レビューメディア「ジグソー」

正しく「サウンドリニューアル版パンフレット」であって、「4DX版パンフレット」では「ほぼ」ない

「機動警察パトレイバー」。

20世紀末、OVA(オリジナルビデオアニメ)という制作手法が多くとられた時代、一番その波に乗って「売れ」、社会現象にまでなったアニメ。

 

TVアニメが先にあり、そのあと後日譚や外伝がTV放送には乗らず、DVD(や、昔はビデオテープ)で展開される...というのはよくあることだが、本作は逆。

 

そもそも最初にOVAとして企画されたのが、1988年。

それまで1巻1万円以上の価格だったOVAのソフト(ビデオテープ)が、複数本一括作成やOVAとしては初のCM挿入などの手段によって、初めて5千円以下で販売されて、かなりの本数が出た。

そのセールスを見て劇場版が創られることになって(公開1989年)、それを受けて原案を持ち込んだ人物(ゆうきまさみ)がマンガ化を手がける(連載1988~1994年)。

 

劇場版の手応えから、それに平行して若干ストーリーを手直しして、TVアニメ化された(1989~1990年)。そのTV版を受けて、今度はその後日譚がOVAシリーズ化される(1990~1992年)。

 

その後完結編として1993年劇場版第2作が創られたあと、それが小節で補完され、さらに約10年後の2002年に同じ世界観を使った新作劇場版3作目が制作される。

 

その12年後、「THE NEXT GENERATION パトレイバー」として実写版プロジェクトが動き、さらにさらにその翌年、パトレイバーの世界観を用いた3DCGアニメが創られた。

 

...という、何度も不死鳥のようによみがえっては展開された長寿アニメ。それは、「パトレイバー」の設定そのものは、1980年代の原案を核にしているのだが、とても緻密に構築された「未来(1999年)の」設定が、その年を大きく通り越した現時点から見ても「ありえたかもしれない世界線」と感じられるくらいリアリティがあったから。

 

その「パトレイバー」の「新作」が、「初公開」アニメとして、2020年7月より全国公開しているので、鑑賞してきた。

 

ただ、完全新作ではない。

元となっているのは、1989年の劇場版第1作。

 

しかし、「初公開」。....どゆこと?

 

実は今回劇場版第1作に、4DXの効果をつけたヴァージョンが公開されたのだ。

 

4DXとは、映画館のシートや映写設備にシカケを組み込んだもの。シートは、画像と合わせて「振動し」「傾斜し」「前後左右に動く」ので、臨場感が高い。さらに「風が吹きつけ」「煙が立ちこめ」「水滴がかかり」「フラッシュが明滅し」「香りが立ちこめる」というような効果がつく。

 

いわばディズニーランドやUSJのようなテーマパークにある、体験型スクリーンの劇場版。

 

当然、淡々と教室内で進む恋愛映画や、アクションのない人情系映画では効果が少ないが、カーチェイスがあるようなアクション映画や、戦闘シーンがある軍隊もの、宇宙船やモービルによる移動があるSFなどには相性が良い。

 

今回、日本SFアニメで根強い人気のある「機動警察パトレイバー」の映画化第1作、「機動警察パトレイバー the Movie」が4DX化され、30年の時を超えて劇場公開されたのだ。

 

...厳密には、ベースとなったのは1989年公開の初代の「機動警察パトレイバー the Movie」ではなく、ビデオテープ⇒DVDへとコンシューマー向け映像媒体が変化したことに合わせて、5.1ch化する時に、音声と音楽を中心にオリジナルキャストで録り直した「機動警察パトレイバー the Movie サウンドリニューアル版」。この1998年のリニューアル版に4DX効果をつけたのが、「機動警察パトレイバー the Movie 4DX」。当初2020年4月公開予定だったが、新型コロナウイルス蔓延によって公開延期されていた。それが7月17日に公開されたので、直後に鑑賞してきたワケ。

 

お話としては、もはや古典としてアニメファンには必修科目となっている?作品でもあり、詳説しないが、概略はこんなお話。

 


 

工事用機械や産業用機械と同じく、ヒト型作業機械が一般的に使われている1999年の日本。しかし、そのヒト型作業機械=レイバーを使った事件や犯罪、テロも発生しており、それらを取り締まるため、警視庁は専門部署としてレイバーを用いて取り締まりや犯罪摘発を行う「特科車両二課中隊」、通称「特車二課」を設けた。そこで使われているのは、篠原重工製警察用レイバーAV-98。

 

レイバーは日進月歩であり、AV-98も少々旧式化してきていた。上層部は篠原重工の子会社が開発した性能向上が得られるレイバー用の画期的な新OS=HOSにアップデートして延命しようとしていたが、HOSを前提に設計された「零式」ことAV-X0には基本性能で及ばず、また、人がオペレーションしなければならない部分も多く、前世代機となってきていた。

 

そんなある日、レイバーの暴走事故が起きた。今までも、レイバーが操作ミスで暴走したりテロなどで破壊活動を行ったりしたことはあったが、操縦者の意志に反して制御不能状態で暴走したレイバーを不審に思う特車二課のメンバー。特に、篠原重工の御曹司でありながら、父親に反発して特車二課に籍を置く、篠原遊馬は篠原重工の新OSに問題があるのではと考える。

 

篠原重工の子会社が開発したその画期的OS=HOSは、開発者がナゾの自殺を遂げている。その開発者、帆場暎一は取り壊し間近の廃屋のような住居を転々としながら、多くの鳥を飼っていたような異常性のある男。

 

