レビューメディア「ジグソー」

ライトフュージョン王道+変化球

所持する音楽データに対する私利私欲...イヤ私情私見あふれるコメント、音楽の杜。 こういった分野のものは「好み」ですし、優劣を付けるのもそぐわない気がしますので、満足度の☆はあくまで私的な思い入れです。最近は単曲売りのダウンロード...という販売形式も多くなってきた音楽ですが、創る方にすれば、アルバムには単にある期間に制作した作品の寄せ集めではない「なにか」を込める場合が少なくありません。初めて自らプロデュースを行い、いろいろと「詰め込んだ」作品をご紹介します。

 

女性サキソフォニスト小林香織。毎年アルバムリリースという当初ほどの活動量ではないが、2020年現在も隔年ではアルバムリリースしている現役プレイヤー。初期

から他者の名曲をカバーしたりして、わかりやすいポップな演奏が中心。彼女の属するフュージョン畑、実はかなり幅広く、「曲構成がわかりやすいジャズ」という感じのものから、メロディが明確でほぼインストポップスというあたりのものまである。見せ方も「テクニック丸出しで、楽器バトルの様相」というアツめのものから、イージーリスニング調の落ち着いたものまで。そんな中で彼女はかなりポップで、爪(テクニック)を隠した系。ライトフュージョンという小粋な感じの曲調が多い。

 

初のセルフプロデュース作品である本作“SEVENth”は、とくにその傾向が強い。ちなみに題名の“SEVENth”は彼女の7枚目のオリジナルアルバムだからで、コード(和音)の7th(七の和音)を指すものではない(曲調的に7thコードがスパイスになっている曲も多いが)。

 

まず出だしの「England Funk」。シャカポーンというコンプが効いたギターのカッティングがカッコよいノリの良い曲。ギタリストのマサ小浜はアメリカでの活動歴が長いので、かなりプルージィでいい感じのクロさ。ベース河野みつおとドラムス中沢剛の組み合わせがキメのキレと他の部分の粘りを両立してていい感じ。このリズムの上で香織のサックスが心地よく歌う。サビ前の転調が印象的。NOBU-Kのピアノとオルガンを中心としたキーボードもシンプルでよい。わかりやすいテーマとは一転、ソロでは結構吹きまくっていて、「物足りなさ」はない。

 

Driver's Meeting featuring Asano Sho」は、題名通り津軽三味線の浅野祥との共演だが、イロモノでなく、ホントいい。バックはNOBU-Kと河野、中沢という顔ぶれだが、COOLにオルガンを中心に抑えたバッキングなのに、ところどころにグワッッとグリスを挟んで曲に緩急をつけるNOBU-K、スタッカートと長音のコンビネーションと細かい装飾フレーズで曲をグイグイ前に進める河野、切れ味抜群のバスドラで心地よく空間を切り取りリズムを形作る中沢という盤石のバックの上で、浅野と香織がバトル。浅野のプレイは津軽三味線ならではのフレーズ、奏法を基本にしながら、フレージングなどには、ギターにインスパイアされた感じのものもあって、チョーゼツカッコよい。さすが新世代津軽三味線の第一人者。

 

後半はガールズバンドという趣向でバンドメンバーが女性という曲が数曲続くが、有名なCarlos Santanaの「Europe」や萬芳の「新不了情(つきせぬ想い)」などの曲より、ガールズバンドらしさが出ていて好印象なのが「ONE!」。プリプリやGO-BANG'S、チャットモンチー、ジュディマリといったガールズバンド(もしくは女性中心バンド)のイメージがある、わかりやすいロック調の8ビートの楽曲で、メンツの良さが出ていたかも(曲は香織のオリジナル)。メンツは西野カナに楽曲提供もしているキーボーディスト大迫杏子、ガールズバンドの中ノ森BANDやいきものがかりのサポートを務めるギタリスト菅原潤子、元NORMA JEANのベーシスト山田直子、矢井田瞳や財津和夫、絢香やSoweluといったあたりのライヴやレコーディングに参加した臼井かつみと実力派揃い。わかりやすいメロディと強い前進力で曲がスッと入ってくる。

 

初のセルフプロデュース作ということで、やりたいことすべてやった感じ。ケチをつけるなら、王道フュージョンに加えて、クラシック(Chopinの「Nocturne」)やラテンロックの「Europe」、香港ポップスの「新不了情(つきせぬ想い)」まで手を広げた多分野にわたるカバーがあって、さらに前半(とラスト)のNOBU-Kを中心とするユニットと後半の「ガールズバンド」との2系統のバックの音色が明確に違うので、ややとっちらかった感があることか。ただ、彼女の作風は眉間にしわ寄せて「曲と対峙する」というタイプではなく、耳にスッと入ってくる曲がほとんどのため、そういう意味では過剰には気にならない。

 

王道フュージョン路線に、ピリリとスパイスを効かせた....もしくは直球勝負と見せかけて、ところどころに変化球を混ぜ込んだ感じの作品。流して聴いてもどこか心に引っかかる作品です。

販売店特典のポストカード付
販売店特典のポストカード付

 

【収録曲】

1. England Funk
2. October 20th
3. 個性派モチーフ
4. Nocturne
5. Bar Wave
6. The Awakening of Love
7. Driver's Meeting featuring Asano Sho
8. ONE!
9. Europe
10. LAST GAME
11. 新不了情(つきせぬ想い)
12. It's the Star Connection

 

「England Funk(SPOT)」

 

「Driver's Meeting featuring Asano Sho」(7:22まで)

更新: 2020/06/14
必聴度

イロイロ楽しめてオトク

若干「絞れていない」感じは受けるが。

  • 購入金額

    3,150円

  • 購入日

    2012年05月04日

  • 購入場所

    hmv

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