米国のロックバンド、ジャーニーの15作目となるスタジオアルバムとなるのが、この「Freedom」です。前作「Eclipse」が2011年リリースですので、実に11年ぶりの新作ということになります。このブランクは解散→再結成となった「Raised On Radio」(1986年)→「Trial By Fire」(1996年)の間よりも長いのですが、今回はこの間もバンドとしてはきちんと存続していました。
ただ、全盛期のバンドに大きく貢献していた2人のメンバー(ロス・ヴァロリー、スティーヴ・スミス)との訴訟合戦などでバンドの陣容が固定されず、コロナ禍によりツアーも実施されなかったことでなかなか新作の制作という状況にならかったということのようです。
結局ドラマーにナラダ・マイケル・ウォルデン、ベースにランディ・ジャクソンと、いずれもプロデューサーとしても知られるベテラン著名ミュージシャンを新たに加えて制作されたのが、本作「Freedom」ということになります。
収録時間は73:12にもおよび、当然ですがLPでは2枚組となります。
それぞれのインナースリーブが歌詞カードを兼ねています。
カラーヴァイナルも用意されていたらしいのですが、私はいつも通り音質重視で通常のブラックヴァイナルを選択しています。
メンバークレジットが「バンドメンバー」ではなく「アルバム・ミュージシャン」となっている辺りが微妙で、どうやらアルバム完成時の正式メンバーとしてカウントされたのは
・ニール・ショーン(G)
・ジョナサン・ケイン(Key)
・アーネル・ピネダ(Vo)
だけであり、残りはあくまで参加ミュージシャンという扱いとなっているようです。後のツアー時にディーン・カストロノヴォ(Dr)が正式に復帰していて、この4名が現在のジャーニーのメンバーという扱いとなっています。ちなみにディーン・カストロノヴォはジャーニーへの復帰と同時にGeneration Radioからは離脱してしまっています。
参加が発表された際に大いに話題となったナラダ・マイケル・ウォルデン、ランディ・ジャクソンの離脱については、「ツアーが上手くいかなかった」という説明でしたが、ナラダ・マイケル・ウォルデンが軽度の心臓発作、ランディ・ジャクソンが腰の手術と、いずれも健康の問題を抱えていたため長期ツアーが困難だったことが大きいようです。
良く言えば安定の出来、悪く言えば変わり映えしない
本作の収録曲は全てYouTubeの公式チャンネル上に音源が公開されていますので、収録順に紹介していきましょう。
1曲目はメロディック・ロック風味のこの曲ですが、イントロこそ印象的なものの、Bメロ~サビの構成が何か印象に残りにくい感があります。ただ、サウンドは主要メンバーの多くが変わっても意外なほど変わっていないという安心感はありますね。
曲調やテンポ感は少々違うものの、アレンジが完全に彼らの代表的ヒット曲「Separate Ways(World's Apart)」のイメージそのものです。かつての再結成時に発表された「Trial By Fire」の1曲目「Message Of Love」で「Separate Ways」のアレンジをなぞったときには「ジャーニーが還ってきた」という嬉しさがあったのですが、ゴタゴタによるブランクの後で同じような演出をされても、ちょっと食傷気味です。
ジャーニーのギター中心のハードロック以外の、もう一つの得意分野であるミディアムテンポ曲ですが、この曲はアレンジとヴォーカルで何とか成立させているだけという感が強く、あまり印象に残りませんでした。
イントロがちょっとイメージに無い形でしたが、Aメロ以降はいつものジャーニーという感じですね。殆ど全ての曲にナラダ・マイケル・ウォルデンが関わっていながら、ここまでいつも通りというのもある意味凄い気はします。
収録曲中唯一の作者が単独名義となる曲で、バラードの名曲を数多く生み出してきたジョナサン・ケインの作となります。さすがにこの手の曲を作らせれば手慣れたもので、それなりの出来になっています。とはいえ、アーネル・ピネダ参加直後の「Revelation」に収録された「Ater All These Years」と比べるとちょっと弱いかなという気がしますが。ライブなどを聴いてきて気になるのはアーネル・ピネダが高音域を出しにくくしている感があり、この曲も現在の彼の声域を意識した結果印象が弱くなっているように思えます。
