レビューメディア「ジグソー」

ナニワ商人の良心?大阪に咲いた蕾、SATOLEX Tubomi DH298-A1Bk

どの分野でもだいたいにおいて価格と品質は比例関係にあって(その近似式は1次式ではないけれど)、高いものほどよいのは当たり前。

ただ、そんななかその比例曲線を「いい意味で」突き抜けた場所に位置する製品が出ることがある。

それをひとは「神コスパ」の製品という。

最近はやりの「ハイレゾ」。

これはCD(DAT)クラスのフォーマットを超えるデジタルフォーマットを使用した楽曲データ/それを再生する機器類に冠せられる言葉で、具体的にはサンプリング周波数が44.1kHzもしくは48kHz、量子化ビット数が16bitを超えたデータ/対応再生機。JEITA(電子情報技術産業協会)の定義上はどちらかが超えていれば残りはCD(DAT)クラスと同等で可というものだが、最近家電店などでオーディオ系製品についている金色のマーク(ハイレゾ推奨ロゴ)を管理する日本オーディオ協会(JAS)の定義では、音楽データは96kHz/24bit以上のもの、再生機器の性能としては40kHz以上の能力があることとされている。

今までの再生機器が人間の単音としての一般的な聴取上限、20kHzを目安に20~25kHzあたりが上限の再生機器が多かったのに対して、周波数上の要求性能は約倍。

スマホの性能アップなどによって、ダウンロードした圧縮音源でカジュアルに音楽を楽しむ層が増えて、地盤沈下しつつあったオーディオ界隈のメーカーにとって、この「ハイレゾブーム」は一つの光明で、さまざまなメーカーが「ハイレゾ対応機器」を発売した。

ただ定義上は40kHzを再生できれば良いワケで、それが必ずしも美しい音、楽しい音に結びつかないのは、この趣味の分野の難しいところ。

 



そんな中、全製品「ハイレゾ対応」、そしてヴォリュームゾーンは決して高価な商品ではないため設計は日本でも生産は中国や東南アジアというメーカーが多い中「Made in Japan」であることにこだわっているメーカーがある。

ホシデン株式会社。接続部品や液晶関係、無線モジュール、自動車部品、そして音響部品などを扱う戦後間もなく創業した大阪のパーツメーカー。基本B2B商売の会社なのだが、一時期TVやラジオの片耳イヤホンを出していて好評だったなどB2C商売もしていたことがある。その流れでオーディオ分野販売会社として株式会社サトレックスを立ち上げたが、知名度が低く、一時期撤退を余儀なくされる。

そんなSATOLEXがハイレゾブームの盛り上がりに、「うちのパーツなら対応可能」と2016年に満を持してリリースしたイヤホンが「Tubomi」。

中も見えないシンプルパッケージ
中も見えないシンプルパッケージ

小型の筐体で9mmのダイナミック型ドライバー一発のイヤホンだが、再生周波数帯域として20~45000Hzまで対応しており、いわゆる「ハイレゾイヤホン」に相当する。

9g(実測)。カルい!
9g(実測)。カルい!

このTubomiシリーズには樹脂筐体のDH298-A1、アルミ筐体のDH299-A1、そしてつい先日(2016年11月)発表された真鍮(ちゅう)ハウジングのDH302-A1がある。自分は展示会でこのメーカーを識ったので、当時発表済みだったDH298-A1とDH299-A1を聴いたのだが、あえてこちらのスタンダードなTubomiを摘んだ。それはコストパフォーマンス。

聴き比べれば締まった低域のアルミハウジングのDH299-A1の方が確かに良かったのだが、価格的に2倍以上の違いがあるかというと...(つか、DH299-A1は価格との釣り合いで言ったら決して悪くはないんだけれど、このプラ筐体のものの出来が良すぎる

付属品はこれだけだが、この価格でイロイロ付いたらその方がヤバイ
付属品はこれだけだが、この価格でイロイロ付いたらその方がヤバイ

というか、この蕾ちゃん、音質にステ全振りで、付属品も4つの大きさのイヤーチップのみ(1種装着済み)のシンプルさ。外装も紙製でポーチやリモコン、マイクなどという付属品・付加機能は一切なし。ほっそいケーブルは絡まりづらいように表面加工はしてあるが、絡み防止スライダーもなし(←これは付けてほしかったかも)。でも自分のようなイヤホン=音を聴く装置=音が良ければ他のことには目をつぶる、という層にはメチャアピールする。また実売価格4000円以下でDAP付属イヤホンからのステップアップにはまさに適任。この低価格は、実はイベントで学生のお小遣いの額を調査し、その範囲内で買えるもの、と頑張った結果という。

