所持する音楽データに対する私利私欲...イヤ私情私見あふれるコメント、音楽の杜。こういった分野のものは「好み」ですし、優劣を付けるのもそぐわない気がしますので、満足度の☆はあくまで私的な思い入れです。例外もありますが、多くのミュージャンにとっての活動は、他者の作品のカバーから始まります。とくに他者に向けて自分の表現/解釈を問う動画投稿サイトや、即売会など同人活動からスタートした人は、まず「聴いてもらう」ために、有名曲を取り上げることが多いわけです。まずは「聴いてもらえる」ことが第一歩なので、すでに識られている曲に自分のセンスを付け足し、オッと思わせる。ある程度自分を支持してくれる人たちが増えたら、より自分を表現できるオリジナルに遷移していくものです。今では確たる「世界」を持っているボカロPが、オリジナルの世界に足を踏み出した記念すべき作品をご紹介します。
GYARI(ココアシガレットP)。現在は、ジャズテイストが感じられるボカロ曲で、確固たるカラーを持っているPだが、その起点となったのがこの作品だった。
それまで、エロゲーム「AIR」の音楽や、同人発ながら社会現象にもなったサウンドノベルのテーマ曲のカバーを手がけていた
GYARIだが、この作品でついにオリジナルへと完全に舵を切る(厳密にはこの前に「evening glow」というオリジナル曲があるが、GYARIのこの時代の曲としては唯一殿堂入り(10万再生)しておらず、注目度は低い作品だった)。
世界観的には、いつものトリオ、ヴォーカル兼ピアノ弾きの鏡音リン、怪力ベーシストの初音ミク、便座カバードラマーのKAITOのジャズトリオのお話。
リンが前作の「ボーカロイドたちがCLANNADライブをはじめたようです」
の動画のラストで、泣いているシーンがあるが、何故泣いてしまったのか、それに関係するのが、「月光ステージ」。
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「月光ステージ」とは、「その場所で、心のこもった音楽を奏でる」と「電子世界で、どんな願いでもひとつだけ叶う」という場所らしい...
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「OPENING」は「月光ステージ」のテーマをコンパクトにまとめ、崩したピアノ独奏で導入への露払い。
その場所での演奏「月光ステージ」。♪誰かがそのうちに/照らしてくれるかも/そう思い込んでた/努力もなにもせず/ただ/太陽を/待つだけだった♪からの♪僕の夜は君が/照らし出してくれる/そう信じ込んでた/努力もなにもせず/ただ/太陽を/待つだけだった♪けれど、ついに♪僕は君から/なにを貰った?/ああ、そうだ/ようやく気付いた/もう大丈夫/僕は/もう/太陽(誰か)に頼らない♪、そして♪上弦の僕/下弦の君/月光照らす/幻想世界(ライブステージ)/欠けた月が/満ちていく/僕は初めて/僕になる♪ジャズテイストのPOPSで、キーボードソロの部分やランニングベース、Aメロ部分のボサ調のズムはかなりジャズっぽい。ただ後半盛り上がってくると、8ビートのノリの良い曲に。
「月光ステージ Piano Solo」は、元になった「月光ステージ」のピアノ独奏...という意味では「OPENING」に近いのだが、「OPENING」がリリカルにゆったりとしたペースで、若干クラシカルに奏でられたのに対して、こちらのヴァージョンは軽やかにハネるリズムで、よりジャジィな崩し方で奏でられる。4分音符でランニングする左手に、メロを粋に崩した右手が載る感じ。曲の長さは元曲の半分ほどしかないが、強い印象を残す曲。
この作品、音源としては表題曲とそのカラオケ、アレンジ違いと言うことで、もとを正せば「1曲」なのだが、この作品の価値はむしろ同梱頒布された52Pの本にある。
この本には、前作「ボーカロイドたちがCLANNADライブをはじめたようです」の動画で、リンがレンの面影を視て涙するシーンがあるが、それに関係する話が語られる。
☆☆☆
リンは電子世界に生きるボーカロイド。マスター(GYARI?)は購入後すぐ飽きて、起動もなかなかしてもらえない。そこで勝手に動き始めて、電子界で歌を披露したりもしたけど、サ行の発音が悪いなどと酷評されて落ち込む日々(←これ、ネタ。(とくに初代)鏡音リン・レンは、先行発売のミクに比べると「歌わせにくい」ボーカロイドだった)。そんなとき別の持ち主(マスター)のレンが現れ、リンの演奏や歌を「悪くない」と褒める。そのレンも、マスターには滑舌の悪さにあきれられ、放置されているらしい。
そのレンは、殿堂入り(10万再生)を目指しているらしい。ただ、マスターに放置され、曲を創ってもらえないので、月光ステージで「心のこもった」演奏をして、滑舌を直してもらいたいと願っている。
そんなレンに触発されて、リンも殿堂入りを目指して、腕を磨いていく。二人でステージ衣装を一緒に考えていたときには、ジャズには「なんかスーツ着てるイメージがある」「タバコくわえたりして」と言う話になって、リンは似合わないスーツを着てみるが、タバコは未成年...ということで「ココアシガレット」を咥えることに..w
そんなたわいもない日常が崩れる日がやってきた。レンのマスターのPCがウイルス感染したのだ。どうやらマスターはPCを初期化することでそれに対処するらしい。レンは「この電子世界から消える」ので「お別れを言いに来た」と。初期化後、再インストールされても今の記憶は引き継げないから...
それを聞いたリンは、今にも消えそうなレンに月光ステージの場所を問いただし、ある願いを込めた演奏をするが...
☆☆☆
というお話。このバックボーンを識りながら、「月光ステージ」を聴き、「ボーカロイドたちがCLANNADライブをはじめたようです」の動画を観返し、リンたちの演奏コスチュームを確認すると「世界観」ができあがる、という仕組み。
そういう意味では、GYARIボカロ(+ボイロ)ワールドの起点となった作品で、必聴度にもまして、必読度が高い作品です。
【収録曲】
<CD>
1. OPENING
2. 月光ステージ
3. 月光ステージ Piano Solo
4. 月光ステージ Instrumental
<BOOK>
A5 / 52P / モノクロ
「月光ステージ」
この「月光ステージ」は「必聴」より「必読」
ま、曲は実質1曲だしね。
GYARIワールドの根幹を理解するには必須
主人公?鏡音リンと、失われたレンの関係性を理解するには必ず読むべき。
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購入金額
1,280円
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購入日
2017年頃
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購入場所
駿河屋
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