レビューメディア「ジグソー」

国内における31年ぶりのダイレクトカッティングレコード

先日開催された、東京インターナショナルオーディオショウ(TIAS)2019のTechnicsブースにおいて、先行販売分のプレスを使った試聴・制作者トークイベントが開催された、国内31年ぶり、21世紀初となるダイレクトカッティングレコードです。

 

トークイベントは、演奏陣はサプライズ参加も含めれば井筒香奈江さんを含むほぼ全員、制作スタッフはサウンドプロデューサー・レコーディングエンジニアの高田氏、カッティングエンジニアの高橋氏、カッティングエンジニアの上田氏が参加して行われました。

 

その中で高田氏は「約40年ぶりのダイレクトカッティング」と仰っていましたが、実は20世紀最後の日本製ダイレクトカッティングレコードは1988年に第一家電のDAM会員向けにリリースされた「地球よ廻れ/西島三重子」であり、これは東芝EMIで制作されたものであるため、元々ビクター所属の高田氏はご存じなかったのかも知れません。

 

それはさておき、このトークイベントでは出来たての本作「Direct Cutting at King Sekiguchidai Studio」を各面半分程度試聴できる時間がありました。再生装置はTechnicsのイベントではお約束となっているTechnics SL-1000R+Phasemation PP-2000+Phasemation EA-1000と、Technics R1シリーズでしたが、さすがにダイレクトカッティングらしく音の鮮度が素晴らしいものでした。

 

私も欲しいとは思っていたのですが、予定外の出費が重なって財布の中身が乏しく、買うかどうか悩んでいる内にTIAS会場内の先行販売分が売り切れてしまったのです。

 

TIAS最終日のイベント後に、お馴染みTechnics上松氏と話をしていて、会場販売分が売り切れていたという話題を振ると、会場内に残られていた井筒さんご本人や上田さんにそれが伝わり、とても喜ばれていました。その際に井筒さんに「私は通常販売の方で買います」と宣言してしまいましたので、帰宅後に通販で注文を出しておいたところ、入荷が大幅に遅れ、ようやく先日届いたというわけです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ジャケット裏に記載されている通り、45rpmの180g重量盤となっていますので、LPサイズでありながら収録時間は片面10分少々となっています。

 

この作品の紹介映像はYouTubeにアップされていますので、そちらを紹介しておきましょう。

 

 

 

 

 

 

 

 

この映像の4:17以降に出来上がりの検盤を行っているシーンがあるのですが、そこで使われているターンテーブルはTechnics SL-1500Cのようです。試聴している中には見覚えのあるオーディオ評論家諸氏もいらっしゃいますので、業界内での注目度もかなり高いレコードだということでしょう。

 

 

 

 

 

 

収録曲はこちらに掲載されている計4曲で、無音部分を排除するため2曲ずつのメドレー形式で演奏されています。

更新: 2019/12/19
音質

MIXER'S LAB系の現代的Hi-Fiサウンド

このレコードは単なるダイレクトカッティング盤というだけではなく、以前紹介したMobile Fidelityの「Bridge Over Troubled Water / Simon & Garfunkel」と同様にダイレクトカットされたラッカー盤から直接マスタースタンパーを制作し、そのスタンパーでレコード盤をプレスするという、音質的に最良と考えられる制作手法が採られています。まあ、ラッカー盤を直接再生するとさらに凄い音らしいですが…。

 

 

 

 

 

 

 

今となっては、世界的に見てもダイレクトカッティングレコードを制作できるスタジオは英国アビーロード・スタジオか日本のキングレコード関口台スタジオだけということで、恐らく現時点で量産できるレコードとして最高水準の音質を持つということになるでしょう。

 

 

というわけで、早速音質を確認してみました。

 

 

 

 

 

 

再生環境はいつも通りのTechnics SL-1200G+audio-technica AT-OC9/III+Phasemation EA-200です。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まず、A面側はビブラフォンの音がフィーチャーされていて、その音がスタジオを満たしている様子が伝わってきます。

 

ヴォーカルの鮮度は特筆ものであり、オーディオ的な劣化は殆ど感じられないほどです。以前の西島三重子のダイレクトカッティング盤でも感じたのですが、鉄板リバーブの音がむしろ人工的でわざとらしいと感じるほど、声そのものの質感は見事です。

 

ピアノの音はタッチの明瞭さよりも響きを重視した収録のようで、一般的なピアノソロなどと比べると、やや不明瞭で遠目に感じられますが、その場で生音を聴いていればこれくらいのバランスで鳴っているのが正しいということでしょう。

 

一方、B面になるとベースが主張してきて、高域もかなり細かい音が明瞭に収録されているという、高田氏が手掛けるMIXER'S LABの高音質レコードに通じる音質傾向となります。とにかくベースのエネルギー感は圧倒的ですし、どちらかというとデジタルっぽさを感じるほどに高域を細かく描写しています。この辺りはSL-1200Gの音質との相乗効果という面もあるのかも知れませんが…。

 

 

同じダイレクトカッティング盤とはいえ、1980年代の録音である「地球よ廻れ/西島三重子」と比較しても、現代的な高音質が貫かれているという印象を受けます。レコードのカッティングそのものは昔の機械をそのまま使っていて特に進歩しているわけではないのですが、電源回りなど最近になってオーディオで重要視されるようになった要素をきちんと盛り込んで設計されている関口台スタジオの良さが出ているのか、音の密度や情報量といった要素は確実に進歩していることを実感できます。

 

所謂「古き良きアナログ」とは無縁の音作りですので、好き嫌いははっきりと別れる音だとは思いますが、個人的には「日本的優秀録音盤」として高く評価して良いのではないかと思います。

  • 購入金額

    6,380円

  • 購入日

    2019年12月17日

  • 購入場所

    楽天ブックス

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