所持する音楽データに対する私利私欲...イヤ私情私見あふれるコメント、音楽の杜。こういった分野のものは「好み」ですし、優劣を付けるのもそぐわない気がしますので、満足度の☆はあくまで私的な思い入れです。アーティストだってニンゲンです。好調の時、あまり創作意欲がわかないとき...そんな波があるのは当然ですが、複数のニンゲンが絡み合うグループでは、各メンツの好不調の波のアゲサゲと人間関係、時代の動き、事務所やレーベルの力などいろいろなことが重なり合って、あとから俯瞰するとそのグループの「黄金期」というものが見えることがあります。あるインストグループにおいて、そんな黄金期の最後を飾る作品をご紹介します。
CASIOPEA。ジャパニーズフュージョンの老舗グループ。2020年現在でも「CASIOPEA 3rd」として活動を続けるこのグループの「黄金期」は、今を3rdとするなら「1st」の時代。老舗ジャパニーズフュージョングループの1つ、NAMIWA EXPRESSほどメンバーチェンジが少ないわけではないが、CASIOPEAもメンバーチェンジが多くはないバンドで、1979年のデビュー時の野呂一生(ギター)、向谷実 (キーボード)、櫻井哲夫(ベース)、佐々木隆(ドラムス)というメンバーから、翌年ドラムスが神保彰に変わった後1989年までメンバー不動。ここまでがいわゆる「1st」。「2nd」はリズム隊とフロント隊が分裂し、リーダーの野呂がいたフロント隊がCASIOPEAの名を引き継ぎ、ベースはスラップ(当時はチョッパー)の達人鳴瀬喜博とジャズ系ドラマーの日山正明を加えて翌年から活動したのが「2nd」の始まり。この時期はドラム以外の3人は不動だったのだが、ドラマーは日山(1990~1992)⇒熊谷徳明(1992~1996)と安定せず、結局1997年から元メンバーの神保彰が「サポート」と言う形で出戻って支えた。この形は2006年まで約10年続いたが、ここで野呂の意向でいったん活動休止に入る。2012年の活動再開時にはデビュー以来のメンバーであった向谷がバンドを去り、初の女性メンバーとして大高清美を加え、野呂と鳴瀬、神保(サポート)とともに「3rd」として活動している。
このCASIOPEAの歴史の中では、世のフュージョンブームと、全てのメンバーのテクニックの高さ、若さ故の挑戦する気概、当時かなり力があった所属レーベルなどの内外の理由から、「1st」、それもドラマーが神保に変わったあとを一般的には、「CASIOPEA 黄金期」と呼ぶ。
しかし、もう少し詳しく見ると、世界的にフュージョンブームが最高潮に達していた1980年にリリースされた、神保加入後初のスタジオアルバム“MAKE UP CITY”
から、1984年リリースの9枚目のオリジナルアルバムである本作“DOWN UPBEAT”が、黄金期の中でも「濃いところ」と言えると思う。
この5年間にリリースされた7枚のスタジオアルバムと1枚のベスト、1枚のライヴ盤はいずれも、CASIOPEAらしさにあふれている。
フュージョン御三家とも言われた、CASIOPEAとTHE SQAURE(今のT-SQAURE)、NANIWA EXPRESSの中では、キャッチーでオシャレでポップなSQUARE、猥雑でエネルギーにあふれるNANIWAに対して、CASIOPEAは頭脳的でCOOL。NANIWAと並んでファンクの色が強かったがその「色」は異なり、NANIWAがアメリカ黒人的ファンクだったのに比べ、ヨーロッパ的ファンク。3グループの中では、最もインテリ度が高かった。
そんな彼らのCOOLさが最高潮に達したのが、本作。
ドCOOLな「Down Upbeat」。印象的なベースのスラップライン、キレよく入れられるハイハットオープン、クラビ風音色のキーボードバッキング、オクターブ奏法で奏でられるギターによるメロディ、いずれも超COOL。粘るキーボードソロに続く、和音で攻めるギターソロもコンパクトにまとまり、フュージョンの明快さも喪っておらず、ボコーダーやシンセドラムといった「時代の音」が入っているのにもかかわらず、全然「古く」ない。
ゾクゾクするテクニックで推してくるのが「The Continental Way」。キーボードによるゴージャスなテーマ、続く少しオリエンタルな響きがあるギターのテーマを裏裏のキメキメフレーズを多用するリズム隊が支える。ギターソロは速弾き、それに続いてギターとベースの16分音符でのフルユニゾン、最後はドラムスとベースのフィルイン掛け合いと魅せ場も多い。
向谷の高速曲「Road Rhythm」も魅せ場が多い。この曲、いわゆるバックビート(2拍目、4拍目)にスネアが入らず、サンバキックでのサンバ調のリズム。クッソ速いギターシンセのフレーズに続く、劣らず速めのオルガン音色のソロの応酬が若さとエネルギーを感じる。ラストのキメも裏裏のフレーズでキレの良い彼ららしい。
曲も演奏も完全に「ザ・カシオペア」、テクニックも見せ見せで衒いがなく、存分に彼らの音につかることが出来る。1アルバム10曲全て一発録りで、わずか10日間で製作が終わったという気力も充実していた時期。フュージョンブームの最後の残照もまだあり、アルバムセールスも悪くなかったし、素晴らしい作品になっている。
このころすでに海外でも名を識られていた彼らは、このあと、2度目の本格的なアメリカ進出を目指すが、そのために曲が「明るく」なってくる。それまでのアルバムにも明るい曲やかわいらしい曲が皆無ではなかったが、彼らの本筋は機械のように冷たく熱い演奏と、ヨーロッパ的昏さを持つ曲調・アレンジ。それがアメリカナイズされたことで、「彼ららしさ」を喪っていく。
結局このあと「1st」としては4枚のオリジナルを出すが、CASIOPEAのコアの色とは少し違う明るめの肌触りで、時代のフュージョン離れもあり、途中所属レーベルを移したりもしたが、スタジオ製作のピッチもめっきり落ちて、最終的に「1st」は分裂することになる。
そういう意味では年2枚ペースでオリジナルアルバムをリリースしていた彼らが、年1マイペースにダウンしたこの作品が、音楽的にも音楽界的にも黄金期の終わりと言えるかも知れない。
リアルタイムでこの時代を感じていた自分には、当時は見えない変化でしたが、あとから見ると「あ、ここだ」と気づかされる作品でした。
発売直後に購入したので「38XA-25」という品番が見える←当時CDはアナログより高かったのだ
【収録曲】
1. Zoom
2. Down Upbeat
3. The Continental Way
4. Road Rhythm
5. Froufrou
6. Home Stretch
7. Night Storm
8. Cookin'up
9. Twilight Solitude
10. Air Fantasy
「Down Upbeat」
気力・体力・テクニック・製作技術...高いところで混じり合っている
歳を経るごとに徐々に低下するもの、逆に経験の蓄積によって上昇していくもの、時代の波、機材の技術進歩、メンバー構成、レーベルの方針...全てが高いところにいた黄金期の輝き
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購入金額
3,800円
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購入日
1984年頃
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購入場所
北のラブリエさん
2020/03/09
これは妙に元気なトークがないやつ。
cybercatさん
2020/03/09
使用機材からはこのアルバムのチョイあとかな。
メンツ的にはまさに「黄金期メンバー」で、クボタもポップス王道時期でいいですね。
神保のリズムが機械よりもタイトw