レビューメディア「ジグソー」

SpinFitが2対ついてこの値段なら全然アリ!

最近、世のオーディオの指向が据え置きからポータブルオーディオに遷移しているように思う。

これは住環境の問題や勤務時間の多様化で、家である程度の音量を出して音楽を聴く、という行為がしづらくなってきているのとともに、楽曲のデジタル化で音楽は所有するアイテムというより必要な時に消費するデータ、とパラダイムシフトしてきたことによるのだろう。

それでも「いい音で音楽に浸りたい」というのは欲求として少なくなったわけではなく、DAPやポタアン、ヘッドホンなどに大枚をつぎ込む人も少なくない(cybercatはCIEMだけよ!)。

そこまでの投資しなくとも少しでも良い音で聴きたいという人は少なくないようで、ヘッドホンやイヤホンを片手...どころか両手両足の指を駆使しても数えられないほど持っている人もいる(..だれとは言わない)。

ま、世の多くの人は「そこまで凝らなくても...」ということなのだが、比較的低価格にもかかわらず音色だけではなく装着感も劇的改善をする場合もあるパーツがある。

それがイヤーチップ。要するにイヤホンと耳の穴の間に挟まり、密閉性と装着安定性を担う柔らかい素材の「アレ」。

一般的には湿気に強く、複雑な成形にも対応でき、着色も容易なシリコン系の素材が使われることが多い。次に多いのが変形が自在で耳の穴の奥に突っ込むと膨らんで高い密閉性を持つフォーム系素材。

さらにシリコンの「傘」の中にジェルを満たしてその弾力による密閉性向上を狙ったジェルタイプ

や複数の素材を使ったハイブリッドタイプなどもある。

そんな中、素材的には一般的なシリコンタイプに属し、トリプルフランジ(いわゆる3段重ねキノコ型)など外形的な特徴があるわけでもないあるイヤーチップが話題を呼んでいる。

それが「ちょんまげ君」や「Donguri(どんぐり)」など印象的なネーミングと凝った構造のイヤホンをリリースしているブランド=茶楽音人(さらうんど)のリリースしているイヤーチップ、「SpinFit(スピンフィット)」。

耐久性に優れるが密閉性が低いシリコンと、密閉性は高いが高音がやや減衰する傾向があるフォーム。理想を言えばシリコンの耐久性でフォームの密閉性、そして高音が減衰することなく聴こえるイヤーチップというのが理想。それに対する一つの回答が「SpinFit」。

これは一般的なシリコン素材なのだが、チップの構造に特徴があり、途中のくびれ部でチップの頭が傾く。これにより耳の穴の中で湾曲に沿って首が曲がることになるので、それによって
・密閉性の向上
・高音域音質の改善
...を達成したというチップ。
「傘」の部分をひっくり返したところ。ここの「くびれ」がポイント。
「傘」の部分をひっくり返したところ。ここの「くびれ」がポイント。
密閉性の向上は耳道のカーブに沿ってチップ部分が曲がるため、より深く差し込むことができることによるのだが、後者に関してはチップの頭が首を振ることによって、耳の奥に向かってチップの穴が正対し、直進性の高い高音域が耳道壁にぶつかって拡散したり吸収されたりするのを低減する、という仕組み。比較的高価(2対で1000円前後)だが、フォームタイプよりは耐久性も高く、最近人気のチップ。

そのチップが2種1対ずつ付録についた雑誌が本品、「プレミアムヘッドホンガイドマガジン Vol.6」。
今回、付録目当ての購入
今回、付録目当ての購入
まず、本誌。
この本のAmazonのページの目次にはあまり詳しくないが、実はCIEMの小特集が三つもある。CIEMスキーなcybercatとしては興味を惹かれた。

と言ってもふたつは広告連動(複数のCIEMメーカーの正規代理店ミックスウェーブ関係)。一つ目はUnique Melodyの新製品、MASONⅡ customと人気商品マベカスことMAVERICK customの紹介。
MASONⅡはまだ輸入元のHPにも載っていない新機種
MASONⅡはまだ輸入元のHPにも載っていない新機種
もう一つは人気CIEMブランド1964 EARSの新しいブランド=64 AUDIOの特徴ともいえる機構、第二の鼓膜「ADELテクノロジー」の話。ただこれに関してはメーカーの方針変更で、今後「ADELテクノロジー」から「apexテクノロジー」の搭載モジュールに変更となるとの発表があったばかりなので、間が悪かった。

