レビューメディア「ジグソー」

SANSUI高電圧機の集大成、非常に稀なフィードフォワード回路搭載~ヴィンテージアンプで整備必須ですが、電解コンデンサには注意要

このD907F Extra及びD907Fは、日本のオーディオ黄金期である80年代初頭に登場した当時同社のフラッグシップアンプで、量産機では非常に稀なフィードフォワード回路とサンスイ伝統のダイアモンドバッファ回路を搭載しています。大型高級電源トランスを用いた各ch独立6電源、電源ブロックコンデンサは同サイズながら中低音用と中高音用でエッチング倍率を変え、容量の異なる大型のものを計8本と贅沢な構成となっています。パワートランジスタも高性能で振動抑制効果の有る高価な品が採用されています。またD907F Extraではフィードフォワード出力段がパワーMOS FETにアップグレードされています。

D907F Extra, D907Fと後続のD907G, D907G Extraまでが±70Vもの電源を用いた高電圧機で、その後のD907X以降はずっとバランス接続の低電圧機となりました、両者は良し悪しではなくその音の方向性に違いがあります。D907F Extra, D907Fのメイン出力段はAB級動作、フィードフォワード出力段はA級動作で、片ch当たり2個別種のSEPP出力段を持った非常に贅沢な回路構成です。アナログレコード再生用のEQアンプもとても本格的なディスクリート式DC構成で、Extraでは更にタムラ製の高級パーマロイコアMCカートリッジ専用ステップアップトランス(インピーダンス切換付き)を搭載しており、Orutofon SPU/MC30やDENON DL103/305が使えます。何れもアナログレコード主流時代の最後を飾る逸品となっています。

しかしなにぶん古いアンプですから、整備状態次第で音質や寿命が大きく変わります。内部の十分な清掃と各ボリューム・スイッチ・リレーの接点洗浄(スピーカーB用リレーは交換品がもう有りません)、ハンダクラックの修理、BIAS及びDCバランス調整は必須です。寿命部品である電解コンデンサの交換も安心材料ですが、単純に現行のオーディオ用普及タイプのニチコンMuse-FG, Muse-ESに全数交換すると、現代的なクリアで力のある音になりますが、本機の特徴である豊かで広がりが有り、上品で瑞々しい中高音の伸び、そしてプレゼンスが壊れてしまいました。下手に交換するなら故障品を除き電解コンデンサは未交換の方が良いです。FETやトランジスタ等の半導体はノイズが無くBIAS等が調整可能な範囲なら交換不要です(別型番への交換は、音が出るだけでなく音質を担保するには回路全体の再検討を要します)。整備内容には十分留意して購入されて下さい。

当時サンスイ社内の音決め調整室のスピーカーは、38cmの軽量振動板ウーハーと高性能ホーンツイーターを持つ高能率2ウェイ・97dB/WのJBL4320でした。細かい聴き分けの可能な本格的な音創りの為のスピーカーです。この他にオーディオ評論家の先生宅での視聴結果等も参考に最終的な音決めされました。私は英BBCモニターの流れを汲むスピーカーが好きで、良し悪しではなくJBL4320とは音楽表現がだいぶ異なります。大変魅力的な回路内容を持つD907F Extraを、BBCモニター系のスピーカーに合わせ込みたいと思いました。しっかりと音質整備をする為、D907F Extraを3台・D907Fを1台入手し、部品無交換機と比較しながら少しずつチューニングしました。

数か月に及ぶコンデンサ交換・測定・エージング・ヒアリング調整の結果、UTSJ・UTES・UPZ・Silmicを中心に少量のUTWRZ・Muse-FGを回路部位に応じて用い、若干の定数変更を行う事で、英BBCグレード1モニターであるRogers社PM510(LS5/8)や同社Studio5、古いKEF等を豊かに上品に鳴らせるようになりました。電解コンデンサは低ESRや解像度だけに固執せず、超高域寄生発振等の問題が無い事を確認しつつ、鳴らしたいスピーカーと回路部位に合わせて視聴を繰り返して選択する必要が有ります。メーカーと異なり対象スピーカーと音楽ジャンルが絞り込まれる個人なら、資質の良いアンプのチューニングは可能です。

音楽表現は異なりますが、Rogers PM510はある意味でJBL4320に似て音創りの決定に使用され、BBCが送り出す放送の音を決めていた非常に繊細で良質のモニターです。LS3/5aは所有していないので未確認ですが、Rogers・Harbeth・Spendor・Stirling Broadcast・Graham Audio等を含め、しっかり整備し適切にチューニングすれば、スピーカーセッティングと若干のトーンコントロールで、BBCモニターをルーツに持つ歴史ある英国製上級スピーカーを鳴らし得る、貴重な国産ヴィンテージアンプだと考えます。SANSUI高電圧機の最後の集大成であるこのD907F Extra(とD907G Extra)は、ピンポイントの定位・クリアな分解能・低域の馬力等だけでは語れない、独特の音艶と音場の深い広がりから成る優れたプレゼンスの特長を持っていて、この後の低電圧バランス機D907X・α907以降とは異なる「音ではなく音楽を聴くアンプ」として魅力的な逸品です。