ジャーニーとしてはあまり見られない曲調の楽曲ではありますが、他ではむしろありがちで、何故こういう曲調に挑んだのか意図がちょっと掴めません。ある意味'80s風ではあると思います。
いかにもニール・ショーンが好きそうなアレンジで固められた曲で、ジャーニーのアルバムに1曲はありそうという印象しか受けませんでした。
本来ドラマーであるディーン・カストロノヴォがリード・ヴォーカルとして参加しているのがこの曲です。以前よりは少しハスキーさが出ていますが、依然としてヴォーカリストとしての実力の高さを見せつけています。この曲は元々アーネル・ピネダが歌っていたトラックを、ディーン・カストロノヴォの復帰のために差し替えたのでは無いかと推測されています。
テンポを落として重厚感を出したかったのでしょうけど、ジャーニーのサウンドは厚みよりはパワー感とスピード感が持ち味であり、重厚さはあまり出ていない印象があります。ジャーニーはニール・ショーンの主導が強くなりすぎると、どうしてもメロディーとのバランスが崩れる印象があります。
これもジャーニーのアルバムに1曲は入っていそうという印象の曲です。この曲の方がサビ部分のアレンジなど、80年代ジャーニーのイメージを残している気がします。「Come Away With Me」のこの曲はどちらか一方で良かったのではと思いますが。
これも「Let It Rain」と同じ方向の音を狙った曲という印象で、どちらか一方で良かったのではないかと思えてしまいます。強いて言えば、こちらの方がベースラインを活かしていて、ランディ・ジャクソンの見せ場にする曲なのかもと思いました。
ある意味80年代というか「Raised On Radio」時代のジャーニーにありそうな楽曲という印象です。下手にメタル系の曲にするよりは、このような軽快なサウンドの方が彼らの良さは出ると思いますが、意外なほどこの系統の曲は少ないアルバムでした。
アルバムの中の1曲としてまずまず良かったと思ったのは、良い意味での彼ららしさが強く出ているこの曲でした。シングルにしてもあまり売れないと思います(でも一応シングルカットはされたらしい)が、このような曲が何曲かあればジャーニーらしいアルバムと感じられそうです。
曲前半と後半とでアレンジが大きく変わる楽曲ですが、これもアルバム収録曲であればこのような緩急のある作りも悪くないと思います。ただ、もう少しメロディーラインに特徴があればもっと良くなったと思う楽曲です。
私がこのアルバムに辛口になった最大の原因といえる曲です。Aメロの部分を聴いた時点ではなかなか良いと思ったのですが、途中からドラムが入ってきた瞬間に「これはやり過ぎ」と思ってしまいました。「Don't Give Up On Us」は「Separate Ways」の印象を借りていると解説しましたが、この曲のアレンジはやはりかつてのヒット曲である「Don't Stop Believin'」そのものです。1曲だけでも食傷気味だった過去の名曲の印象を拝借するという行為を、同じアルバムで2曲やってしまうのは、自らを「懐メロバンド」と認めているとしか思えません。往年のファンは喜ぶかも知れませんが、私は正直こんなジャーニーを見たくなかったと思っています。
全15曲という大作ですが、曲数を増やしたことで展開や印象が近い曲が出来てしまい、冗長さの方を強く感じてしまいます。3~4曲削って水準を保った方が結果は良かったのではないかと思いました。何曲かはさすがに聴かせる曲は入れていますが、アルバムとしての完成度には疑問符を付けざるを得ないと感じます。購入してからしばらく取り上げなかったのも、広くお勧めするほどではないと感じてしまった事が影響しています。
-
購入金額
4,223円
-
購入日
2022年09月17日
-
購入場所
Amazon
ZIGSOWにログインするとコメントやこのアイテムを持っているユーザー全員に質問できます。