レビューメディア「ジグソー」

前作の延長を期待するとスカされる。ただKirkとしては前作の方が異端?

所持する音楽データに対する私利私欲...イヤ私情私見あふれるコメント、音楽の杜。こういった分野のものは「好み」ですし、優劣を付けるのもそぐわない気がしますので、満足度の☆はあくまで私的な思い入れです。アーティストに対する印象というものは、最初に聴いた作品で印象づけられます。多くの場合、そうなるのはそのアーティストが「売れたとき」になりますが、外国のアーティスト、しかも今のようにネットなどで国外の情報がリアルタイムで取れるような環境がない時代では、「最初に出会った作品」というのが運に大きく左右されます。最初に出会った作品が、後から調べるとかなり「異端の」作風だったため、次の作品で面食らったアーティストの作品をご紹介します。

 

Kirk Whalum。現在ではSmooth jazzの大御所、正統JAZZ分野でも存在感を示すサキソフォニスト。メインとしてはテナーを操る。

 

ちょうど彼が出てきた頃はフュージョンブームの頂点あたりで、Larry CarltonやQuincy Jones、The Rippingtonsなどフュージョンシーンにいた人物・グループとの共演が多かった。

 

cybercatが彼を識ったのは、その路線のピーク時期、彼の4作目の作品“Caché(邦題“フラジャイル”)”

で、かなり硬めのデジタルなバックのインストアルバムだった。

 

その2年後の作品なので、当然“Caché”路線を期待して聴いたワケが、見事にハズされた。1990年代中盤と言えば、Crossoverと呼ばれていたジャズと他の音楽を混ぜたようなジャンルが、Fusionと呼ばれるポップスやロックの比率を増やした明快な楽曲を経て、日本ではF1テーマ曲「TRUTH」のヒットもあって、さらにビートが効いてロック寄りで激しい独特な「ジャパニーズフュージョン」に変化する中、他国はよりメロウなSmooth jazzに脱皮していた時期。今から見ると、当然は当然。

 

Kirkもかなり「丸め」の路線で攻めてきた。

 

In This Life」。最初はメロウなKirkのサックスで始まるが、なんとヴォーカル曲。カントリー系男性ヴォーカリストMike Reidの深みのある声に、Kirkのテナーが絡む。ビート感はなく、ピアノと弦(セロ)のバッキング。「ど」ジャズではなく、カントリー/フォーク調のテイストを持つジャズ風ヴォーカル曲。一般のヴォーカリストの曲から考えるとサックスの比率が高いが、サキソフォニストのソロ作品とは思えないほどヴォーカルメイン。この曲は、CDラストにも「Reprise : Dan Cette Vie (In This Life)」として再録されるが、こちらは「Reprise」と言いながら中身は全く異なる。曲の長さは倍ほどに引き延ばされ、「長めのイントロ」といった風情だった導入部のKirkのサックスが、1コーラスフルに入って、前半はインスト曲の風情。ヴォーカルが入ると、男性ヴォーカルでカントリー調の元曲に対して、女声(Vaneese Thomas)のフランス語詞で柔らかい印象。ラストは静か

プレイ内容ながら、ドラムスやベースなどリズム楽器も入ってきて、ずいぶん風情が異なる。

 

ミュートシンバルの連打から始まる「Drowning In The Sea Of Love」。ドラムスのOwen Haleの硬い音色とタテノリのリズムで、一瞬「お?“Caché”路線か?」と思わせるが、そのあとはブルース+ブルーアイド・ソウル系のTeresa Jamesの粘るヴォーカルがフィーチャリングされており、Kirkのプレイは歌伴+α程度に収まっている。それでも後半のTeresaとの掛け合いはかなりソウルフル。ヴォーカリストでなく、サキソフォニストの作品だなと思えるのは、上記の掛け合いが一度終わったあと、パーカッションとオルガン、コーラスだけのバッキングに乗せて、Kirkの静かなアウトロソロが1分あまりも続くことかな。

 

歌うテナーサックスの響きが美しい「Peaceful Hideaway」。センス良いギターのオブリを聴かせるのは旧友Larry Carlton。ドラムスも名手故Ricky Lawsonなのだが、LarryもRickyも抑えたプレイで、Kirkの奏でる美しくも切ないラインを盛り上げる。本来テクニック的にはもっと高度なことが出来るメンツが、あえて抑えてプレイする、というのが味。

 

基本的に、前作の“Caché”のデジタルでCOOLでビート強め...という路線とは完全に決別している。このあとKirkはSmooth jazzの中心人物となっていくので、全体のキャリアからすれば、前作“Caché”の方が異端。

 

ただ、自分としてはKirkに注目したのが“Caché”の時代だったので、あまりの激変ぶりに唖然としたのは事実。今のようにネットでの試聴環境などなかった時代、入手してみて「期待したもの」とあまりに違って、一時期全く聴かなかった時期もある作品。ただ最近、Kirkへの“Caché”路線の思い入れが薄れ、改めて聴いてみると、良い曲が多いなと。

 

時を経て、Smooth jazzブームも一段落した現在から振り返って初めて、良さが解った作品です。

セピア調の古い感じの写真がちりばめられている装丁
セピア調の古い感じの写真がちりばめられている装丁

 

【収録曲】

1. In This Life
2. 'Til I Get It Right
3. Drowning In The Sea Of Love
4. Peaceful Hideaway
5. I Wouldn't Be A Man
6. Living For The City
7. My Father's Hope
8. When The Night Rolls In
9. I Turn To You
10. Reck'n So
11. The Way I Need You Now
12. Reprise : Dan Cette Vie (In This Life)

 

「Reprise : Dan Cette Vie (In This Life)」

更新: 2020/04/09
必聴度

自分的には。

決して悪くはないンだけれど、Kirkと言えば、“Caché”の印象が強いので。

  • 購入金額

    2,300円

  • 購入日

    1996年頃

  • 購入場所

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