レビューメディア「ジグソー」

ベースフォーカスのボカロコンピアルバム

所持する音楽データに対する私利私欲...イヤ私情私見あふれるコメント、音楽の杜。こういった分野のものは「好み」ですし、優劣を付けるのもそぐわない気がしますので、満足度の☆はあくまで私的な思い入れです。「グルーヴ」。なんとも説明しづらい単語ですが、ムリヤリ訳すと「ノリ」だったり、「躍動感」だったり、「リズムのキレと粘り」だったり...つまり、曲においての踊り出しそうなリズムの感覚...とでも表現できるものです。その「グルーヴ」にとって重要な楽器にフォーカスした作品をご紹介します。

 

GYARIことココアシガレットP。2008年から活動するボカロP(もしくはボイロP)で、ボカロ曲勃興期にはよく企画された「ボカロ曲コンピアルバム」への参加も多かった。そういったコンピアルバムは、ただ単に「(その当時)売れているP」や「ヒットしているボカロ曲」を集めただけのものもあったが、何かのテーマや縛りを定めて、アルバム内の統一性を持たせる場合もあった。以前「アコースティック」「初音ミク」縛りのコンピ作品

に参加したこともあるGYARIだが、その後「グルーヴ」にフォーカスした作品に参加した。

 

ポップス系の音楽で、グルーヴの要は何だろう?リズムメイキングという意味では、ドラムスやパーカッションと言った打楽器系が主役なのだが、グルーヴ、ということでは、音の長短がコントロールできるベースが果たす役割が、実は大きい。

 

4/4の拍子の曲で、1拍1音でプレイするのでも、四分音符の長さを意識して♪ボン/ボン/ボン/ボン♪と弾くのか、短く切って♪ボッ/ボッ/ボッ/ボッ♪と4拍打つのか、バックビートを強め/長めに♪ボッ/ボン/ボッ/ボン♪と表情をつけるのかで、全くノリが違ってくる。さらに(最近では打ち込みでも64分音符以下の細かい制御や、揺れなどもプログラミングできるようになってきているが)同じ譜面でも、若干の前ノリ...とかタメ気味とか、プレイヤーによるビミョ~なタイミングの取り方の差があって、これらが複合して「グルーヴ」を創り出している。

 

原則として単音であることや、小口径スピーカーなどではしっかりと再生できない=目立たないこともあって、一時期とくにアイドル系ポップスなどでは打ち込みベースが多くなっていたが、ファンキィな曲調やダンサブルな曲では、人によるプレイが望まれ、最近はベーシストによるプレイが復権してきている。

 

本作“GROOVY!”では、複数のボカロPが曲を提供するが、ベーシストがGYARIのバンドGYABANでも活動するやうりで共通となっている。一部ギタリストなど別プレイヤーを入れているが、各曲基本的には「コンポーザーたる各ボカロP+その曲で採用されたボーカロイド+やうりのベース」という構成。

 

様々な色を持つボカロPが提供した楽曲を、やうりはどう繋いだのだろう?

 

GYARIの曲、「Red Masquerade」はラテンジャズ!本家?ではあまりない曲調・ジャンルだけれど、この曲は人によるベースプレイが合ってる。本場ではスルドとシンクロしてくるであろうバックビートの伸ばし目の深い音と、クイッと引っかけて入る表拍の前進力の落差でグルーヴ感を出している。GYARIも、松岡直也ばりの?ラテンピアノで盛り上げる。あとこの曲ではソロが管楽器系の音色になっていて、ラテン色が強い。当然?ドラムソロのあとにはベースソロがあるのだが、ラテンだからと安易に?スラップに逃げずに、フレーズで勝負しているのが聴き所。

 

ぼくはロイド」は、GYABANのパンドメンバー(ギタリスト)なきゃむりゃの作だが、ドラムスもGYABANのデブマスクが叩いていて、「GYARI抜きのGYABAN」という様相。バンド感が強く、ドラムスも勝手知ったる?デブマスクなので、やうりの、フレーズ終わりにねじ込んでくる「遊び」も楽しい。こういうロック調楽曲にはGUMIのパワーある声が合うなー。

 

ミナミィの名曲

などで識られるメロディメーカー、カラスヤサボウの「理由もない僕ら」はミディアム+(プラス)程度のテンポのポップス曲なのだが、複数入れられたリズムギターと、オルガン音色のキーボードの対比がさすが。覚えやすいサビの割りには、シカケが多く、オルタナティヴなカラスヤサボウの曲にはベースフィーチャリングは違和感がない。ソロもベースソロになっているが、収まりが良い。

 

他にも、フォーキィな「ハートフル・ブレイク」での伸びやかな分散コードや、ロック!!な「アクアティンバー」での疾走感ある8ビートなど様々な曲調で攻める。

 

一方、これだけ方向性も、曲調も、曲におけるベースの使われ方も様々な楽曲を盛り込んでいながら、あまりとっちらかった感じがしないのは、やうりのプレイそのものと、曲を貫くスタンスに一貫性があるからか。

 

企画コンピアルバムというと、一般的にはわかりやすい「作曲テーマ」やソロ楽器にフォーカスが当てられて作られることが多いけれど、本作は曲の「基礎」たるベースフォーカス。すごく目立つわけではないけれど、ポップス系の音楽では間違いなく「芯」を形成している...そんなことを再認識した作品でした。

CDが留められているトレイにはベース音域を表すヘ音記号が...
CDが留められているトレイにはベース音域を表すヘ音記号が...

 

【収録曲】

1. 知らぬがホトケ(TOKOTOKO(西沢さんP) feat. GUMI)
2. Red Masquerade(GYARI(ココアシガレットP) feat. 初音ミク)

3. ハートフル・ブレイク(フェイP feat. GUMI)
4. バッドバッドデイアンドナイト(かずくんP feat. 初音ミク)
5. アクアティンバー(ら・ディッツさん(らでぃ) feat. 初音ミク)
6. ぼくはロイド(なきゃむりゃ feat. GUMI)
7. Spectre(sho_soar(クラムチャウダーP))
8. 理由もない僕ら(カラスヤサボウ)
9. 雨のち曇りのち星(どん feat. 初音ミク)
10. ひらひら(electripper(くらげP) feat. 初音ミク)

「【ボーマス32】GROOVY!【低音好きのためのクロスフェード】」

更新: 2021/08/09
必聴度

低音好きでなくても楽しめる

ベース=低音ではあるが、ノリの部分へのフォーカスの方が強い。

  • 購入金額

    1,500円

  • 購入日

    2018年頃

  • 購入場所

    駿河屋

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