レビューメディア「ジグソー」

あまりに聴き心地が良くて、「残らない」のが悩み?

所持する音楽データに対する私利私欲...イヤ私情私見あふれるコメント、音楽の杜。こういった分野のものは「好み」ですし、優劣を付けるのもそぐわない気がしますので、満足度の☆はあくまで私的な思い入れです。いわゆる大衆音楽というジャンルを演っている人には、我流でそこにたどり着いた人と、理論や古典をきちんと学んであえて大衆音楽のフィールドにいる人がいます。音楽は最終的には聴き手の心を打つか否かですので、どちらのルートでもかまわないことにはなりますが、後者の方が様々な知識があるため、有利な面もあります。バークリー音楽院を首席卒業した日本人サキソフォニンストのジャズのわかりやすい解釈の作品をご紹介します。

 

MALTAこと丸田良昭。今なお現役のサキソフォニスト。東京藝術大学からバークリー音楽学院に進み、その後ヴィブラフォンの名手Lionel Hamptonのバンド(ライオネル・ハンプトン楽団)に迎えられ、最終的にコンサートマスターを務める。

 

いわゆるジャズ本流にいた人物だが、ガッチガッチのジャズ本流以外排他の人...ではなく、むしろ商業音楽としてのジャズに理解があり、高いテクニックでジャズをわかりやすく布教することに熱心だった。1990年代前半頃は、ドラマ、CM、天気予報やTVレポートのBGMなどで彼の曲を聴かない日はなかったかもしれない。近年はジャズスタンダード集を出したり、ショパンなどのクラシックを取り上げたり、ビッグバンド形態で活動したりと、当初ほどのフュージョン色はないが、デビュー当初は非常に親しみやすいメロディと聴きやすい音造りで、一時代を築いた。

 

“Sweet Magic”はそんな彼のセカンドアルバム。全体としてはフュージョン系の音造りながら、ジャズスタンダードにも造詣が深い彼らしい、エレクトリックポップスからメロウなバラードまであって、とても耳馴染みが良い。

 

表題曲の「Sweet Magic」は、TOMMY前田こと前田富博のゲートで切った軽やかな音色のドラムスと、イントロでえげつないベンドを披露する欠田芳憲のシンセの対比が面白い、軽やかでキャッチーな曲。新田一郎率いるホーン・スペクトラムをバックに、流れるようにアルトを操るのが、さすがのメロディメーカー、MALTA。コード弾きを多用した小粋なギターソロは天野清継。

Because Of Love」は、mimiこと宮本典子とミネハハこと松木美音の女声コーラスが軽やかなライトフュージョン。リズム隊は岡沢章+渡嘉敷祐一の躍動感があるコンビに変わり、MALTAのサックスも軽やかに駆け抜ける。渡嘉敷のロールを組み入れたフィルインが地味派手でセンスが良い。ソロと言うほど長くなくて「ブリッジ」というくらいのフレーズなのだが、MALTAのサックスソロの前に挟まれる故松木恒秀のギタープレイが光る。

 

ラストの「Stardust」は、師匠筋?のLionel Hamptonの大ヒット曲(オリジナルはHoagy Carmichael)。出だしとラストはLionelのヴィヴラフォンを模したような佐藤允彦のローズと生ストリングスが中心となるので、ジャズ臭が強いが、中間部のリズムインしているところは音造りがゲートリヴァーブが掛かっていて現代的になる。ちなみにリズム担当はこのアルバム3組目となるリズム隊で、Gregg Lee+村上PONTA秀一の盤石コンビ。

 

キャッチーでノリのよいものから、メロウなバラード、ジャズスタンダードまで網羅していて隙がない。彼の吹き方はとても音が綺麗で、ストレスがなく、スッと耳に入っていくる。そして当時流行の音造りも入れていて、ジャズ古典へのアプローチの敷居を下げている。

 

この頃の彼のマイナスポイントと言えば、音色も旋律もあまりに心地良すぎて、耳障りが「良すぎて」、若干心に「引っかかりづらい」こと。

 

当時はあまり感じなかったが、今回聴き返してみて、結構曲を忘れていた。古典をわかりやすく解釈して、あまりジャズを聴かない層までアピールしたのは、彼の功績だけれど、あまりにスッと入りすぎても、心に残る衝撃がない....そんなことも感じた作品でした。

取り上げる楽曲は伝統的なものでも、音造りは最新だった
取り上げる楽曲は伝統的なものでも、音造りは最新だった

 

【収録曲】

1. Sweet Magic
2. Walking In The Sky
3. Always You
4. XYZ
5. Autumn Place
6. Because Of Love
7. Sunset In My Heart
8. Manhattan In Blue
9. Midnight Train
10. Stardust

 

「Sweet Magic」

更新: 2020/07/27
必聴度

ジャズのわかりやすい伝導

ただ、時が経ってみると、少し「引っかかり」がある方が心に刻まれるのだな、と。

  • 購入金額

    3,200円

  • 購入日

    1987年頃

  • 購入場所

13人がこのレビューをCOOLしました!

コメント (6)

  • supatinさん

    2020/07/27

    cybercatさん、こんにちは
    (*・ω・)*_ _)ペコリ

    「MALTA」の曲を初めてCDで聴いたのは私が中学生の頃で
    すごく懐かしい記憶がフラッシュバックしました
    すごく「夏っぽい」アルバムジャケットと爽やかな曲が印象に残っています。
  • cybercatさん

    2020/07/27

    >すごく「夏っぽい」アルバムジャケット

    これかな?
    一時期どこでもかかっていましたよね~
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