残るひとつが、「カスタムIEMの世界」と題して、ONKYO、UltimateEars、Westone、JH AUDIO、FITEARにJUSTEARという6ブランドの紹介と主力機種の概説。国産ではcanal works、輸入勢だとNoble AudioやUnique Melodyあたりの人気メーカーが入っていないなど、「主要」ブランド網羅にしてもちょっと偏ってはいるが、わずか8ページの記事にしては作成方法(発注方法)まで含めた初心者向けの内容から、メーカー横断の音質傾向チャートなどもあって興味深かった。
記事の半分くらいはONKYOのCIEM製作体験記。のこりは各メーカーの紹介。
記事の半分くらいはONKYOのCIEM製作体験記。のこりは各メーカーの紹介。
価格から言えば本誌の部分は「約300円分程度」(付録の「SpinFit」のうち、ステム径が細いSPFT RD-02Mが2対で1400円弱、ステム径が太いSPFT RD-01Mの方が1000円弱なので付録が約1200円と考えれば)なので、それにしては読みごたえがあってマル。

お目当ての「SpinFit」の方は実際聴いてみた。
イヤーチップは段ボールで養生され、潰れないようになっている
イヤーチップは段ボールで養生され、潰れないようになっている
普通は同種2対の販売なので、異種1対ずつというのもマル
普通は同種2対の販売なので、異種1対ずつというのもマル
このイヤーチップは先に説明した通り、フォームタイプ並みの密閉性と高域特性の向上がウリ。となると「現在フォームタイプのチップを使用していて」「高域がもう少し伸びてほしい」イヤホンがあれば対象としてベスト。

...cybercatがイヤホン持ちだとは言っても、そんな都合の良いイヤホンは...あったw
   ↑つかこの二つにつかえるな、と思って本誌を購入したのだが>^_^<

一つが「えげつなくない低音LOVE」なSE215 SPECIAL EDITIONことSHURE SE215SPE-A。

この機種にはシリコン系のソフトフレックスとフォーム系のソフトフォームの2種のイヤーチップが標準添付されているが、遮音性を求めてソフトフォームを使っていたので、ちょうど該当。

あとひとつが「低音だけじゃないんだゼ。長く付き合って良さが判るヤツ」なPHILIPSのSHE9000/98。

こちらも、添付チップは硬さ(と色)が異なるシリコンを組み合わせたシリコンチップと、フォーム系イヤーチップの雄、Complyが添付する。小さいくせに濃密な低音を叩き出すこのイヤホンには密着性の高いComplyがキャラクターに合っていたのでそちらを使っていたのでこれも条件合致。

どちらもレビュー表題に「低音」があるように、特徴は中~低音のエネルギー感で、高音は弱い。それがこのSpinFitでどう変化するかが、興味があったワケ。

評価曲としてはヴィーナ洲崎こと洲崎綾が渾身の色気で?表現するロボットアニメ主d...もとい、デレマスの人気曲「ヴィーナスシンドローム」。

これは打ち込み主体の4つ打ちのビートが際立つ曲で、大型のヘッドホンなどで聴いても低音ズゥムズゥムな曲。ただ低音に振ったイヤホンで聴くと低音過剰で、ぺっちゃんの歌の表現や中域のシーケンスパターンの広がりなどがマスクされてしまう曲でもある。むしろ低音抑えめの中高域が際立つイヤホンで聴いた方が広がりなどが感じられてイイ感じになる。これをあえて低音多めのイヤホンで聴く、という試み。