そんな、音マニア/コスパ重視の人々に向けたこのイヤホン、果たしてどんな音なのであろうか。例によってミクDAP接続で100時間くらい慣らしたあとの音は以下の通り。

 

*試聴環境はAK120BM+

直刺し。

 



まずはcybercatのイヤホン評価曲の一つ、ジャズトリオ生演奏の阿吽の呼吸まで感じられるヴィヴィッドで近い録音の吉田賢一ピアノトリオのハイレゾ音源(PCM24bit/96kHz)“STARDUST”

の「Never Let Me Go(わたしを離さないで)」は、スネアのリムショットとハイハットのフットクローズが「立つ」。ライドシンバルのレガートも右chで心地よく広がり、それがセンターあたりまで出張ってるのが良く判る。シンバルの響きが美しく、これはハイレゾ!と言う感じ。また「まるめ」の音だが、ベースは大きめでグルーヴィン。シンバル優勢で高くなりがちのこの曲のバランスをグッと地面に繋ぎ止めている。

もうひとつ評価曲としては外せない、宇多田ヒカルのハイレゾコレクション“Utada Hikaru SINGLE COLLECTION VOL.1+2 HD”

から「First Love」(PCM24bit/96kHz)。これは常にヒカルの声が強い。そして空間が広い。ギターの音域・音色はさほどに来ないようで少し遠いが、その分ストリングスの広がりが素晴らしい。「Never Let Me Go」では良く聴こえたのでもっと「くる」かと思ったが、ベースは1コーラスサビの登場時はさほどに主張してこないのは意外な感じ。でも頭から通しで鳴る2コーラス目は意識をそちらに持って行かれそうな程主導権を握る。音場の真ん中はヒカルの声との一騎打ちという感じ。各楽器のバランス的にはあまり聴いたことがない感じになるし、「リアルさ」とはちょっと方向性が違うのだけれど、「広さ」とストリングスの響き、ヒカルの声とベースの支配で曲の骨と肉付けがしっかりしていて、これイイナ。

CDから起こした曲(FLAC16bit/44.1kHz)はまず、節操のない雑食cybercatでも最も好みの分野、ジャパニーズフュージョン。ラッパー&ベーシストの日野'JINO'賢二をゲストに迎えたT-SQUAREの「RADIO STAR」をセルフカバーアルバム“虹曲~T-SQUARE plays T&THE SQUARE SPECIAL~”

から。これは左ch端のハイハットのタッチが良く判り、途中の河野啓三のリリカルかつ「攻めた」ピアノソロも音が立ってイイのだが、肝心のベースが.....ちょっと重低音の上のあたりの「低音」にピークがあって、そこの量が多いので抜けきらない。途中のスラップソロも、沈むプッシュはイイのだけれど、プルの弾けがもう少し欲しいかな。

最近お気に入りの女性声優あやちゃんこと洲崎綾の清純な色気♡注入の全力歌唱、デレマスの人気曲「ヴィーナスシンドローム

は、打ち込みのバスドラは少しアタックが弱めでモコり気味なところはザンネンだが、16ビートのハイハットやリバースサンプリングのシンバルが良く出てるので閉塞感はない。あやちゃんの声も良く出てる。特にリズムがオフるブリッジの部分が「広さ」を感じるのは良いな。

古典ロック「Hotel California」はEaglesのアルバム"Hotel California"

から。元々ピラミッド型の古めの音造りの曲だが、これいいな。まず左右に広い。そして「重」低音ではなくその上のあたりにピークがあるこのイヤホンの良さが出て、Randy Meisnerの印象的なベースラインがグルーヴを造り出す。この頃の流行で左右いっぱいに広げられたドラムスの録りではシンバルの連打で端から端に音が飛ぶ。2ndコーラスサビで泣くピッキングハーモニクスのキレもいい。

最後にオーケストラ系楽曲として交響アクティブNEETsの“艦隊フィルハーモニー交響楽団”

