レビューメディア「ジグソー」

グループ名には「JAZZ」と入っているが、キャッチーなフュージョンタッチの曲やファンキィなリズムコンシャスな曲、変拍子曲まで幅広く、なじみやすい曲が多い

所持する音楽データに対する私利私欲...イヤ私情私見あふれるコメント、音楽の杜。こういった分野のものは「好み」ですし、優劣を付けるのもそぐわない気がしますので、満足度の☆はあくまで私的な思い入れです。「ジャンル」。アーティストの作品がどの方向性かを大雑把に示すには便利な言葉です。ただ、世の中にはジャンルに当てはまらない作品があります。今までのどんなジャンルにもに当てはまらないような作品もありますが、いくつかのジャンルにまたがるような、多彩な楽曲が詰め込まれた作品も楽しいものです。8つの才能が集まり、様々な楽曲が持ち寄られ、高い技術で演奏された作品をご紹介します。

 

THE JAZZ AVENGERS。女性のみの8人からなるジャズ・フュージョングループ。元々はドラマーの千里ちゃんこと川口千里

が、イベント用(One Young World 世界サミット)の女性ジャズバンドの結成を依頼され、その時集めたメンツの相性が良かったため、そのままパーマネントバンドとして活動することにしたようだ(イベント時はSenri’s Sevenというユニット名がついていたらしい)。

 

集められたメンツは、千里ちゃんの他に、女性フュージョンバンドMuses

でも活躍するベーシスト芹田珠奈(ジュナ)、ハイテクニカルなインストプログレバンド

から、さわやかなフュージョン

まで、確かなテクニックで奏でるギタリスト瀬川千鶴(千鶴ちゃん)、akikoのレコーディング参加や、AIのライヴサポート、サックス中園亜美とのデュオ活動のLE GRAND RETOURなど幅広いフィールドで活躍するキーボーディスト竹田麻里絵の4人がリズム系プレイヤー。

 

これにフロントに4管のサックスが加わるのがポイント。まず竹田とも活動する前述のソプラノサックスの中園。アルトサックスが2本でWaKaNa(稲村和佳奈、女性ヴォーカリストのWakanaこと大滝若奈とは別人)と寺地美穂。ラッパーやDJなどとのコラボが多いファンキィなWaKaNaに、ジャズクラブのハウスバンド参加や講師活動など正統派?の寺地と、方向性と音色が違うアルトが2本というのが面白い。テナーは、Project Mで名曲のジャズカバーを親しみやすいジャズアレンジで演奏する活動などをしている米澤美玖。このソプラノ+アルト×2+テナーという変則4管のサックス隊が、このグループの最大の特徴(楽曲によっては、寺地がバリサクを吹くこともあるようだが)。

 

実は元々は、定石通り?サックス+トランペットとトロンボーンの「普通の」ブラス隊を加える予定だったが、意外に女性のトロンボーンプレイヤーというのがおらず、では、とサックス4管と言うゴージャスな構成となったらしい(そういう意味では「女性しばり」の思わぬ副次産物?)。

 

サックスが4本もあると楽曲としてのまとまりやパート分けが...という心配もあったが、8人全員が作曲ができることもあってか、行くときは行き、譲るときは譲りと、緩急自在に吹き分け、フロント4人の「重さ」はない。

 

このデビューアルバム“THE JAZZ AVENGERS”に収録されている10曲、唯一2曲を提供する千鶴ちゃんを除き、全員が1曲ずつ持ち寄り、それにサウンドプロデューサー兼アレンジャーの安部潤が1曲プラス、というかたち。どういう曲が収められているのだろうか。

 

Top Me Up!」。リードチューンのこの曲は、リーダーの千里ちゃんの曲。メンバーから「リーダー(千里ちゃん)は変拍子の曲作ってきて」と指定されて創ったこの曲は、7/8でありながら、その寸足らずのリズムが、緊張感と言うより、前のめりの躍動感に変換されているハッピーな曲。パートわけされた複数のサックスで奏でられる、ゴージャスなテーマに続いて、千里ちゃんのオンビートドラムソロ!流石手数王(故菅沼孝三)の愛弟子、音数多い多い。サックスのソロ廻しに続いては、千鶴ちゃんのブルーステイストな熱いソロ、これはイイ!アウトロは、またサックスソロに戻って〆。

 

Unite」は、アルトサックスのひとり、WaKaNaの作。これは、かなり「フュージョン色」が強い。爽やかに竹田のエレピで導入され、Aメロはサックス隊による吹き継ぎメロディラインで、WaKaNa⇒寺地とアルトで繋ぎ、次に米澤のテナーが引き継ぎ、最後のフレーズはソプラノの中園が重ねる。サビはキャッチーで覚えやすい。ソロ廻しは、アルトサックスでWaKaNa⇒寺地と繋いだ後、ファンキィなジュナのスラップソロを経て、最後は竹田のエレピソロ。ソロを無理に全員回さない、というのも曲の構成を考えれば、大事。

 

3曲目の「One By One」は、唯一2曲を提供する千鶴ちゃんの曲。もう一曲の「Mima Mounds」がギターフィーチャリングの壮大系のバラードなのに対して、こちらは管前面で、若干ビッグバンド風味がある曲。イントロやソロのバッキングは、キメのフレーズがシャープで、「ザ・フュージョン」と言う感じだが、展開部が4ビートで、サックス4管のフルユニゾンもあったりして、ハッピーなジャズ風味が濃くなり、楽しい。新世代ビックバンド曲という感じ。

 

他にもジュナの曲はクロくてファンキィだし、竹田の曲はスリリング、中園の曲はメロウと、それぞれ特徴があり、彼女たちで創り出せるいろんな音世界が楽しめる。

 

ただ、バラエティに富んでいる分、アルバム全体のカラーが薄い感じはする(情報によると、今回は各個人のカラーが強く出ている曲をあえて選んだようだが)。

 

今後ライヴDVDを出すところまでは決まっているようだけれど、その後の第2作の方向性がどうなるのか、そこが楽しみでもあり、気がかりでもあるグループです。

女性のみ8人のメンバー、サックス4人+リズム系4人
女性のみ8人のメンバー、サックス4人+リズム系4人

 

【収録曲】

1. Top Me Up!
2. Unite
3. One By One
4. Pain Or Pleasure
5. Buena Vista
6. Michel Tokyo
7. Funkadelic Muse
8. Mima Mounds
9. Raise Your Flag
10. All The Way

 

「Unite」

 

「THE JAZZ AVENGERS 1st Album “THE JAZZ AVENGERS” TRAILER」

更新: 2023/08/22
必聴度

全員作曲ができる、というのは強みでもあり....

....曲の指向性が定まらないという弱みでもある。

今のところバラエティ豊かな間口の広い楽曲を演奏するグループと言う感じで、好意的に観られているが、今後のかじ取りは難しいか....

  • 購入金額

    3,000円

  • 購入日

    2023年07月30日

  • 購入場所

    Amazon

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