まずSHURE SE215 SPECIAL EDITION(SE215SPE-A)。
レビュー時のフォームチップでの評価は、高音★3、中域★3.5、低音★3.5、音像★3.5というもの。中低音はガッツがあるが上はあまり澄んでおらず、広さよりも塊感という印象。これをフォームチップともう一つの標準添付チップのシリコン、そしてSpinFitの3つで評価した。
SHURE に合うSpinFitは細いステム向けのSPFT RD-02M
SHURE に合うSpinFitは細いステム向けのSPFT RD-02M
このSHUREのイヤホンは、ユニットが収まるボディ部分から生える?ステム(チップにつながる管)に角度がついていて、ユニットも強く癖のついた耳かけケーブルで固定されるので、耳への挿入方向の自由度がない。すなわち耳の穴が下向きであろうが上向きであろうが、前向き開口であっても後ろ寄り開口であってもステムの挿入角はあまり変わらず...ということは耳道の形や方向がステムとはまるで違う方向になってしまう人もいる、ということ。要するにステム開口部の延長線上に耳の奥が位置しない(耳道壁に音がぶつかる)という場合もあるのだろう⇒たぶんcybercatもそうだったのか?このイヤホンはSpinFitで化けた。
SE215SPE-Aはステムの方向がかなり前に向いて付いている
SE215SPE-Aはステムの方向がかなり前に向いて付いている
比較するとソフトフォームでは、Aメロは4つ打ちのバスドラが支配的で、ぺっちゃんのヴォーカルはやや引っ込んだ感じ、途中で入ってくるシーケンスパターンも「良く聴けばあるな」という感じで目立たず。ドラマチックなサビはエネルギー感あふれているが、優勢なのはビートを支える中央の中低域で、ヘッドルームは広くない。

もう一つの添付品、ソフトフレックスは低域は少し下がるのでそこまで支配的ではなくなるが、チップの開口部が細いからか、高音は思ったほどには伸びない。ぺっちゃんのヴォーカルはビートと釣り合うくらいにはなるので、この曲に関してのバランスはソフトフォームよりは良い。キラキラしたシーケンスパターンも表に出てくる。
モチロンSpinFitにしても装着前のチップの角度が変わるわけではないのだが...
モチロンSpinFitにしても装着前のチップの角度が変わるわけではないのだが...
これがSpinFitになると低音自体はソフトフレックスとソフトフォームの中間くらいに感じるが、低域の「出」の量がその程度というよりは、高中域がより出るので相対的に引っ込んだ感じになるだけで絶対量は結構ある。ぺっちゃんの歌はソフトフレックスよりは相対的に引っ込んでいるが、中央にぴたりと位置し、左右に駆け回るのが明確にわかるシーケンスパターンとも完全に分離している。ヘッドルームの絶対値は相変わらず広くはないが、他の二種の標準添付チップと比較すると、全然広く、結構いい。

もう一方のPHILIPS SHE9000/98は、レビュー時は高音★2.5、中域★3.5、低音★3.5、音像★3という評価。SE215 SPECIAL EDITIONよりいずれの指標も悪いが、価格も半分以下なので相対評価としては悪くない。小さいハウジングからは想像つかない腰のある低音を聴かせるハイコストパフォーマンス機。ただやっぱり低音中心にねじ込んでくるようなサウンドキャラクターで、高域まで伸びた女性ヴォーカルなんかはちょっと...という感じの機種。
ステムの膨らみ(矢印部)が太いので結構キツめ
ステムの膨らみ(矢印部)が太いので結構キツめ
今まで使っていたComplyに関してはまさにこの傾向で、ゴーリゴリの低音が攻めてくる。上はやはりあまり伸びず、塊感で押し切られる感じの音となる。ややヴォリュームを絞った方がサウンドキャラクターとしては改善する感じ。
Complyはさすがの密閉性だが、高域がやや陰る
Complyはさすがの密閉性だが、高域がやや陰る
硬めのステム接合部と柔らかめの傘部との2種の硬さのシリコンを使うシリコンチップは、密着性が悪くやや低音が抜ける分(Complyが材質的に高域吸収しそうなのも影響?)中~高域はやや優勢となるためぺっちゃんのヴォーカルはよりわかる。ただし音場はさほどに広くはなく、ごちゃとしたまま。
太さ的にはギリで、ステムの部分が膨らんでいる
太さ的にはギリで、ステムの部分が膨らんでいる
これをSpinFitにしたが、こちらはSHUREほどには変わらず、標準添付のシリコンと大差ない感じ。もともとユニット部が非常に小さく、ケーブルも普通の付き方なので、耳の奥に向けて割に自由にユニットを位置させることができるので「首ふり」の効果が少なそうなのに加えて、ステム径がSpinFitを付けるには限界に近い太さで、チップのステム部分がかなり膨らんでいたので、「くびれ」がうまく機能していないのかもしれない。いずれにせよSHUREのようには「化けなかった」。

