世の中、オーディオ製品の適合ジャンルとか好きな音楽のジャンルに「アニソン向け/アニソン」といわれるものがある。
...「アニソン向け」ってなんね?
アニソン=アニメソングには、ロボット物の激しいロック調のものもあれば、少女向けアニメのようにアイドル曲調のものもある。さらに人情もの日常アニメのちょっと「和」を感じるようなものもあるし、王子様が出てくるような作品ではクラシック調のものもある。
楽曲の音楽ジャンルとしては「アニソン」って??
そんな正体不明の「アニソン向け」を謳うイヤホン。
今はコンデンサやHDDのヘッドなどBtoB事業が会社の手掛ける分野のほとんどで、一般的に識られることがなくなってきたが、かつて20世紀には懐かしの「コンパクトカセットテープ」や、数年前まではイメーションと組んだ光学記録メディアでその名が識られていた「TDK(かつての東京電気化学工業株式会社)」。
社名を覚えている人もほとんどが「記録メディアの会社」として記憶していると思うが、同社はかつてヘッドホンやイヤホンを手掛けていた。折りたたみできるBluetoothヘッドホンや、あえてどんなパートもよく聴こえるというイヤホンではなく、ギターやヴォーカルにあらかじめフォーカスしてチューニングした「サウンドチューニングシリーズ」のイヤホンを出すなど個性的な作品をリリースしていた。
そんな同社がオーディオ製品市場向け製品の有線イヤホンとしては最後にリリースしたのが、「アニソン向け」を謳う「neo:n」シリーズのイヤホン。上から「neo:n 03」、「neo:n 02」、「neo:n 01」の3種がリリースされたが、最上位の「neo:n 03」でも当初価格3000円程度で、いわゆる「カジュアルプライス」の製品。
一番印象的なのが、ロボットアニメなどをほうふつとさせる鮮やかなカラーや、キャノピーを連想させる透明パーツなどデザイン面だが、音自体もソコソコよいとの噂でちょっと気になっていた...が。
...TDK(厳密にいえばTDKから事業譲渡を受けたイメーション)が、この製品発表後半年でこの分野からの事業撤退を発表、2015年末限りで撤退したので、聴く機会がないまま終わった...
そんな状態だったのだが、撤退後に通販で投げ売りされているのを発見、最も人気が高く品薄だった「ブラック」モデルも残っていたので購入してみた。
丸みを帯びた外装ケースは特徴的だが、残念ながらキャリングケースではない。内容物は、本体にイヤーチップ4サイズ(M装着済み)、説明書とシンプル。外見的特徴としては何といっても色?今回選んだ色は「ブラック」なのだが、「世界一有名なあのボカロ」のカラーリングをパk..リスペクトしたようなパステルグリーンのケーブルが印象的。
さらにユニット部は可動機構があり、何となくロボットの上腕部のようでもある。
上(L側)のユニットは一番伸ばした状態、R側ユニットは一番曲げた状態
世の評価では、この機構のためハウジングが「長く」なり、おさまりが悪いとのコメントもあるが、cybercatの下向き開口耳道には、一番伸ばした状態で挿入すると、ちょうど耳珠と対珠のところにすっぽりと可動部が収まり、その部分で固定されるため悪くないフィッティング。
デザイン的にはミクウォークマンとピッタリなこのイヤホンだが、どんな音なのだろうか。いつも通りまずハイレゾ2曲を聴いてみる。再生環境はハイレゾ曲も評価するので、ミクウォークマンではなくDP-X1A
直挿し。
吉田賢一ピアノトリオの“STARDUST”
から「Never Let Me Go(わたしを離さないで)」は、かなりカルい。ウッベの沈み込みはなく、弦の鳴りも響かない。ピアノも少し奥に引っ込みイマイチ。ただスネアのブラシはソコソコよい。
次におなじ24bit/96kHzで宇多田ヒカルの「First Love」を“Utada Hikaru SINGLE COLLECTION VOL.1+2 HD”
から。この曲はヴォーカルが聴き取りやすい。2ndコーラスめからぐっと沈み込むベースの響きやヒカルの微ハスキーな声の色気などはないが、ヴォーカルがとても目立つフォーカス。
CDから起こした16bit/44.1kHzのFLACに移り、同じ女性ヴォーカル曲では、女性声優洲崎綾(あやちゃん)の沁みる曲「空」。
これはギターの響きが気持ちいい。あやちゃんの声も、「ニュアンス」というような微細な部分はわからないが、前に出る感じで悪くはない。
同じあやちゃんの曲でも音飽和系デレマス曲、「ヴィーナスシンドローム」
