所持する音楽データに対する私利私欲...イヤ私情私見あふれるコメント、音楽の杜。こういった分野のものは「好み」ですし、優劣を付けるのもそぐわない気がしますので、満足度の☆はあくまで私的な思い入れです。バンドがブームに乗り、大きくなった「その後」。ブームは一過性のモノですし、いつまでも前と同じ事をやっていては、人気はいつかは凋落します。日本を席巻したフュージョンブームが過ぎゆくときに、外国に活路を求めたトップフュージョングループの活動の記録をご紹介します。
CASIOPEA。何度か取り上げている1980年代の「フュージョンブーム」を支えたグループの一つ。現在は「CASIOPEA 3rd」として「第3期」であることを明確にして活動している彼等だが、その命名方法に倣えば「CASIOPEA 1st」としてのラストアルバム。
この「第1期」のメンバーは、ギター野呂一生、キーボード向谷実、ベースが櫻井哲夫で、ドラマーはデビュー時点では佐々木隆だったが、約1年後に神保彰に交替し、その後約10年間このメンツで続く。このドラマー交代後の第1期が俗に「黄金期」と呼ばれ、世のフュージョンブームと重なって、最も彼等の人気が高かった頃。
1980年代後半になって、国内のフュージョンブームにも翳りが見え始め、NANIWA EXPRESSやネイティブ・サンは解散、PARACHUTEやPRISMは活動停滞という状況。ロック調で明快なF-1テーマソングで一般的にもブレイクしたT(HE)-SQUAREや、スタンダードジャズを根に持ちながらもメロウでキャッチーなメロディラインのMALTAなどが支持を得ており、よりJAZZ寄り、玄人寄りのCASIOPEAは、海外にその活路を見いだそうとしていた。
当時は、インターネットの動画サイトなどはまだなく(...というか、インターネット自体がまだ一般公開されていない、「パソコン通信」の時代)、海外に打って出るには、現地でCDやアナログレコードをリリースし、現地でライヴを行うプロモーションを行わなければならなかった。
そんな時代背景のなか、1988年に行われた4カ国を廻るワールドツアーに、同時期に行われた日本でのライヴを組み合わせたのが本作、“CASIOPEA WORLD LIVE ’88”。
会場ごとの雰囲気の違いはあるが、CASIOPEAの演るのは「言葉の壁」がないインスト曲であり、いずれも大きな盛り上がりを見せている会場の様子が良く判る作品となっている。この作品に収録されている曲は、契約の関係か、彼等の「代表曲」と呼べる曲は一つも入っていないが、それ故に、彼等の超絶技巧が「曲自体の人気度」というバイアスなしに楽しめる。
壮大なメロディラインを持つ「太陽風(Taiyo-fu☆the Wind From The Sun)」は野呂のギターが良く歌っている。日をまたいで深夜に行われたというこのブラジルでのライヴ、現地の人気アーティストのあと、という出演順だったらしいが、大盛り上がりで、前年訪れてファンを獲得していた彼等の地道な活動が実った感じ。
COOLでファンキィな「Magnetic Vibration」は、アメリカの名ライヴスポット、ROXYでの収録。他の会場に比べるとハコが小さいのが、逆に観客の盛り上がりや掛け声がよく聞こえて、ダンサブルなこの曲に合っている。どこまでもタイトな神保のドラムと、フェイズをずらした音色の櫻井のベースソロが絡み、止まるところでは機械のようにバチッと止まるリズムブレイクが気持ちよい。
1、2曲目とラストの2曲は日本での収録だが、特徴としては生のブラス隊が入っていること。新田一郎率いるHORN SPECTRUMと寺内茂のTOP HORNSという当時のジャズ~フュージョン系では頂点となる7人編成のブラス隊を従え、とても煌びやか。この中ではタイトなリズムの「Super Sonic Movement」がスバラシイ。野呂と向谷の高速ユニゾンや、音の選び方がスリリングな掛け合いソロも良いが、なんと言っても、神保のウルトラタイトな機械のようなムダのないオンビートソロとそれに続く一見(一聴?)フリーリズムに思えるが、ビートがきちんと感じられるソロ、わずか一発のスネアで曲に復帰する超絶リズム合わせ、アウトロの櫻井のスラップソロが魅せ場。この頃のCASIOPEAはホントにもの凄い熱量だった。ラストのフルユニゾンによるキメがネ申。
彼等は、このツアーの翌年、レコード会社の契約が切れたこともあって各自のソロ活動を中心に据えるが、そこでの活動内容が原因で彼らは分裂、「黄金期」を終えることになる。従ってオリジナルアルバムではないがこの作品が、彼等の「黄金期」ラストアルバム。ここで聴く事ができるプレイは、「自分達の音楽を極めたい」「もっと世の人に識ってもらいたい」という気概と才気に溢れ、とても「外向き」の指向を感じる。そんな彼らの「外向き指向」が、最終的に解散を呼び込むことになるのは皮肉だけれど...
このツアーの翌年、彼等は分裂してしまい、その後2018年現在でも再び黄金期メンバーが揃って演奏したことはない。そういう意味では、「黄金期の終わり」を切り取った貴重な記録です。
【収録曲】
1. Do-loo-doo? *
2. Bayside Express *
3. 太陽風(Taiyo-fu☆the Wind From The Sun) **
4. Red Zone **
5. Princess Moon ***
6. いにしえ(Inishie☆old Times) ****
7. Solid Swing ****
8. Magnetic Vibration *****
9. 迷夢(Mei-mu☆shallow Dreams) *****
10. Super Sonic Movement *
11. Access *
*:YOMIURI-LAND OPEN THEATER EAST, TOKYO, JAPAN
**:PROJETO SP. SAO PAULO, BRAZIL
***:WORLD EXPO '88, BRISBANE, AUSTRALIA
****:AUDITORIO NATIONAL, MEXICO CITY, MEXICO
*****:ROXY, LOS ANGELES, U.S.A.
「Super Sonic Movement」
「外へ行くぞ!」の気概を聴いてほしい。
楽器ひとつで世界と渡り合おうという、メンバーから放たれるオーラがスゴイ。
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購入金額
3,300円
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購入日
1988年頃
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購入場所
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