ(特に左手)にフォーカスが当たっている感じで、躍動感や安定感は増すのだが、あやちゃんの声がやや引っ込む。音質的には悪いわけではなく、むしろ演奏の細かい部分はNoxの方が聴き取れるのだが、曲全体としての出来がWistariaの方に軍配が上がる。ステージでバンドメンバーと横一線で歌っているかのようなNoxと、あやちゃんが2歩前に出てスポットライトが当たっているイメージのWistariaとの違いという感じか。
アイドルマスターシンデレラガールズのダンサブルな打ち込み曲、あやちゃんが演じる女子大生アイドル新田美波の初期持ち歌「ヴィーナスシンドローム」
は、一番違うのは低音のリズム感。Wistariaはビートがやや緩く、むしろほぼ同時発音のシンベのボディの部分が目立つ感じだが、Noxはバスドラのアタックは鋭く、ビート感が増す。ただ、あやちゃんの声が若干引っ込み、中音域だとピアノやストリングスのバックの存在感が増す感じに。左右を駆け回るSEも、若干下に下がって、上がちょっと削れたような感じなので、その関係もあるのか?ヴォーカルを取るのか、リズムをとるのか、という比較軸か。
キメが多くて、キレとスピード感が欲しいジャパニーズフュージョン、T-SQUAREの「RADIO STAR」。オリジナルではなく、ベーシスト&ラッパーとして、JINOこと日野賢二をゲストプレイヤーに迎えたセルフカバーアルバム“虹曲~T-SQUARE plays T&THE SQUARE SPECIAL~”に収録のアレンジで。
BLESTの「スピード感はやや緩いが、量はある」という低域音色を覆すほどではないが、Noxはキックのアタックが増し、キレが増す。比較するとWistariaはより緩い。その分Wistariaの方がベースの存在感は増す部分はあるが。Wistariaではリリカルで、倍音が美しかった河野啓三のピアノソロは、Noxだとより鋭く、強弱の表情付けも明確で、よりテクニカルに。Noxの方が直截的で、余韻は少ないが、ジャンルを考えると、これはこれで悪くない。
Eaglesの古典ロック「Hotel California」は24K蒸着CD盤の同名アルバムから。
一言、Noxのギターがイイねぇ...Wistariaのオールディな雰囲気も含めて全体を聴かせる感じも悪くないが、この、アコギ~12弦ギター含めて10本以上のギターが入り乱れる、「ギターコンシャス」な楽曲ではギターの音が良いのが至高。特にJoe Walshのテレキャスの音が本当に良い。ピッキングの「立ち」の音色が最高にイカしてる(死語)。
ゲーム艦これのBGMで、戦闘シーンに使われたという勇壮なオーケストラ曲「鉄底海峡の死闘」は、リアルオーケストラでの演奏を、交響アクティブNEETsアレンジの“艦隊フィルハーモニー交響楽団”から。
弦楽ならヴァイオリン・ヴィオラあたり、管ならペットやピッコロなどが出てきて派手、低域はグッと塊感があるWistariaに対して、Noxは低域の破裂感がスゴイ。ティンパニとコントラバス、チューバあたりの低音組が総がかりで殴りに来る。ただ上はさほどに派手ではないので、むしろWistariaより音量を上げてしまい、さらに低音パンチを受けるという感じ。これは甲乙つけがたい。
配信では主流の269kbpsの高ビットレートmp3音源としては、YOASOBIのサポートベーシストとして注目度が高まるやまもとひかるの2nd配信シングル「NOISE」。
これ、Pentaconn earの「基準ケーブル」とした6NのOFCと3種の4N銅線を使ったonsoのiect_03_bl4p_120
とWistariaを比較した時「楽曲全体はWistaria、ベースを聞くならiect_03_bl4p_120」と評したが、iect_03_bl4p_120と同じく銅だけのNoxは絶妙なライン。Wistariaよりはひかるちゃんのヴォーカルは引っ込むがiect_03_bl4p_120よりは「前」にいて、逆にベースはガツガツ前に出るほどではなく、「やや目立つ」くらいの良い塩梅。それでいて、所々に挟まれるグリス(特に1st verseラスト)は「ヴゥゥゥゥゥゥン」と重心が低く気持ちよい。
全体として、ヴォーカルやソロ楽器を際立たせて、やや「綺麗」に聴かせるWistariaに対して、低音の存在感を中心に、楽器を写実的に描き出し、「リアル」に聴かせるNoxという感じ。
この日本ディックスの「リケーブルPRSシリーズ」販売終了の報が流れた後、複数のイヤホン/ポタオデ系アカウントが特にNoxの終売を嘆いていたが、改めて聴いてみると、脚色が少なくて、良いリケーブル。それでいて、日本ディックスの「リケーブルPRSシリーズ」では、低価格帯に位置していて、実にコストパフォーマンスが高い(←麻痺)。流石に予算的に他の接続端子分までは手が回らないけれど、これは廃番前に買えてよかったな...
なおケーブルそのものの評価ではないが、今回比較試聴のためBLESTとケーブルの抜き差しは100回以上やったと思うが、軽い力できっちり留まり、細かい部分が見えづらい視力的な衰えにもかかわらず、その抜き差しに一切の不安感がなかったのが、Pentaconn earの良いところ。採用メーカー増えないかな~...
【仕様】
・入力側:Φ4.4 mm5極 OFC金めっきプラグ(下地非磁性体めっき)
・出力側:Pentaconn ear(標準)OFC金めっきプラグ(下地非磁性体めっき)
(ばね部分には、低抵抗値の特殊銅合金を使用)
・ケーブル:6N OFC 8芯Braid構造
・ケーブル長:約1.2 m
中~低域の主張する硬さの延長ではなく、やや控えめ
フォーカスは合っているのだが、やや控えめで、前には出ない。
基音中心のパワー感ある音
しっかりとした力のある中音域。音の「立ち」も良いので明瞭。
魅せ場。芯があり、力強い、くっきりとしたキックやベース。
「硬い」というわけではないが、しっかりと芯がある低域。ぼわっと量だけがあるのではなく、フォーカスが合った低域。
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購入金額
31,900円
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購入日
2023年10月17日
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購入場所
Pentaconnオフィシャルショップ
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