今でこそオーディオといえばアナログレコードとハイレゾという私ですが、元々はカセットの愛好者でした。本格的にオーディオを使うようになってからは複数台3ヘッドデッキを並べ、外出用のプレイヤーで聴く用途のものでさえ、メタルテープ中心で編集していたほどです。実際、過去に少しだけですがカセットデッキを紹介していますね。
実際には他にも、3ヘッドデッキだけを取り上げてもKENWOOD KX-9050S、A&D GX-Z7100EX、Pioneer T-770S・T-858辺りの使用歴があります。
一般的なカセットユーザーであれば、やはり避けて通れなかったと思われるのがTDK製のカセットテープだったのではないでしょうか。実は当時のカセットデッキメーカーは一応自社ブランドのリファレンスとなるカセットテープをラインナップしている会社が多かったのですが、多くの場合それはTDK製のOEM品でした。当然家電量販店やオーディオ店、果てはコンビニに至るまで、カセットテープを買いに行こうとするとほぼ間違いなく店頭で最も選択肢が用意されているのがTDK製品でした。
恐らく当時の3強ブランドだったのはTDK、maxell、SONYだったでしょう。ただ、私はTDKと近い比率でDENON製(厳密には系列会社のコロンビアマグネプロダクツ)を愛用していましたし、AXIA(富士フイルム)、That's(太陽誘電)の方がmaxellやSONYよりは多かったと思います。当時から捻くれていたようで…。ちなみに我が家でラジカセを買って初めて使ったテープはBASF(ドイツ製)でした。購入特典で付いてきたものだったようです。
それでもTDKだけは世間と同様に最大勢力だったわけで、当時の業界におけるTDKの存在の大きさがここに表れているように思います。
先日そんなTDKカセットテープの全てを網羅した「TDKカセットテープ・マニアックス」というムック本が発売されると聞き、早速買おうとしたのですが、意外なことにAmazonでは即納とはなっていなかったため、急遽ヨドバシ.comの方で注文しました。こちらも発売日よりは遅れたのですが、昨日手元に届きましたので早速紹介したいと思います。
まず驚いたのが裏表紙で、普通ならここは広告が掲載されます。しかしTDKが既にカセットテープはおろか全ての記録メディア事業から撤退してしまっていて、B to Cの事業すら残されていないということで、広告は掲載せずTDKカセットテープの写真が掲載されているのです。ちなみに我々の身近に残されたTDK製品としては、HDDのヘッドはTDKが数多く生産しています。
約40年分全ての市販品が網羅されている
さすがにあまり細かく内容に触れてしまうのはまずいと思いますので、概要だけ紹介していきます。
これはノーマルポジションのミドルクラスとなる製品のAD-Xを紹介しているページです。多くの場合同じ型番でも何世代か存在していますので、それぞれの世代の写真や価格が紹介されているほか、その製品の主な特徴が解説されています。ただ少し残念だったのは、製品の紹介で技術データが掲載されていないことです。
TDK製のカセットテープでは、周波数特性グラフやMOL(Maximum Output Level=一定以下の歪みで記録できる最大音量)のデータがパッケージ裏に記載されていました。また当時はカセットテープの総合カタログも用意されていて、そこに詳細データ、例えばS/N比やテープ厚、最大残留磁束密度などもきちんと掲載されていましたので、そのデータを可能な限り掲載しておいて欲しかったところです。例えばハイ・ポジションの最上位製品SA-Xは3代目で世界最小ノイズレベルとなるS/N比-63.5dB(これは本書を見ないでも数値がすぐに出てくるくらい圧倒的な値です)を達成していて、このような数値の意義を際立たせるためには他の製品の値も不可欠だったと思うのです。
逆になかなか良かったのは、上掲のAD-Xの写真でも記載されていますが、「AD-X」という型番が「ACOUSTIC DYNAMIC EXTRA」の意味であることがすぐに理解できるよう掲載されていることでしょうか。私自身1970年代までの製品は自分で所有したことがなく、一部理解できていない部分がありましたので参考になりました。
カセットテープの紹介以外のページ数はさほど多くありませんが、TDKカセットテープの歴史の説明や、記録メディア撤退後のTDKについての説明などがあります。
本書を読んで手持ちのTDKカセットテープを探してみたのですが、未開封品は思ったよりも残っていませんでした。これで全てというわけではありませんが、他社と比べると少なめです。
MAは最終モデルのMA-EXまできちんと残っているはずなのですが、生憎見つかりませんでした…。
こちらは開封品中心となりますが、最小サイズのカセットケースを採用したSR-Limitedが出てきましたので、それを紹介しておきます。またダイキャストフレームが特徴的なMA-XG(初代)や従来とはラインナップの概念が異なるCDing-IVもついでに掲載しておきます。
一応現在もXK-009等はきちんと使えますので、これらのテープを使って楽しむことは出来るのですが、さすがに現在は記録メディアはmicroSDやHDDとなっていて、よほど何かの切っ掛けがなければこれらを活用する機会は無いと思います。しかし、ハイエンドクラスのカセットテープを使うとカセットの底力は十分に感じ取れます。
ただ歴代のTDKカセットテープを並べて紹介しているだけではあるのですが、かつての様々な記憶が蘇る契機となり得る一冊です。
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購入金額
1,980円
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購入日
2023年08月12日
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購入場所
ヨドバシ.com
フェレンギさん
2023/08/13
リーダーテープにヘッドクリーニング機能があり、ソニー、TDKより、すこし長めに録音できる
マクセルを愛用してました。
インデックスカードの罫線間隔もマクセルのそれが好きだったんです。
当時、長岡京市にあったマクセルのテープ工場に務めていた経験をお持ちの知り合いがおりまして
最近、話を伺う機会があったのですが
朝の朝礼のときに、ソニーとTDKのテープの顕微鏡写真などを見せられては
このレベルの製品を作ろう! と檄を飛ばされていたそうです。
TDKのSAやメタル ソニーのHFやDuad マクセルのXL
それぞれに個性があって 面白かったですよね〜。
jive9821さん
2023/08/13
私の場合、価格重視は当時からでしたので、実売が高めだった
maxellやSONYはどうしても少なかったようです。
DENONは安かったことに加え、実は数値上の性能が他社より
良かったのです。例えばSONYがUX Master/UX-PROで最大
残留磁束密度2000ガウスを自慢していた時期に、DENONでは
ミドルクラスのHG-Sで2100ガウスをあっさり達成していたりと…。
maxellはやはりMetal Vertexが圧倒的な存在で、TDKのMA-XG
Fermoと共にカセットの最高峰と呼ぶに相応しい製品だったと
思います。同時期のSONY Super Metal MasterはXK-009で
使う限り妙に作為的な音に聞こえて好きではないのですが。
私の場合カセットテープを選んで買うようになったのは小学校
高学年辺りで、その時点でDUAD辺りは辛うじて流通在庫が
僅かに残っていた程度でした。それでも数本買いましたが、
Fe-Cr対応デッキを持っていなかったため、妙に高域が伸びる
ノーマルテープという印象になってしまいましたね…。