レビューメディア「ジグソー」

エバーグリーンな名曲は、「いじる」なら気合いを入れていじれ、ということか

所持する音楽データに対する私利私欲...イヤ私情私見あふれるコメント、音楽の杜。こういった分野のものは「好み」ですし、優劣を付けるのもそぐわない気がしますので、満足度の☆はあくまで私的な思い入れです。全世界からアクセスできる動画サイトでは、かつてドメスティックにとどまっていた名曲が日々掘り起こされています。そんな名曲の宝庫と呼ばれる昭和シティポップを、カバーした作品をご紹介します。

 

さかいゆう。デビュー前に単身アメリカに渡り、そこからピアノを始め、さらに黒人音楽の洗礼を受ける。帰国としてシンガーソングライターとなり、活動しているが、彼が初めて出したカバーアルバムが本作“CITY POP LOVERS”。その名の通り、「昭和シティポップ」の名曲が取り上げられていて、さかいの、ブラックテイストがありながらポップさが前面に出ている、上手いヴォーカルで表現されている。

 

選ばれた曲は、1974年の荒井由実の名曲「やさしさに包まれたなら」から、1984年の竹内まりや「プラスティック・ラブ」まで、昭和50年代の名曲たち(厳密には1974年は昭和49年だが)。

 

まず山下達郎の名曲、「SPARKLE」。

これは「カッティングギターの山下」を代表する.ギターが印象的な楽曲だが、イントロ部分はさかいのピアノでのコード弾きに換えられている。ただ、曲に入るとギターのカッティングは復活するし、コーラスなどの入れ方もかなり原曲に忠実で、原曲イメージが濃い。ソロは間奏はサックスからさかいのピアノに、アウトロソロはサックス+スキャットから、Kan Sano(佐野観)のシンセソロに置き換わっているし、速さも約1割ほど遅くなっているが(原曲BPM100から90程度に)、微ハネのリズムや各パートの役割分担、通しで鳴る印象的なギターのカッティングのパターンなど、曲のキモとなる部分のイメージが驚くほど原曲そっくりで、良い意味で「歌が上手いさかいが「SPARKLE」のカラオケに合わせ、歌い、ソロを入れている」という感じで、イメージを壊さず、曲がグレードアップした印象。

 

一方、原曲とのちょっとの差が気になってしまったのが、松原みきがかつて歌った「真夜中のドア~stay with me」。

キーは2音下げられているが、テンポは108~110とほぼ同じで、大きく違うわけではない。しかし、このアレンジではリズムが打ち込みで、エイトビートの裏(16分音符)を強く感じるファンキィなパターンになっていて、バックもクラビ風音色のキーボードが強く、元曲の軽やかなカッティングギターが取り払われている(アコギで近いことをやっているが、元曲で強い個性を放っていたエレキギターの爽やかでキレのあるリズムではなくなっている)。ソロは間奏はサックスからさかい自身によるシンセソロに入れ替えられているのだが、そちらよりむしろ、アウトロでヴォーカルに絡みつつ、先にフェードアウトしたヴォーカルを追いかけるようにフレーズが歌っていた、故松原正樹のギターによる名プレイの部分がなく、ラスサビの何回かの繰り返しの後、ブツリと途切れて終わる形に変えられている。このアウトロのソロがないのが、エモーショナルさという意味ではかなり大幅ダウンで、「ソコ変えなくてよいところ~」という感じ。

 

原曲と変えるとダメか、というと、そんなことはなく、大滝詠一(吉田美奈子)の「夢で逢えたら」は、BPMが118程度から92位まで大胆に下げられ、硬い打ち込みのスロー16ビートになっているが、別の魅力が加わっている。カスタネットのような音が鳴り続け、大滝のフワッとしたヴォーカルが乗ったナイアガラチックな音設計の原曲からは全く異なり、スモーキィでジャジィな、粋な感じのアレンジ。間奏からずっとラストまでメロディに絡むトラックメーカーKibunyaのミュートトランペットが、雰囲気を一気にブルーな感じに引きずり込み、夜の印象が強くなる。この曲でのさかいはフワッとしたアレンジのこの曲を、現世につなぎ止める?アンカーになっているのだが、ムーディに優しく歌い、この曲の新しい一面を引き出している。