そんな帆場が設計したHOSには、遺された人間をあざ笑うように、実は重篤なコンピューターウイルスが仕掛けられていた。各地でHOS登載レイバーの暴走が起き始める。その暴走の引き金は、強風によって建物などから発せられる低周波音。

 

特車二課第1小隊や自衛隊のレイバーがHOSで汚染されて使い物にならない中、整備班主任のシバシゲオの野生のカン?で上層部の指示を無視して、OS書き換え作業を行わなかった特車二課第2小隊のAV-98のみがこれに立ち向かうことが出来る。

 

台風が迫る中、その強風の共鳴で、関東全域のHOS登載レイバーを暴走させる低周波を発しうる構造物が特定される。それは帆場が投身自殺した、「方舟」と呼ばれる東京湾に浮かぶ建造物。

 

風速40mに達すると、「方舟」が共振し、レイバーの大規模な暴走が始まる。接近する台風による暴風雨という悪環境の中、遊馬はペアを組むAV-98の1号機フォワード(パイロット)の泉野明と「方舟」に向かい、モジュール構造の「方舟」を各モジュールごとに切り離し、崩壊させてレイバー暴走を防ごうとする。

 

台風が刻々迫り、風速が危険域に近づいていく中、死した天才科学者が仕掛けた罠を、野明や遊馬ら、特車二課のメンバーは防ぐことは出来るのか...?

 


 

という感じ。

 

レイバーが動くときの振動、壊れた時の異臭(ものが焼けたような匂い)、序盤の川での捕り物での水しぶきなど、いろいろな効果を仕込むことができるため、4DXにぴったりな作品。特にラストの、台風の中「方舟」の内外でバトルするAV-98のシーンでは、振動・強風・水しぶき・フラッシュ・スモークと4DXの機能最大活用で、楽しかった。一方、中盤の捜査シーンなど静かなシーンでは動き・効果は全くなくて、「ある機能(効果)だから必然性ないけれど使ってしまえ」というような安易演出ではなく、メリハリついていてそこも感心。これは(4DX装備の)映画館ならではの鑑賞体験で、公開されている間に是非劇場で鑑賞してもらいたい←濡れてもよい格好で行って、必ず水滴・霧効果はオンで(あと風がビュービュー吹くため、肌寒いかもしれないのでご用心)。なお、どちらかと言えば、中段中央の画面の隅々まで見渡せる普通の意味での「ベストポジション」ではなく、前方から噴き出すスモークなどが近く、画面全体は見切れるほどの前寄り座席推奨。

 

そこで購入したパンフレットが登録品。

1989年の初版?公開時には、表紙は同じ構図で、ゆうきまさみが描いた
1989年の初版?公開時には、表紙は同じ構図で、ゆうきまさみが描いた

 

...なのだが。

 

このパンフレット、中身的にはほぼ1998年の「機動警察パトレイバー the Movie サウンドリニューアル版」制作時の逸話を集めたもの。パンフは2020年の5月29日発行だが、1998年の時のインタビューがほぼ8割を占め、「これ、1998年のパンフぢゃね?」という感じ(実際には1998年は2ch⇒5.1ch化のための再制作で、劇場公開はほとんどされていないらしいが⇒おそらくそのときパンフは作成されていない)。2020年らしいのは、オリジナルパンフではマンガ作者のゆうきまさみの絵であった表紙の野明の立ち絵が、2019年にアニメキャラクターデザインの高田明美が描いた同構図の絵に差し替え、表紙裏にある1998年のゆうきまさみのヘルメット抱える野明の絵が、ほぼ同じ構図で裏表紙裏にやはり2019年に高田明美が書いたものも掲載されていることくらい。あとは、パンフレット冒頭のアニメライターの中島伸介が書いた3ページの文章の中で、2020年に4DXでの公開があるというのを紹介しているというだけ。

1989年のゆうきまさみの描く
1989年のゆうきまさみの描く野明

 

こちらは2019年に描かれた高田の野明
こちらは2019年に描かれた高田明美の野明

 

ただ中島氏の記事は4DXの公開の告知だけで、その中身には触れておらず、完全に消化不良。今回の4DXがどうすごいのか、どういう苦労があったのか、映像との対比解説や使った効果の紹介、4DX化プロジェクトの裏話などがあれば、自分たちが直前に鑑賞した作品に対する理解が深まるのだが、それは全くないので、全体としては20世紀末に制作された「サウンドリニューアル版」の、「20年遅れてきたパンフレット」と言われても仕方がない出来。

監督のインタビューも...
監督のインタビューも...

 

主演二人の対談も...
主演二人の対談も...

 

他のキャストのコメントも、全て「サウンドリニューアル版」公開時のもの
他のキャストのコメントも、全て「サウンドリニューアル版制作時のもの

 

映画公開時の紹介動画によると、「1998年のサウンドリニューアル版製作時の記事を網羅的に集めた資料はない」らしいので、そういう意味では資料的価値は高そうなんだけれど、それは「4DX版を観終わった後、映画館で買いたいパンフ」ではないンだよなー...

 

そういうわけで、★2つ。

 

【仕様】

オールカラー36ページ

 

4DX版公開時宣伝番組(11分過ぎから本パンフレットの詳細説明あり)

 

「機動警察パトレイバー the Movie」予告編(これは「サウンドリニューアル版」ではない)

更新: 2020/08/11
満足度

今回の4DX化にあたっての解説・情報が、ほとんどない。

1998年の「サウンドリニューアル版」を創ったときの情報がほとんど。

とくに4DX版の「解説」はまったくない。

  • 購入金額

    1,320円

  • 購入日

    2020年07月25日

  • 購入場所

    ユナイテッド・シネマ

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