から「鉄底海峡の死闘」。特に音量を上げるとちょっと音が飽和気味だが、ダイナミックでスリリングなこの曲を、中低域にピークがあり左右に広いこのイヤホンで聴くのは悪くない。弦楽の支える低音はないが、中央ではティンパニとスネアドラムがこれでもかと盛り上げるリズムがグングン前に進ませ、右の展開のラッパ系と左に展開するストリングスがオケの所帯を大きく見せる。時々切り込まれるパーカッションの高域の冴えは立っているし。

バランス的には若干中低域にピークがあるほかはかなり素直で「ハイレゾ」を主張した音ではないが、左右の「広さ」が印象的で、端に配置されることが多いシンバルやパーカッションの高域の美しさが楽しめるイヤホン。その中低域のピークがハマる曲とそうでないのがあるのがちょっと曲を選ぶけれど、これだけ安くてこの音なら十分「アリ」。

ハイレゾには興味はあるけど高くて...とお悩みのあなた?
高音の煌びやかさなどがバリバリのこれ見よがしの「ハイレゾイヤホン」ではないけれど、「初めの一歩」としては決して悪くはないイヤホンです。

カナル系は5.8mm(実測)。やや太めかな。
カナル径は5.8mm(実測)。やや太めかな。

※2016年11月にe☆イヤホンで開催されたフェアで、発売直後の真鍮ハウジングのDH302-A1と非売品の銀ボディ・銀線のTubomiを、既発売の本品とアルミハウジングのDH299-A1を含めた全種で比較試聴。真鍮は締まりと高音の伸びがアルミをさらに凌駕していたし、銀ハウジングのは銀線のイメージからもっと神経質なのかな、と思っていたが上だけでなく下もキッチリ出ていてさすがに良かった。でもドライバー自体はこのベーシックなDH298-A1と全て共通とか。たしかに「芯」となる音は変わらない。そういう意味ではやっぱりコストパフォーマンスでは群を抜いてるな、こいつ。

【仕様】
型式:密閉ダイナミック
ドライバーユニット:Φ9㎜
音圧感度:104db/mW
最大入力:100mW(JEITA)
インピーダンス:32Ω
再生周波数帯域:20Hz~45,000Hz
質量:10g(コード・プラグを含む)
コード長:約1.2m
コネクタ:Φ3.5㎜ 金メッキステレオミニプラグ(ストレート型)
付属品:イヤキャップ(XS/S/M/L)、取扱説明書(保証書)

メーカー商品紹介ページ

更新: 2016/11/14
高音

高音域はやや弱いが、きれいに伸びている「カド」のない音

高域が伸びるイヤホンは刺さるギリギリのところまで攻めている場合が多いが、優しい音でギラギラ感はない、でも気が付くとちゃんとそこにある。そんなあまり主張しない音だけれど、きれいに伸びている。

更新: 2016/11/14
中域

尖ったところがなく素直で聴きやすい

このイヤホンの難しいところは突出した特徴が少ないこと。その分ジャンルを限らず広く使えるが、「この曲はこのイヤホンぢゃなきゃヤダァァァァァ」というようなドツボ/ドハマリ系の楽曲を持たないところが。ただ平均点はとても高い。

更新: 2016/11/14
低音

若干中低域にピークがありソースによってはヌケ切らないが、量は十分

「重」低音の上あたりに弱いピークがあり、低音域のトータルの量としては十分。ただ、スラップベースのプルやフロアタムのアタックなどが弾けきらない感じがあり、曲によってはややこもって聴こえる

更新: 2016/11/15
音像

広めで分離と定位が良い

高域に棘がないので、普通端に配置されることが多いシンバルやパーカッションの音で広さを「強調」はしないが十分広く、各楽器の分離が良い。

  • 購入金額

    3,590円

  • 購入日

    2016年05月29日

  • 購入場所

    ポタフェス名古屋会場(e☆イヤホン)

22人がこのレビューをCOOLしました!

コメント (4)

  • れいんさん

    2016/11/15

    お手頃な価格ですなぁ
    大阪人らしさを感じますわ
    二度付け禁止!
  • cybercatさん

    2016/11/15

    これは、ホントにいいですワ。展示会で何度も開発の方含めたSATOLEXの方とも話してますが、裏話も結構聞かせてくれるし、みなさん実直で、それがそのまま音に出てきた、という感じ。特に飛び抜けてるところがないのでキョーレツなアピールポイントはないんですが、5000円以下でリモコンなしのイヤホン1つ選んでくれ、と言われたらほぼ一択ですな。
  • がじおさん

    2016/11/15

    随分とお安く手に入るんですね。トライしてみようかしら。(^^
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