簡単には、電源基板はUTESで同耐圧容量倍増(定電圧回路部は容量変更不可)、終段電源ブロック電解コンデンサそれぞれにUTES100V1000uFとUPZ0.22uF追加、全てのオーディオ基板はUTSJの63V耐圧容量倍増(ドライブ基板の100V耐圧部はUTSJが無いのでUTESの同耐圧容量倍増)、オーディオ基板の100uF以上にはUPZの0.22uFを並列接続する事で、ある程度BBCモニターに合う音質チューニングに近付きます(全て千石電商で入手できます)。プロテクト回路等の音質に関係しない部分は同耐圧以上で同容量の国産電解コンデンサなら拘りは不要でしょう。そこから先は鳴らしたいメインスピーカーに合わせ一部をSilmic等に置き換えての視聴と、波形や特性を測定しながらの回路定数の追い込みになります。これには個々のアンプの半導体特性劣化進行状況の違いもあり、各種計測機材と長い時間が必要になります。

このチューニングを行うと、D907F Extraは何故か接続する電源の品質に敏感になります。音楽に奥行きが足りない・若干煩いと思われたら良質の電源タップに交換する事をお勧めします。煩さが収まり静寂の中から深く広い音場が出現します。接続するスピーカーケーブルにも留意して下さい。尚、UTSJはハンダ付け熱ストレス等による内部劣化が、自己修復により完全回復するまで長い加電時間を要するようです。アンプの電源を投入したまま数百時間エージングすると音が整って来ました。私は外出時も常時通電させ、在宅時は各種の音楽を聴き、就寝時にごく小さな音量でクラシック等を鳴らしていました。少なくても300時間(1日24時間で2週間弱)以上は通電エージングしてみて下さい。

D907G Extraも殆ど同じ内容なので同様です。D907F・D907Gも若干の定数変更で上記コンデンサに交換は有効と思います。D907Fの輸出仕様はAU-D11で若干回路定数が異なりますが同様、D907F Extra, D907G, D907G Extraに輸出仕様型番は有りません、AU-D11iiは全く別物(低電圧バランス機)です。いずれにしてもこのD907F Extraは、フィードフォワードに代表されるその優れた回路と贅沢な構成から、しっかりした整備と多数の部品交換で手を掛ける甲斐の有る、大変優れた資質を持つ国産ヴィンテージアンプだと思います。縁あってD907F Extraを入手されたのなら、もうこの音のアンプは手に入らないので、是非長く大切に使ってあげて下さい。

更新: 2018/02/26
音質

しっかり整備チューニングすれば往年のBBCモニターも鳴らせる

37年前のヴィンテージアンプなので整備は必須ですが、電解コンデンサの交換には注意が必要。

下手に「最新の・・・コンデンサ」に変えると、クリアさと力強さだけ目立って、折角の本機の

良さが壊れてしまいます。愛用のメインスピーカーと主音楽ジャンルに合わせて、交換する電解

コンデンサ等をじっくり比較チューニングすれば、「国産アンプでは鳴らない」と言われていた

Rogers社PM510(LS5/8) BBC Grade1 Monitorも、かなり良い感じで鳴り出しました。

 

大量販売時代の当時の定価175,000円(少量しか売れない現在の35~50万円クラス)の本機は、

現在数万円から入手できるので、整備とチューニングに時間と手間を掛けられる方には良い品か

と思います。私はHP8903Bオーディオアナライザ、4chストレージオシロ、ミリバル等で計測

しながら4台を整備・チューニングしましたが、超高域発振を起こしかねない可笑しな改造等を

しなければ、基本に忠実にやればハンダ鏝と接点洗浄剤とテスター1台で整備・チューニングは

出来ます。くれぐれも安易な「最新の電解コンデンサ」交換はしないで下さいね。

 

整備・チューニングをしっかりすれば、ピンポイントの定位や、ただクリアな解像度ではなく、

豊かで広がりが有り、瑞々しい音艶と奥行きの深い音場とプレゼンスを伴った、音ではなく音楽

にじっくり浸れる事が出来る、素敵な資質を持ったヴィンテージアンプの逸品かと思います。

往年のBBCモニター系との組み合わせでは、クラシック全般、比較的小編成なジャズ、潤いのあ

るヴォーカルに向きます。軽量振動版を持ち高能率だった往年のJBLも、また別の個性を活かして

鳴らせるかも知れません(こちらはそのような往年のJBLを持たれる方にお任せします)。

  • 購入金額

    80,000円

  • 購入日

    2017年11月15日

  • 購入場所

    価格はジャンク含む4台分、ハードオフとオークション

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