米国の共同購入サイト「drop.com」(旧Massdrop)の独自企画商品となるヘッドフォンアンプです。
私はdrop.comには数年前から会員登録していて、何度か品物を購入しています。
今回は以前から気になっていたヘッドフォンアンプ、DROP + THX AAA™ 789 LINEAR AMPLIFIERがHARD OFFにジャンク扱いで出てきていたので購入してみました。RCAまたはXLR端子からのアナログ入力にのみ対応するという、単機能型のヘッドフォンアンプです。
この個体のジャンク扱いの理由ですが、動作は正常であるもののボリュームのガリがひどいというものでした。その程度だったらということで購入してみたわけです。
同梱品は簡易マニュアルとACアダプター、そして何故かキャリングポーチとなります。
ACアダプターは24V 1.8Aというかなり大容量のものです。ケーブル部は全くこだわりのない安物ですが、これをオーディオ用のメガネケーブルに替えればいくらか良くなるのかもと思ったりも…。
背面にはRCA/XLR各1系統のライン入力端子が用意されているほか、RCA入力のパススルー端子も用意されています。電源入力はACアダプターの規格通りDC24V/1.8Aとなります。
底板の中央付近にビスが1本見えていますが、この製品を分解する際にはこのビスを外し、背面パネルに見えているビスを全て外して背面パネルを取り外した上で、フロントパネルごと基板を引き出す形となります。
規格上は上位仕様だが…
この製品の特徴は型番にある通り、THX AAA™ 789規格に準拠したアンプということです。
THXという名称からマルチチャンネル処理などを連想しがちですが、THX AAA™(THX Achromatic Audio Amplifier)は生粋のアナログアンプ向けの低ノイズ/低歪アンプ技術規格であり、グレードに応じて末尾に数字が付加されます。
以前取り上げた、FiiO X7用アンプモジュール、AM3DはTHX AAA™ 78というグレードでした。これはモバイル機器用としては最上位の構成だそうです。本製品のTHX AAA™ 789は据え置き機器用のミドルハイクラスとなるようです。
厳密に言えばTHX AAA™ 789という規格はTHX AAA™の公式サイトに掲載はされていないのですが、本製品のスペック表記は最上位規格であるTHX AAA™ 888と極めて近く、ミドルクラスとなるTHX AAA™ 788との中間に相当するのではないかと分析されています。
これが内部基板の全景となりますが、かなりシンプルであることが判ります。また、技術的な解説を読んでいるといかにもTHX独自技術の塊という印象ですが、実装されている部品は汎用品ばかりです。
まず、大きめの電解コンデンサー2本は、いずれもRubycon製PX 16V/3300㎌となります。パーツ屋の単品販売で百数十円の製品ですね。奥に見えているのはバッファーアンプやオペアンプとして使われるTI(Burr-brown)製OPA564で、これが4基搭載されています。これは部品単価であれば千円弱程度でしょうか。
こちらもオペアンプですが、TI(Burr-brown)製OPA1602が使われています。THX AAA™ 888規格の製品ではここがより上位のOPA1612になるらしいですが、私も詳しいことは判りません。ただ、いずれにしても特別な何かという印象は薄い構成ですね。
基板上のリレースイッチはいずれもこのNEXEM EB2-24NUが使われています。日本製ですが馴染みのないブランドと思ったのですが、かつてのNECトーキンから、この分野が独立して発足したEMデバイスという企業が、大本のNEC電磁機器事業部の愛称から名付けたブランドだったのですね。EB2-24NU自体は300円前後で買える部品のようです。
もっとも、THX AAA™規格を採用した製品はこれまでにいくつか聴いたことはありますが、数値上のスペックは完璧である一方、出てくる音はこれといってピンと来ないものだったというのも偽らざる本音であり、この製品も「スペックは素晴らしいけれど出てくる音はどうなんだろう」という興味があって入手したのです。
理論通りとは行かず、色付けも濃く感じられる
本来この製品はヘッドフォン端子がないオーディオインターフェース、MOTU HD192のモニター用を想定して、XLR入力が可能で安価なヘッドフォンアンプとして購入しています。
ただ、ボリュームのガリの修理などまだ組み込む前に準備が必要ということもあり、動作チェックのためにChord HugoのRCA出力に接続して試聴してみることにしました。RCAケーブルにはZonotone 6NAC-Granster 3000αを使い、ACアダプターはAIRBOW ABPT/EVO/4.27Vに接続しています。ヘッドフォンはMassdrop x SENNHEISER HD6XXです。
(現時点でChord HugoおよびZonotone 6NAC-Granster 3000αのレビューは未掲載)
なお、Chord Hugoはヘッドフォン出力とライン出力には全く同じ信号を流しているというのが開発者の主張であり、Hugoにヘッドフォンを直挿しした場合とこの製品を通した音とを聴き比べることで、この製品固有の音を把握できるというわけです。
試聴ソースはいつも通り、LP盤から起こしたWAVです。この辺りを主に聴いています。
DROP + THX AAA™ 789 LINEAR AMPLIFIERを通した音は、Hugoと比較すると明るめで間接音がやや多い代わりに、キレが鈍りヴォーカルの生気が減る印象を受けます。端的に言ってしまうと、小手先のテクニックで特性を向上させた場合によくみられる、音が死んでいるという感覚に近いものです。
特にはっきりと弱点が表れたのはTOTOで、スネアドラムが異様に大人しく感じられます。勢いよく叩いているのではなく、撫でているような音に感じられてしまいます。
ドナルド・フェイゲンやジョセフ・ウィリアムズの声はやや硬めで金属的な印象を受けます。レンジ感はかなりの広さがありますし、S/N感は素晴らしいものはあるのですが、音楽の美味しい部分が少なからず損なわれてしまうのは大きな弱点でしょう。ワイドレンジで音場が広く、描写も明瞭と一見しただけではオーディオ的に弱点が見当たらないように感じられるのですが、ヴォーカルが全く生きていないのでは、楽曲の良さは伝わりにくいでしょう。
なお、XLR入力した場合に印象が変わる可能性は当然あるのですが、この製品の回路はフルバランスではなく、増幅時にはアンバランスで処理され、バランス出力時に再度バランス化しているそうですので、本質的な音はそれほど変わらないのでは無いかと思います。
前述の通り、MOTU HD192に接続して録音の際のモニター用として使うつもりで購入したわけですが、デジタル接続して現在その用途に使っているLUXMAN DA-100と比較して、この製品の音が上と考えられるかといわれるとなかなか難しいものがあります。そのうち一度繋いでみるつもりでいますが、今後どうするかは少し考える必要がありそうです。
なお、ジャンクとなった原因であるボリュームのガリは、接点復活材を隙間からねじ込んだことで解決しました。
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購入金額
9,900円
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購入日
2022年01月26日
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購入場所
HARD OFF
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