...という感じ。SE215 SPECIAL EDITIONにはもうこれでイイかな、という感触すらあるSpinFit。そんな高性能イヤーチップが試せて1500円ならこの本安いかな。今はまだ出版後3ヵ月くらいの最新刊扱いなので値下がりしてないけれど、来月末くらいには「Vol.7」が出そうなので今後値崩れでもしたら付録狙いのみでも購入は、アリ。ただ中古品はほぼ付録なしなのと、一部の店では定価以上のボッtt...販売なので気を付けて。

【おもな内容】
■カバーストーリー
 いま聴くべき、5つ星ヘッドホン
 SENNHEISER「HD800S」「HE-1」、PARROT「ZIK3」、SHURE「KSE1500」、
 KLIPSCH「X20i」、CROSSZONE「CZ-1」
■SPECIAL 第1特集
厳選プレミアムモデル
・PART1 日本のヘッドホン傑作選
 Audio-Technica「ATH-CKR100」、ELECOM「EHP-R/HH1000A」、
 TECHNICS「EAH-T700」、FOSTEX「TH900mk2」、STAX「SR-L500」、
 RADUS「HP-TWF41」
・PART2 世界のヘッドホン傑作選
 beyerdynamic「T5p 2nd Generation」、RHA「T20i」、EARIN「EARIN」、
 Westone「ES60」
■SPECIAL 第2特集
・ハイレゾ大特集/ハイレゾプレーヤー徹底ガイド20機種
 ACOUSTIC RESEARCH、ASTELL&KERN、CAYIN、COWON、FIIO、HIFIMAN、
 IBASSO AUDIO、LOTOO、LUXURY&PRECISION、ONKYO、PIONEER、
 QUESTYLE AUDIO TECHNOLOGY、SONY、VENTURECRAFT
・ハイレゾ試聴音源 聴きどころガイド
■ワイヤレスヘッドホン特集
■カスタムIEMの世界
 ONKYO、UltimateEars、Westone、JH AUDIO、FITEAR、JUSTEAR
■ヘッドホンプレゼン大会 
・音楽ジャンル別、選び方ガイド
■ポータブルヘッドホンアンプ特集
■イヤホン/ヘッドホン音質傾向カタログ完全版 全300機種
■e☆イヤホンクリニックが伝授!ヘッドホンメンテナンス術
■コラム①フジヤエービック「春のヘッドフォン祭り」
■コラム②サザン音響「いまこそ!耳の健康を考える」
■特別付録
 シリコンイヤーチップ「SpinFit(スピンフィット)」
  • 購入金額

    1,500円

  • 購入日

    2016年08月26日

  • 購入場所

    カルコス

25人がこのレビューをCOOLしました!

コメント (10)

  • jive9821さん

    2016/09/02

    SpinFit付きで1,500円なら結構割安感はありますね。試すネタはさほど持っていませんが、買ってみても良いかも…。
  • cybercatさん

    2016/09/02

    そうですね。自分はステムが細いタイプは、今のところこのSHUREのSE215 SPECIAL EDITIONしか持っていないんですが、これのためだけに1400円出して試そう...とはなかなか。今回は太いタイプ1対と細いタイプ1対のお試しセットなので、いろいろ試せそうだったので購入しました。傘の部分のサイズ的にはひょっとしたらSの方が合うかな、とも思ったんですが、モノは試しと。
  • がじおさん

    2016/09/02

    SpinFitですか。私、最近この手の物を全く見ていなかったの全然知りませんでした。(^^;;
    とてもためになるレビューでした。
    私はComplyの密着感が好きで使い続けていますが、おっしゃる通り高域がやや陰るのは否めません。逆差しにして使っていますが、もしよろしければComplyの逆差しとSpinFitの違いなんかお教えいただけますと勉強になります。
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