結構イヤホン類の種類が増えてくると、平均点の高いイヤホンよりも極端な性格のイヤホンの方に惹かれたりする。どの分野もそつなくこなす優等生タイプよりも、特定の分野・曲のみでは素晴らしいが、平均点としては意外に低い一点集中天才型や、使い勝手の悪さや適合ジャンルの狭さはあるが、その個性がどんなイヤホンをも凌駕しているような狂気の鬼才タイプが気になったりもする。
イヤホン専門店でたくさんの機種を試聴していて、ふっと耳に突っ込んだのがこの機種。
並んでいるのを次から次へと耳へ突っ込んでいたので、メーカー名などまったく気にせず聴いたのがこれ、TA-HRW1 BBR。
見た目のウッディなたたずまいからJVC等の名が売れたメーカーのものかな?と思ったが、「株式会社たのしいかいしゃ」って...アレ?w
どうもパステルカラーのUSB-ACアダプタや、Barbieちゃんを絵柄にあしらったモバイルバッテリーなど、女子向け?雑貨を扱う会社らしい。
そんななか意外にもイヤホン類のラインアップは多く、お菓子メーカーJellyBellyと組んだジェリービーンズのようなケーブル巻き取り式イヤホンや、メタリックピンクやローズゴールドのアルミハウジングを持つ小型イヤホン、スワロフスキー付イヤホンなど「アクセサリーとしても訴えるイヤホン」を提供している感じ。
そんなメーカーのイヤホンがなぜにイヤホン専門店に??
このTA-HRW1は、同社の「いい音(ね)」ブランドの商品。このブランドが展開するイヤホンは、親しみやすいデザインとカラーリングの女性に優しい小型サイズのイヤホン、という点は同社の他の製品と変わらないのだが、「高音質で低価格」というのがコンセプト。2017年4月にリリースされた木製ハウジング(本品)と真鍮ハウジング(TA-HRB1)のカナルイヤホンは、共にハイレゾ対応で、性能数値だけ見ればイヤホン専門店に置かれても不思議がない品。
...と言ってもデザイン面もイケていないわけではなく、ドングリを想い起こさせる削り出しのとても小さなハウジングと3色展開(メイプルのような色のWBR、マホガニー風の茶色いNBR、ウォールナットに多い焦げ茶色のBBR)で、「カワイイ」方向性ではないが、ナチュラルでシックな感じがステキ。
では、音はどうなんだろ、と試聴機を耳に突っ込んだ30秒後には買う気になっていた。
ただ、それは
・cybercatは数多くイヤホンを持っている
・本品は売価4000円以内とさほどに高額ではない
この二つの状況があったから。
「一つ目のイヤホンとしては勧めない」
「5000円超えても買うという人は嗜好がかなり極端かも」
...というような感想を同時に持つイヤホン。
一言で言うと「超近鳴り」「アタック命」の攻撃型イヤホン。ステージは広くなく、全ての音が鼓膜のそばで鳴っているようなゴリ押し度、そして打楽器やギターやスラップベースのアタック部分の色と速さがスゴい。対してストリングスなどの持続音は薄く、色気はない。帯域的には重低音はなく、中高音域にピークがある、うるさめチューン。ただ、そのグイグイ押してくる清々しいまでのキレ味が一部の曲で素晴らしく、スカっとする。
アタック感にステ全振りと言った感じの「主張する音」が楽しく、早速連れて帰った。
本のように開くと本体が直接確認できる(色合い個体差チェックできる)
内容物は3サイズのイヤーチップと保証書のみで、ポーチやクリップはおろか、絡み防止スライダーさえ備えない潔さ。
ハウジングはドングリみたいで小さくカワイイが、左右表記がケーブル付け根の彫り込みのみで、左右を表す突起や色分けがないのは、潔い「若者向け」イヤホンではある←意味深。
若干ケーブルの物理抵抗が大きく、タッチノイズが大きめだが、コンパクトで耳にすっぽり収まるこのイヤホン、どんな音質なのだろうか。
いつもの曲をDP-X1A直刺し環境で評価すると、まずハイレゾ曲(24bit/96kHz)の吉田賢一ピアノトリオの“STARDUST”
から「Never Let Me Go(わたしを離さないで)」は、硬くて速い!音量を上げるほどにこの傾向は強まり、リムショットとライドシンバルのアタックが痛い←しかし実は悪い意味ではない。アタックが強くてメリハリがハッキリとした「近い」音。スティックが鳴る音がよく聴こえる。
宇多田ヒカルの“Utada Hikaru SINGLE COLLECTION VOL.1+2 HD”(24bit/96kHz)
から壮大なバラード「First Love」。イントロの生ギターは、まるでブリッジ脇をピッキングしているようなシャリンとアタックが立つ音。リムショットも気持ちエエ!2コーラスめからガッツリ入るベースのうねるような深さやバスドラの響きはないが、アタックの部分は十分すぎるほどあるので、あまり重心が高い感じはしない。サビの深いリヴァーブがかかったタム回しの音は、まるでメロタムのようなアタック重視の音に変わってしまうので、「余韻」はないけれど。
