レビューメディア「ジグソー」

かつての仲間と、また新たな音を紡ぐ

所持する音楽データに対する私利私欲...イヤ私情私見あふれるコメント、音楽の杜。こういった分野のものは「好み」ですし、優劣を付けるのもそぐわない気がしますので、満足度の☆はあくまで私的な思い入れです。長期にわたり活動しているバンドはメンバーチェンジが避けられません。そのとき喧嘩別れのようになってしまう場合もありますが、袂を分かったあとも、時折集まり、新たな音楽が紡がれる場合もあります。2019年時点では結成40周年を超えた長寿バンドの30周年時点の活動を収めた作品をご紹介します。

 

T-SQUARE。フュージョン界の老舗バンド。フュージョンというジャンル自体が、1980年を挟んで前後10年ほどの間に興隆~衰退したものなので、その頃活動していたバンドやプレイヤーはかなり表舞台から去っている。しかし、彼らはそのころから切れ目なく活動をしており、現存するフュージョンバンドの中で活動期間としては最も長いバンドと言ってもよいだろう。そして日本独自の発展を遂げた「ジャパニーズフュージョン」の代表的なバンドでもある。

 

世界的な潮流としては、ジャズを基軸としながらも、ロックやポップス、ブラコン、ソウル、ブラジリアンやボサやラテン、果てはクラシックまで、様々な音楽を「フュージョン(融合)」させた音楽ジャンル=フュージョンは、その後、よりメロウで聴きやすく、イージーリスニング色を高めたスムーズジャズに移行している。一方、日本においてはビート感が強くて機械との融合にも積極的な、独自の「ジャパニーズフュージョン」とでもいえるジャンルに変化した。

 

それはこのバンドの最大のヒット曲、F1テーマソングの「TRUTH」による影響も大きいのかもしれない。世界的にはフュージョンブームの退潮が明らかになりつつあったときに放たれたこの大ヒットによって、「日本のフュージョン」は方向性を固定されたともいえるのかもしれない。

 

その長寿バンドの節目の年の作品。以前レビューした2013年のバンド結成35周年盤

の「前」に企画された30周年記念リリース盤が“Wonderful Days”。

 

このときも「T-SQUARE SUPER BAND」名義であり、当時のメンバー(ギター安藤正容、サックス伊東たけし、キーボード河野啓三、ドラムス坂東慧、ベースは正メンバー不在)に、かつてTHE SQUAREおよびT-SQUAREを支えたメンツが加わる。名盤“MAGIC”で、それまでの「ツウの音楽」だったジャズ系ジャンルであるフュージョンを、女子大生も聴くメジャーな音楽とした時代のベーシスト田中豊雪。次の“脚線美の誘惑”

から参加し、稀代のメロディメイカーとして「宝島」をはじめ多くの名曲を残し、プレイヤーとしてもピアノを弾かせればT(HE)-SQUARE史上最強との評価も高い和泉宏隆。F1テーマの「TRUTH」を含む同名アルバムからT-SQUAREの黄金期を支えたリズム隊、ベースの須藤満とドラムスの則竹裕之。そしてその黄金期が終わって、T-SQUAREが「次に」歩み始めるまでの一番苦しかった時代のサックス宮崎隆睦。都合、現メンバー4人に歴代メンバー5人を加えた計9人が各曲を分担する形で参加している(さらに数曲では外部メンバーがブラスとパーカッションで参加)。

 

そういった特別なメンツなのにもかかわらず、旧来の曲のリメイクなどではなく、新曲オリジナルアルバムでこの30周年記念盤を創ったのが彼ららしい。曲もメインコンポーザーの安藤や現メンバーの伊藤、河野、坂東だけでなく、歴代メンバーでは、田中が1曲、和泉からは2曲も提供されており、「今」のカラーでないT-SQUAREも味わえる形になっている。

 

Anthem」は、坂東と則竹という新旧ドラマーの競演が聴ける。T(HE)-SQUAREには、ジャンル柄?ほかにも青山純や長谷部徹をはじめとする上手いドラマーが在籍したが、現メンバーの‘新人類’坂東と黄金期を支えた則竹が、テクニック面では頭一つ抜けている。ただこの曲では二人のフルユニゾンのキレっキレのテクニックを聴く...というよりはツインドラムの破壊力を楽しむという感じ。田中の曲なのでロックテイストが強く、かなりハードな方向で、ハーフオープンハイハットの4つ打ちでガンガン来る。とは言っても所々にあるぴたりとシンクロしたフィルインは、さすがに坂東と則竹だが。二人のドラマー以外の参加メンバーは、作曲者の田中に加えて、安藤、伊東、河野の現メンバー。

 

続く「Calera」は、現メンバー(河野)の曲なのだが、どちらかと言えばむしろ80年代の「クロスオーバー~フュージョン全盛期」の薫りがあるCOOLな曲。この曲の聴き所は、伊東と宮崎による2本のサックスの掛け合いソロ。続くピアノソロは和泉か河野のどちらによるものかクレジットはないが、たぶん和泉だろうな~というリリカルなもの(懐かしい感じ)。あとのメンツは安藤と黄金期リズム隊(須藤+則竹)。

 

Wonderful Days」は、和泉の筆による美しいバラード。参加メンバーは和泉本人に加えて、安藤、伊東、須藤、則竹といういわゆる“TRUTH”の黄金期メンバーに、河野がバックアップで入る形。和泉ならではの、ピアノ+サックスを中心とした壮大な曲で、「Forgotten Saga」や「遠雷」といったドラマチックなバラードを多く書いた和泉の面目躍如、という感じ。

 

この10年後になる40周年時も、新旧メンバーが一堂に会し、新たな曲を持ち寄り、それぞれの活動時にはなかった組み合わせで記念盤“It's a Wonderful Life!”を創っている。

 

在籍していたときには、それぞれいろいろあったのかもしれないが、同窓会的に数年に一度集まり、新たな曲を創造するという関係を続けられているバンドは多くない。そして創る人によって多少風合いは違うが、どの曲も「T(HE)-SQUAREの音」になるのが面白い。

 

そういう意味では「T(HE)-SQUARE」というのは、もはや「ブランド」と言えるところまで定着した「文化」と言えるのかもしれません。 ジャパニーズフュージョンの核に在った人たちが、自分たちの音楽をさらに研ぎ澄ませた..そんな周年記念盤です。

30周年記念盤は「T-SQUARE SUPER BAND」名義の9人構成
30周年記念盤は「T-SQUARE SUPER BAND」名義の9人構成

 

【収録曲】

1. Islet Beauty
2. Anthem
3. Calera
4. Seeking The Pearl
5. Wonderful Days
6. Blues For Monk
7. Sweet Catastrophe
8. Freckles
9. System Of Love
10. Missin' You

 

「Wonderful Days」(アクセス制限上、YouTubeでの試聴となります)

更新: 2019/10/09
必聴度

懐かしくて新しい

あのフュージョン全盛期を知る人間としては、とても懐かしい薫りがする、でも知らない楽曲が並ぶ。

  • 購入金額

    3,045円

  • 購入日

    2008年頃

  • 購入場所

15人がこのレビューをCOOLしました!

コメント (2)

  • 北のラブリエさん

    2020/03/22

    Omens of loveあたりもたしか和泉さんですよね。
    離れちゃったのは寂しかったもんです。
  • cybercatさん

    2020/03/22

    「OMENS OF LOVE」 や 「宝島」といったノリの良いブラバン定番曲や、「TRAVELERS」のようなR&B系、そして「TWILIGHT IN UPPER WEST」などの美しいバラードと幅広く曲を書いていましたからね。

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