は...これ、びっくりするほど良い。いわゆるハイファイガーとか分解能ガーとか表現力ガーというような方向性の「良さ」ではないのだが、ものすごく「ヴォーカルが前に来る」。ヴォーカルの後ろで忙しなく鳴り続ける鞭のようにしなるハイハットの音や、過剰気味のバスドラ4つ打ちの低音域、ヴォーカル領域とぶつかる煌びやかなシンセ音などから、フワっとヴォーカルが前に出て、いいバランス。特に音量をキモチ落とした時のバランスが秀逸。この曲、伴奏の過剰な音の奔流と刺激的な音作りで、中途半端に情報量が多いイヤホンだと、あやちゃんの表現した健康的な色気伴う女子大生アイドル=新田美波の声が埋もれてしまうのだが、限られた情報量が良い方に転んで、バックをうまく「いなして」ヴォーカルを目立たせる。
一方、上から下まで必要な“艦隊フィルハーモニー交響楽団”(交響アクティブNEETs)
の「鉄底海峡の死闘」のような曲は、重厚さのかけらもなく、魚雷1本=1フレーズ聴いただけであっけなく轟沈。なんにせよ弦の低音域が全然響かないので迫力がまるでない。
わりと新しめのインスト楽曲、T-SQUAREの「RADIO STAR」をセルフカバーアルバム“虹曲~T-SQUARE plays T&THE SQUARE SPECIAL~”
から。これもせっかくのJINOのファンキィなベースプレイは薄くてイマイチ。ただギターのミュートカッティングは結構良い感じ。
帯域が限られているEaglesの「Hotel California」
のような古典ロックは、まとまりよく聴かせあまり「破綻」はない。ただこの曲はDon Henleyのヴォーカルの帯域がこのイヤホンの性格とマッチングが完璧ではないようで、さほどには前に来ない(男声だから?)。
開発の方向性としてはいわゆる「ドンシャリ」系のサウンドを狙ったようだが、「ドン」は軽めの「トン」で「シャリ」も「近め」の中高域強調で「重低音」や「超高音」とは無縁。いわゆる「高音質」のイヤホンではない。
ただ、意外なほどにボカロ曲や女性ヴォーカルのハイスピード曲には合っていて、
ミクの早口言葉ソング?や「ボカロ曲を歌ってみた」系
などではバックに埋もれずヴォーカルを前に出す(ひょっとしたらバックの情報量を再現しきれていないだけかもだが)。
特に良いのがバックうるさめの多人数歌唱曲。
いわゆる「合唱」となるところもヴォーカルを前に出す。一番良かったのが19人同時歌唱でごちゃっとした感じのアニメ主題歌、バトルガールハイスクールの「ホシノキズナ」。ハモリではなく学校授業合唱風の全員歌唱で声が「通って」なく、バックがハイスピードで刺激的なこの曲、おいしく聴けたためしがないのだが、ナローな帯域で、中域にいくつか凸凹とピークがある感じのこのイヤホンに、こういったハイスピード多人数歌唱曲はツボはまりにはまっている。うまくバックの過剰さを抑え、ヴォーカルを前に出すのがすごく聴きやすい。
特性的に帯域ナローで音にクセがあり、一般的?とは言えないイヤホンだけれど、特定のシチュエーションではそれがツボはまりにはまる。それが「アニソン向け」なのかはわからないけれど、確かに(やや音量絞り目にした時の)一部のアニソン/ボカロ曲では驚くほど良かった。
1000円以内なら一つ持っていてもよいカモ...そんな気にさせた個性あるイヤホンでした。
ま、そうはいっても一番のウリは色、なんだけれどね?w
【仕様】
形式:ダイナミック型
プラグ:L型3.5mm
ドライバー:φ5.5mm
再生周波数帯域:10~22,000Hz
音圧感度:91dB/mW
入力インピーダンス:16Ω
ケーブル長:1.1m(Y型)
ケーブル仕様:シルバーアロイケーブル
付属品:イヤーピース(XS/S/M/L)
伸びはないが音の表情をつかさどる低次倍音域はそこそこ良い
煌びやかな表情や伸びはないが「中高音域」はソコソコあり、ハイハットの音色などは安っぽくはない
クセがあるが曲によっては妙にはまる
情報量は限られているし、同じ中域の音程でもギターはよくてピアノはイマイチだったりするが、ヴォーカル、とくに女性ヴォーカルが聞き取りやすい。限られた情報量がうまく多人数歌唱の騒がしい曲の「埋める音」を「いなし」、いい感じのバランスに落ち着けたりする曲もある。
絶対量不足。デジタル系楽曲でのビートを感じるアタックの速さはあるが。
下は軽い。ただ、速い打ち込みのバスドラなどは(ふくらみがないのもあって)アタックが強く、きちんとビートを描き出す。
狭い...がヴォーカルの周りに小ぢんまりと薄めのバックは悪くないことも
ステージの広さは狭い。ただ、その狭さと限られた情報量とが、うまく多人数歌唱の曲でヴォーカルを際立たせたりするから不思議。
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購入金額
900円
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購入日
2016年02月21日
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購入場所
エディオン
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