私がメインPCで使っているマザーボード、ASUS PRIME X370-Aは型番通りAMD X370チップセットを搭載していて、CPUサポートはZen2のRyzen 3000シリーズまでで打ち止めとなる筈でした。
しかし、AMDの突如の方針転換によりSocket AM4対応の全世代でZen3世代となるRyzen 5000シリーズの利用が可能となり、ASUS PRIME X370-Aでも対応BIOSがリリースされました。
私は当初最後の対応CPUとなるはずだったRyzen 9 3900を購入して、PCIスロットを諦めるタイミングまでこれを使い倒すつもりでした。
Ryzen 9 3900は日本で正式にラインナップされていたわけではありませんが、一時期PCパーツショップに並んでいて、Ryzen 9 3900Xとほぼ同じくらいの価格で販売されていました。TDP65Wということで、クロックこそ低めですが12コア24スレッドをAMD純正CPUクーラーで十分冷やせるという魅力あるCPUでした。とはいえ、Zen+のRyzen 7 2700を圧倒する性能は発揮していたものの、Zen3世代と比べるとIPCの低さは顕著でした。折角マザーボードが対応したということで、今度こそASUS PRIME X370-Aの最後のアップグレードとしてZen3世代の12コアCPU、Ryzen 9 5900Xを入手しました。
外箱はシリーズで全て同仕様であるため結構大きめの箱に入っていますが、CPUクーラーは添付されません。これまでのRyzen 9 3900とは違いTDP105WのCPUであるため、さすがにAMD純正のWraith Spire(TDP65WのCPUに添付されていた)では性能不足は顕著ですから、買い置きしてあったCRYORIG R5との組み合わせで使うことになります。
もっとも、CPUクーラー自体の能力は十分あると思うのですが、PCケースがAntec Sonata Protoであるため、オーバークロックどころか定格であっても排熱に不安が残りますが…。
クロックを上げられずチップセットも古いため、本領は発揮していない
実はCPU交換後にしばらく使っていて、夏場は定格動作であっても発熱がかなり大きいことが判りましたので、電力設定で「省電力」設定をした上で使うことになります。冬になったら「バランス」設定にするかも知れませんが…。ただ、AMD純正のオーバークロックツール「Ryzen Master」によるダウンクロックを試してみたところ、通常操作のレスポンスが妙に悪くなったためこれは利用しないことにしました。
CPU-Zでは何故かBus Specs.でPCI-Express 4.0と表示されますが、X370は仕様上PCI-Express 3.0までのサポートの筈です。CPU側の対応バス性能をそのまま表示してしまっているのかも知れません。
さて、いくつかベンチマークテストを実行してみましたが、率直に言ってこの環境でRyzen 9 5900Xの能力を正しく発揮できているとは言い難いものがあります。まずはCINEBECH R15から。
こちらは比較的軽いベンチマークテストなので、電力設定をバランスにした場合と省電力にした場合との差を見てみました。するとバランスでは2862cbですが、省電力では2740cbに止まります。環境が多少異なるためそのまま比較するのは適切ではありませんが、値だけで見ればRyzen 9 3900の時代に2804cbを記録していますので、
Ryzen 9 5900X(バランス)2862cb > Ryzen 9 3900 2804cb > Ryzen 9 5900X(省電力) 2740cb
と、何とも微妙な値となってしまいます。発熱をRyzen 9 3900と同等までに抑えようとすると、Ryzen 9 5900Xの優位性はほぼ無いということに…。
続いてCINEBENCH R23です。
見辛いので値を書き出しますが、MULTI=16113pts、SINGLE= 1522ptsとなっています。ちなみにRyzen 9 3900の時代はMULTI=16080pts、SINGLE=1273ptsですから、シングル同士の値を比較すると単純なIPCは2割程度向上しているのでしょう。ただ、発熱の大きさからこのIPCの向上をマルチコアでは発揮できておらず、結果的にRyzen 9 3900とほぼ同程度の値しか出せていないことが判ります。
続いてPCMark10 Expressです。
PCMark10の総合スコアは5124で、Ryzen 9 5900XのPCとしては低めの値だと思います。この原因は詳細値を見れば明らかですが、CPU温度が90℃に達する時点でクロックが落ちるため、結果的に低いクロックで動く時間が長くなりスコアが伸びないわけです。
CINEBENCHのシングルコアの値ではっきりした通り、Ryzen 9 3900とRyzen 9 5900Xを比較すると、IPCはRyzen 9 5900Xで一足飛びといえる向上を果たしましたが、発熱や消費電力の大きさが影響して、実用性能では大きな差はつかないというのが今回の結論です。
恐らく放熱性能の高いケースに入れ、周辺温度も下げてやればもう少し高クロックで動き続けてベンチマークテストのスコアも向上するのでしょう。しかし、PCケースも5インチベイがあって振動が少ないものという条件で選んでいるため、このPCはこの環境で使い続けることになるわけで、Ryzen 9 5900Xがその真価を発揮することは残念ながら無さそうな気がします。
今時のCPUの難しさを実感する
ここ数年、IntelもAMDも、CPUの消費電力や発熱は増大する一方であり、高性能PCではCPUを水冷するのは当たり前となりつつあります。
私のようにCPUは空冷にこだわり、放熱性能の高いケースも使わないユーザーにとって、実質的に実用レベルといえるのはミドルクラス以下のCPUのみとなってしまいます。既にIntelの14世代目プロセッサーのスペックが明らかになりつつありますが、基本アーキテクチャはほぼ変わらず、コア数とクロックの向上によって性能の向上を狙う方向性は明らかで、ミドルハイ以上のCPUを使おうとするとかなり重装備なPCとすることを強いられそうです。
今まで使っていたRyzen 9 3900でさえ、重い処理をするとCPU温度が80℃に達するほどだったのに、Ryzen 9 5900Xでは省電力設定にしない限りはちょっとした操作だけで簡単にその温度に達してしまいます。半導体の進歩が鈍化している一方、CPUの性能向上のペースを無理に保とうとすることで、高性能CPUが扱いづらいものとなってしまったように思えます。
過剰なLED装飾といい、消費電力や発熱の極端な増大といい、ここ数年PCの進化の方向性が何か歪んでしまったような気がします…。
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購入金額
47,540円
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購入日
2023年02月20日
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購入場所
パソコン工房
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