元々3万円クラスで売られていた製品ですが、最近一部販売店で大幅に価格が下がってきたことから興味が出てきて、取り敢えず買ってみることにしました。
Fenderブランドのイヤフォンは、元々Aurisonicsというイヤフォンメーカーを買収したことからスタートしています。特に初期のFXシリーズの製品は、Aurisonics時代のFORTEシリーズのマイナーチェンジモデルというべきものでした。
Aurisonics時代のFORTE RED(Fender FXA6の前身)はしばらく使ってみましたが、ダイナミック+BA各1基のハイブリッドモデルながら、ダイナミック側が圧倒的に主張してきて、BAらしい高域など全く出ない製品でした。しかもそのダイナミックドライバーもお世辞にも出来の良いものでは無く、比較的安いオーディオにありがちなローブーストモデルというべきものでした。Fenderブランドに移行した後のFXA9なども試聴は一通りしていますが、本質的に音作りは変わっていませんでした。
その後Fender Pro IEMシリーズと銘打ってラインナップが刷新され、イヤフォンの製品名もダイナミックドライバーの口径の英語表記+BAドライバーの搭載基数(数字)の組み合わせへと変更されたのが、現在まで続く製品群となっています。例えば今回取り上げるNINE 2は、9.25mmダイナミックドライバー+BA2基を意味する製品名です。TEN 3であれば10mmダイナミックドライバー+BA3基、THIRTEEN 6であれば13.6mmダイナミックドライバー+BA6基ということになります。
このシリーズについては、発表当初に聴いたTHIRTEEN 6やNINE 1はあまり良い印象が無かったものの、比較的最近聴いたTEN 3は方向性がこれまでとは変わった印象を受けました。これまでのFender/Aurisonicsは例外なく無駄に低音が膨らんで、バランスも何もあったものでは無いというほど悪印象しか無かったのですが、TEN 3はそれほど強調感が目立たず、かなり渇いた感じのロック向けというイメージでした。そうなると現行製品でも後発に当たるNINE 2やTEN 2はどうなのかと興味が出てきたところに、大幅な値下げが入ったため、1万円を割り込んだNINE 2を取り敢えず入手してみることにしたのです。
以前買った、旧シリーズのローエンドモデルであるCXA1も同様でしたが、茶箱の中にリテールパッケージが収められる形となります。そういえば、CXA1はがっかりしすぎてレビューを書き忘れていました…。
AurisonicsからFenderブランドになってから格段に進歩したのは、パッケージや付属品の演出です。パッケージなど見た目の印象は随分良くなっています。
オレンジという外装色はどうかと思ったのですが、実物はそこそこ格好が付きます。
イヤフォンながら6.3mm - 3.5mmの変換プラグが付いてきます。イヤーピースは、Aurisonics時代から引き続き採用されるTPEイヤーチップおよび、フォームイヤーチップが用意されています。
Pro IEMシリーズになってからの変更点として、逆挿しが不可能なタイプのCIEM 2Pin互換端子が採用されたことが挙げられます。CIEM 2Pinは慣れていないと極性が判りにくいという弱点があるのですが、溝を配置することで極性が合っていなければ差し込み自体が出来ないようにしてあり、これはなかなか良いアイディアだと思いました。
バランスは随分良くなったが、相変わらずの部分も
それでは実際に試聴してみましょう。また使い始めから10時間程度ですから、まだまだ音が変わる可能性はありますが、ある程度の素性はつかめてきましたので。
試聴用DAPは、私がメイン級で使う2台である、Astell&Kern KANNとAcoustic Research AR-M2を組み合わせます。イヤーピースについては他社製も含めて何種類か試しましたが、結果が最も良かった標準添付のTPEイヤーチップに固定しました。
まず最も大きな驚きだったのは、KANNとAR-M2の音質の差があまり表現されないということです。普通のイヤフォンであれば、持ち味に関係なくこの2機種の間に大きな音質差があることは表現されるのですが、NINE 2ではどちらで聴いても大差ないのです。
傾向としては、どうしてもAurisonicsの伝統が受け継がれているというべきか、やや高めの低域が持ち上がったローブーストです。沈み込みのような部分は深くありませんが、ベース帯域の上の方が持ち上がり、やや籠もりを感じるものです。とはいえ、以前聴いたFORTE REDよりは随分普通のバランスに近づいたと思いますが。
高域にBAドライバーを2基搭載している割に、高域方向はさほど強さはありません。わずかに持ち上がっているかな、と感じる程度でしょう。むしろ、ダイナミックドライバーとBAドライバーの間に部分がやや不足している印象の方が強く感じられます。
そして中域が不足していることによる弊害なのだと思いますが、BAドライバーを使っているにもかかわらず、音場が全く広がりません。両耳の位置でそれぞれ左右の音が感じられ、一応中央に中心となる音は定位するのですが、それぞれの間を満たすような空気感が全く感じられないのです。わかりやすい二次元的サウンドです。
この空間が広がらない音にもメリットはあり、ナローレンジなロック系の曲を鳴らすと、力強く豪快な印象が出てくるのです。何曲も続けてランダム再生していると、たまに妙にしっくりとくる楽曲があるのです。そのような曲を多く聴くような方であれば高評価もあるのではないでしょうか。
なお、リケーブルによる変化と、イヤフォン本来の性格を見るためにBriseAudio SHP-001を組み合わせてみましたが、解像度が上がることでむしろ高域方向の質に限界が感じられてしまい、あまり快適な組み合わせとはいえませんでした。添付ケーブルが特別に良いものだとは思いませんが、イヤフォンとの相性という意味では優秀といえるでしょう。
ここまであまり肯定的な評価は書いていないわけですが、その割に評価が3.0となっているのは、1万円クラスとしてみればこの程度で普通かな、と思える程度の水準には達していると判断したためです。私が新品価格で1万円前後という製品に高評価を与えたのは、おそらくAcoustic Research AR-E100程度ではないかと思いますので。
ただ、今ならAstell&Kern×JH Audio Billie Jeanが新品約1.5万円で買えますので、約5千円差であればそちらがオススメです。
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購入金額
9,980円
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購入日
2020年06月03日
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購入場所
NTT-Xストア
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