 

今回取り上げられた曲達は、いずれも「超」名曲であり、アレンジも含めて広く、深く知られている曲達ばかり。そういう曲は、「変えずに歌うか」「全く変えてしまうか」の2択なのかも知れない。

 

なお、この盤は初回限定盤なので、さかいの生まれ育った高知でのライヴが収録されたDVDが添付される。このときは高知の酒造メーカー酔鯨酒造50周年記念のコラボEP“Whale Song EP”をひっさげたライヴだったので、そのEPに収められた5曲と土佐清水市にある中学の校歌(情報がないが、さかいの母校?)、「ストーリー」などさかいの持ち歌が数曲という形で、本カバーアルバムに収められた曲は入っていない。

 

この中では地元高知で歌ったからか、ミュージシャン指向だった高校時代の友人で、さかいの進路に強い影響を与えながらも、早逝した友を想いながら書いたという「君と僕の挽歌」が、気持ちが入りまくっていてすごかった。3ピースバンドとは思えない説得力のある音(ベース:種子田健、ドラムス:Tomo Kanno-菅野知明-)で、そこにさかいの声が万感の想いを乗せて被さる♪春の風に消えた/無邪気な夢/ボクがひとりで叶えてしまったよ/ねぇ/これでいいかな?/キミならどうした?/How's it going?/調子どうですか?/こちらはツライこともありますが/キミへと届く気がするから/こうして歌っているよ♪歌い終えた後、頬のあたりに手をやったのは、汗を拭うためだけだったのだろうか?

「」を熱唱するさかい
君と僕の挽歌」を熱唱するさかい

 

さかい+種子田+の3ピースとは思えない音の厚さ
さかい+種子田+Kannoの3ピースとは思えない音の厚さ

 

作品全体としてはライヴDVDも付属し、とても満足度は高かったのだが、さかいの良い声をもってしても、名曲を歌い直す、というのは、実は大変なことなんだなぁ、とも感じた作品でした。

初回限定盤はライヴDVDつき
初回限定盤はライヴDVDつき

 

【収録曲】()内原曲

<CD>

1. SPARKLE / さかいゆう feat. Ovall, Kan Sano, Michael Kaneko, Hiro-a-key(山下達郎)
2. 砂の女 / さかいゆう feat. 関口シンゴ(鈴木茂)
3. ゴロワーズを吸ったことがあるかい / さかいゆう feat. Ovall(かまやつひろし)
4. 真夜中のドア~stay with me / さかいゆう feat. Shingo Suzuki(松原みき)
5. プラスティック・ラブ / さかいゆう feat. Kan Sano(竹内まりや)
6. ピンクシャドウ / さかいゆう feat. Michael Kaneko(ブレッド&バター)
7. 夢で逢えたら / さかいゆう feat. Nenashi(大滝詠一)
8. やさしさに包まれたなら / さかいゆう feat. mabanua(荒井由実)
9. オリビアを聴きながら [Bonus Track] / さかいゆう feat. さらさ(杏里)
10. 夏のクラクション [Bonus Track](稲垣潤一)

<DVD>

※酔鯨酒造 presents さかいゆう sings Whale Song(2022年8月6日/土佐清水くろしおホール)

1. Lalalai ~博多弁 ver.~

2. train

3. 父さんの汽笛

4. 故郷

5. 夏のラフマニノフ - 土佐清水市立清水中学校校歌

6. 君と僕の挽歌

7. 薔薇とローズ

8. Go Johnney, man

9. Whale Song

10. ストーリー

 

「SPARKLE」

更新: 2023/08/06
必聴度

カバーは原曲のテイストを色濃く残していながら、少しだけ違う、と言うタイプの曲に違和感

作品全体としてはライヴDVDも同梱され、聴きどころ・観どころいっぱい。

 

ただカバーされた名曲は、思い入れがある曲であればあるほど、「元曲の素晴らしさ」を再認識させられるものもある(もちろん、よくぞここまでやってくれた!という曲もある)。

  • 購入金額

    4,231円

  • 購入日

    2023年05月15日

  • 購入場所

    Amazon

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