先日来、LP盤のアルバムのレビューを上げていますが、これは以前「4枚まとめて40%OFFセール」を利用して買ったアルバムがあるためです。ポール・サイモンの「Stranger to Stranger」は新譜なので買うつもりでいて、残りはリマスターや重量盤で欲しかったものを選んだという感じです。
つまり、未掲載のアルバムがもう1枚ある訳ですが、それはまた後日ということで…。
この「The Nightfly」は今更説明不要と思える名盤ですし、世界初のフルデジタル録音ポピュラー音楽アルバムと言われていて、そのオーディオ的なこだわりも高い評価を得て各所で試聴ディスクとして使われている作品でもあります。
当然先日取り上げた「Hotel California」と同様に通常盤のLPやCDは既に所有しているのですが、オーディオ的な価値の高い作品であるだけに、リマスター盤で聴いたらどうなるかという興味があったため、購入品の中に加えました。
収録曲は以下の通りです。
明らかな進歩と残念な変化と
まずは音楽的な部分についてですが、Steely Dan時代の後期以降のDonald Fagenが最も充実していた時期の作品であり、とにかく楽曲にも演奏にも隙が無いという印象を受けます。
オープニングを飾る「I.G.Y.」は収録曲の中でもTV-CFなどでも使われ特に有名な楽曲ですが、歌詞まできちんと読むと曲も詞も、恐ろしく奥深いものであることが解ります。詞で直接的に表現されているのは一言で言ってしまえば「未来文明によるバラ色の世界」でしかありません。しかしタイトルの「I.G.Y.」がInternational Geophysical Year(=国際地球観測年)の意味であること、そしてこの曲が既に1980年代に書かれていることを考慮すれば、勝手に未来に楽観的な幻想を抱いている当時の、そして現代の人類への痛烈な皮肉であることが読み取れるというものとなっているのです。
さらに5曲目の「New Frontier」は核シェルターの中でパーティーを開いているという情景を描き、見方によっては「I.G.Y.」に対してのオチをつけているという解釈も出来るなど、とにかくアルバム全体にわたり、歌詞、楽曲、演奏のどれを見ても全く隙を見せないという印象の強い作品なのです。個人的にはLPでいうA面側の構成が特に気に入っています。
特にDonald Fagenは演奏について完璧主義者として知られ、後期のSteely Danの作品では自分自身も含めたメンバーの技量が足りないとして、ほぼ全ての演奏を一流のゲスト陣に任せてしまった(それも気に入った演奏となるまで何人もとっかえひっかえ使った)という逸話もあるほどで、本作の参加ミュージシャンの質・量は想像を絶するほどといえます。Wikipediaの本作の項にリンクを貼っておきますので、そちらの「収録メンバー」をご参照下さい。
さて、問題の音質面については、まず解像度やクリアさは当初のLPを大きく超えています。恐らくSHM-CDで出ているリマスター盤とほぼ同等の音質なのではないでしょうか。ハイハットの細かな音などここまで記録されているのかと驚くほどです。
しかし、特にスピーカーで聴いたときに判ると思うのですが、初期の盤ではとにかく全ての演奏と、それにより作り上げられた空間が完璧なバランスだったと思うのですが、リマスター盤では何かそのバランスがずれてしまっているという印象を受けるのです。元々の「唯一無二」ともいえる音質だったものが、「ごく普通の高音質盤」という印象に変化してしまったのです。何故そう感じるのか説明が難しく、またヘッドフォンだけで聴く分にはそこまで感じられないのではないかという差ではあるのですが…。
元々の音質に特筆すべき良さを持っていた作品では、リマスター盤が出ても必ずしも良くなったとは感じられないことがあるのですが、TOTOの「THE SEVENTH ONE」と同じく、本作もそのような印象を受けました。
もちろん、音楽的には素晴らしい完成度の作品(時に窮屈さすら感じるほどです)ですので、アルバムとしてはお薦めである事は間違いありません。
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購入金額
3,332円
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購入日
2016年07月11日
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購入場所
ローソンHMV
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