所持する音楽データに対する私利私欲...イヤ私情私見あふれるコメント、音楽の杜。こういった分野のものは「好み」ですし、優劣を付けるのもそぐわない気がしますので、満足度の☆はあくまで私的な思い入れです。音楽の「間口」が広いアーティスト・プレイヤーの場合、リリースする作品すべてが、ファン全員にとって高評価とはならないこともあります。アーティスト・プレイヤーの「人物」が好きなコアファンはともかく、ある曲や演技で好きになったファンは、それとはかけ離れた作品では上手く受け入れることができない場合もあるわけです。それでもその人の「中心分野」は、とっつきがどのジャンルであっても許容範囲であることが多いものです。どジャズから環境音楽、サントラ、打ち込み中心の曲からリズムがあまり感じられない前衛音楽まで幅広く活躍するアーティストの「センターフィールド」ともいえるジャズ~フュージョンに回帰した作品をご紹介します。
本多俊之、サックスプレイヤー。ただ「プレイヤー」であるのは一面で、コンポーザーであり、音楽プロデューサーでもある。
一番世間的に「有名」なのは、「マルサの女」のテーマ曲や、久米宏の「ニュースステーション」のオープニングテーマなどだが、マルサの緊迫感ある譜割に不安定な旋律で乗るソプラノサックスや、明快でエネルギッシュな「Good evening(ニュースステーションオープニングテーマ)」といった方向性だけではなく、コンテンポラリージャズフィールドでの活動も多く、このあたりが彼のセンターフィールド。
1980年代は「本多俊之RADIO CLUB」としてハードな作品
も多く出したが、この作品“REED MY LIPS”で、もう少し王道の「ジャズ」へ回帰した。しかし、それは彼らしい明快でスリリングなテイストを持つもので、彼としての「王道」に還ってきたのが実感できる作品。
この作品、2曲の日本録音を除けば、バックはアメリカのミュージシャン中心で固められているが、このユニットがスバラシイ。ドラムスがVinnie Colaiuta、ベースNeil Stubenhausという盤石スーパーテクニカルペアに、きちっとしたバッキングプレイ良し、歌うギターソロ良しの名手Michael Landauがギター、そしてサックスとキーボードは本多本人という基本ユニット。この4ピースに曲によってブラスやキーボードが加わるという感じ。
まずファーストトラックの「CRASH COURSE」のジャズとフュージョンの混ざり方の「塩梅」が良い。Jerry Hey率いるブラス隊が華やかに盛り上げる中、Vinceの一見(一聴?)ジャジィなドラミングで始まるが、すぐに馬脚をあらわし?ぶっ飛んだ装飾過多のスリリングなドラミングに。Neilは、刻むAメロ、歌うBメロのメリハリで、スバラシイプレイ。本多のソロより前に来るMichaelのソロは、かなり激しいテンションノートも織り交ぜながら、ブルージィで歌う局面もあり、とても印象的。本多のソロは、彼らしく小気味よく歯切れがよいプレーズが繰り出される。ここでは彼のイメージ楽器?でもあるソプラノサックスを使う。なお、この曲ではキーボードに元VOW WOW
の厚見玲衣が参加しているが(多分日本でのミックス時のオーバーダブ)、キーボードは魅せ場が少ないので、「使い方」としてはちょっともったいなかったか??
続く「LA JOLLA」は、まるでMALTA
のような明快でメロウなテーマで始まる。中間部のオリエンタルな?本多のソロと、アウトロの歌うMichaelのソロが「表面的には」アピールするのだが、実は一番の聞き所は、Neilの小技大技織り交ぜたグルーヴィなプレイ。一方Vinceは教科書的王道の「歌伴」プレイで、遊ぶNeilとは対照的にここでは地味に?曲を支え続ける。このコンビ、押すところと引くところの分担が素晴らしいな。
「HIGH SPEED CHASE」は、「Good evening」系のハードで明快なフュージョンチューン。基本の4人のみの演奏となるこの曲は、タイトでスリリング(キーボードも結構入っているので打ち込みかな)。キメキメのフレーズ、フルユニゾンを織り交ぜ、途中の本多とMichaelの掛け合いソロになだれ込む。ソプラノのキレの良いパッセージにはライトハンド奏法交えた速弾きで、高速トリルにはワウのかかった特徴的な音で対抗と白熱のバトル。一方リズムは、良く動くグルーヴィなNeilの印象的なベースラインに比べて、Vinceはスネアの位置を細かく変えた小技のきらめきは魅せるものの、比較的ステディな8ビートに徹している...............と思ったら、ラストのwツインペダル踏みまくりのwwぶち切れリズムwww
いわゆる「ジャパニーズフュージョン系」のハードな曲から、ジャジィでスウィンギィな曲、メロウチューンに叙情的なアコースティックな曲、変拍子風リズムの曲と盛りだくさんだけれど、いずれも本多俊之といえば思い浮かぶ守備範囲のモノで、偏りがなく彼にとっての「王道」。サックスも良く歌っていて本多の調子も良い感じ。
ただザンネンなのはこのアルバムをリリースした1992年までは毎年必ず(場合によっては複数枚の)アルバムをリリースしていた本多の活動量がその後めっきり落ち、1996年から2005年の約10年リリースがなかった時期を挟んで、近年は3~4年に1作という状況で、このアルバムほど彼のメインフィールド寄りのものが出ていない(打ち込みの室内楽や、サックスアンサンブル、吹奏楽など...)。
もう一度この頃の「熱い」プレイが聴きたいなー...と思ったり。
ぜひ復活を!!
【収録曲】
1. CRASH COURSE
2. LA JOLLA
3. INASE NIGHT
4. MIND GAMES
5. Siesta
6. FANCY FREE
7. COMME CI,COMME CA
8. HIGH SPEED CHASE
9. 約束の夏~Farewell my summer
「CRASH COURSE」
Vinnie Colaiutaのプレイがスバラシイ
マシンバックの日本録音の2曲を除いて、すべての曲でプレイするVinceのプレイがスバラシイ。トリッキーでスリリングな曲でのダイナミックなプレイ、オリエンタルで変拍子風の曲での正確無比なプレイ、まるでヴォーカル曲のような歌心あふれる曲での主題を盛り上げる「歌伴」。イクときは逝き、引くときは引く、変幻自在なプレイは本多に負けない歌心がある。
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購入金額
3,000円
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購入日
1992年頃
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購入場所
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