T-SQUAREの「RADIO STAR」をセルフカバーアルバム“虹曲~T-SQUARE plays T&THE SQUARE SPECIAL~”
より。この曲、左chのパーカッシヴなミュートギターが目立つイヤホンは結構あるが、それより若干音量自体が小さい右chのワウギターがよりよく聴こえるイヤホンになんて初めてだー。フィーチャリングされているはずのJINOのベースの量感はないが、坂東クンのスネアがパッシパシにキレる。途中のJINOのラップに絡むバスドラの小技もキレッキレ。
クラシカルで勇壮な「鉄底海峡の死闘」は交響アクティブNEETsの艦これクラシカルアレンジ“艦隊フィルハーモニー交響楽団”
から。これは一言、元気!低域で這い回る弦の低音もティンパニの震えるような振動もないが、それ以上にティンパニや大太鼓のアタックはドゥンと来るし、金管隊の煌びやかさたるや!狭い音場で、壮大さはないが、各プレイヤーが自分の目の前で押し合いへし合いしながらプレイをムリヤリ聴かせている(自分が聴かせられている)感じ。
Eaglesの名曲「Hotel California」
はギターの「立ち」がもの凄い。カランとしたアタック過多の音色で、「ぜってー元の音こんなんぢゃないだろ」って突っ込みをしたくなるほどの脚色はもはや清々しいほど。ただそのかわり、というかベース、かっる。
女性声優洲崎綾(あやちゃん)の沁みる曲「空」
は、ドンと構えたベースの上に乗る伸びやかな歌唱...というような雄大さはないが、左右のギターとキレを増したリズムに乗る、あやちゃんの近めの声は悪くないな。
同じあやちゃんの飽和系デレマス曲、「ヴィーナスシンドローム」
は、このイヤホンの下がないところと持続音薄めの部分が上手く働いて、ベースやバスドラの過剰な部分を抑えて、でもアタックの速さでグングンのせる。ハイハットとシンバルは刺さり気味だけれど、痛気持ちイイ感じ。そこさえM的に?クリアできれば、若干若く感じられるあやちゃんの声含めわりに良い。
この「ドS」イヤホンは意外な拾いものだった。これがヴィレヴァンのような店舗にあったならわざわざ手に取らなかっただろうし、展示がCDショップであっても元々の会社のキャラクターからはオーディオと言うよりレジ横の雑貨系のポジションに置かれる可能性も高く、そうなら聴くこともなかったかも知れない。
たまたまイヤホン専門店での絨毯爆撃系試聴時に巡り会ったので購入したけれど、相当にクセのある音。その狭い音場のなかで、全ての楽器のアタック強化という攻撃的なキャラクターは、イヤホンが「これ一本」というような状態では辛くも、複数あるならば、時にはM的な快楽として「アリ」かも。
ま、戻れなくなっても知りませんが←え?
それくらいキョーレツな「近さ」と「アタック」を持ったイヤホンでした。そこには「木のぬくもり」なんてない!
...あ、あとWebラジオ試聴用としては、声が近くて通りが良くてオススメです。
【仕様】
形式:ダイナミック型
プラグ:I型3.5mm
ドライバー:φ9mm
再生周波数帯域:5~40,000Hz
音圧感度:94dB/mW
入力インピーダンス:16Ω
ケーブル長:1.2m(Y型)
付属品:イヤーピース(S/M/L)
保証:6か月
刺さるが、そそる
暴力的なまでにスパーンと来る高音。痛気持ちいいくらいのドS音色。
アタックがグッと来る音色/楽器は気持ちいい
打楽器系の気持ちよさは素晴らしい。それはプレイのニュアンスを味わうとか、ヘッドに対するスティックの角度を分析的に聴くというような小難しいものではなく、タンッタンッと刻まれるビートのキレを味わう気持ちよさ。コクよりもキレ。
量はないが存在感は意外にある
絶対量はないので、低音シンセが鳴り続けるような曲は苦手だが、打楽器系のアタックがあるものはそのキレの良さが低域の音の分離につながり、ビート感が強い。
近くて全ての音が目の前、...つか耳のそば
「広さ」軸で評価すると点は辛いが、「場の演出」軸で評価すると意外に良い。すべての楽器が近く、いつでもアリーナ...というか、かぶりつき?
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購入金額
3,570円
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購入日
2017年06月04日
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購入場所
e☆イヤホン名古屋大須店
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